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飼い方。

少女は最近新しい勉強をしていた。それは猫の飼い方の勉強である。

面倒を少女が見ると決まった以上、きちんとしなければと思ったらしい。

そうして端末で色々と調べている内に、食事の項目で少女は冷や汗をかいていた。

見た直後はぴゅっという変な声を出して驚いていた程だ。


少女は猫が空腹だからと、良かれと思って野菜を食べさせた。

だが畑にある野菜のいくつかは、猫にとっては毒になる物もあったのだ。

偶々それを選ばなかった少女だが、一歩間違えれば惨事になっていたと震えている。


猫は少女の膝の上に座っており、ぶなぶなと鳴きながら寛いでいた。

寂しがりなのか何なのか、良く鳴く猫である。

ただしその鳴き方は何処か話しかける様子であり、同じ様に鳴く犬とは波長が合うようだ。

顔を合わせてから一度も喧嘩をする様子は無いので、少女はとても嬉しく思っている。


因みに犬は少女が構ってくれる時間が少し減り、少し寂しく感じていたり。

ただ庭で駆け回るなどはいつも通りしてくれるので、そこまで不満に感じてはいない。

その間の猫は他の誰かの膝の上に居る事が多いが、大体単眼が構っている事が多い様だ。

どうやら単眼は猫の不細工さが結構気に入ったらしい。


「このぶちゃいくな顔も、見慣れると可愛いかも」


との事らしい。因みに少女以外には余り賛同は得られていない様だ。

ただし少女はそもそも見た目の不細工さは余り気にしていない。

自分に懐いたか弱い生き物を、守りたくて可愛くてしょうがない、という感じらしい。


猫は犬の背中以外に置いておくと、少女をどこまでも追いかけようとする。

だがその歩みはとても遅く、少女が普通に歩いていても追いつけない。

それが尚の事「守らねば」と強く思う要因になっている様だ。




少女の勉強は今更のように感じるかもしれないが、そこは女が原因でもある。

猫を病院に連れて行った際、飼う為に必要な物一式を揃えてから帰って来ていたのだ。

故に猫に必要な物はエサも含めて全部用意されており、少女が自ら用意する必要が無かった。


そして少女はその素直さ故に、最初は女の指示通りにしていた。

勿論女の教えに間違いはなく、猫も困る事はないだろうという信頼の下。

それでもふと思ったのだ。自分は猫の事を何も知らないと。

故に少女はこうやって、少し遅まきながらも勉強しているという訳だ。


ただしこの猫は普通の猫の常識が通じない可能性が有る事も理解している。

なにせ普通の猫よりも丸いし不細工だし何だか歩き方もかしい。

それを普通の猫と同じ様に扱えば、きっと猫にとってストレスになりかねない。

大体この猫に狩猟本能的な物が有るのかも怪しい、と少女は思っている。


そうして調べている内に、そこに行き当たったのは必然だったのであろう。

手作りの猫ご飯。そんな項目を見つけて目を輝かせる少女。

材料をメモしてポケットに突っ込み、猫を抱えてパタパタと台所へ向かう。

その先に居るのは最早台所の主扱いである複眼だ。


「ちみっこ、そんなに急いでどうしたの?」


複眼は台所に向かって作業をしながら、振り向かずに少女に問いかける。

パタパタと足音を立てながら近づいていたので、軽い足音から誰なのかを察していた様だ。

丁度終わりだったのか、手元にあった物を冷蔵庫に仕舞うと手を洗いながら少女の方を向く。


「あら、猫も連れて来たんだ。どうしたの、そんな楽しげな顔して」


複眼は少女がニッコニコしている様子にクスッと笑いながら再度問いかける。

少女は意識していなかったが、ワクワクが顔に思い切り出ていたらしい。

それに少しテレテレとしながら少女は猫を椅子に座らせ、ポケットからメモを取り出した。

複眼は手渡されたそれを見て、少女が笑顔でやって来た事に納得した様子を見せる。


「成程、猫ご飯。それでそんなに楽しげな様子だった訳だ」


少女はニヘッと笑いながら頷き、複眼をキラキラした瞳でじっと見つめる

これは複眼に作ってほしい、という訳では無い。

ここに書いてある材料を使っても良いか、という事を聞きに来たのだ。


「そうだね・・・作るのは良いけど、毎日は駄目よ。この猫発育不良らしいから、先輩が買って来た餌を食べさせてあげた方が、体には多分良いだろうし」


複眼は少女の期待する瞳を受けながらも、冷静にそう答えた。

事実現状の猫は栄養が足りておらず、それ用の餌と薬を貰っている。

である以上、それ以外の食事に切り替えるなら、綿密な栄養管理が必要になるだろう。


少女はその事を失念していたと、しょぼんとした顔で俯く。

その視線の先に猫が居り、どうしたのという様にぶなぶな鳴きながら少女を見ていた。

なので何でもないよと猫を撫でて返す少女。

そんな一人と一匹の様子を見て複眼はくすっと笑いながら口を開く。


「勘違いしないの。毎日は駄目ってだけよ。そうだね、一週間に一回ぐらいは良いんじゃないかしら。この子もきっと喜ぶわよ」


複眼のその言葉を聞き、ぱあっと笑顔になりながら体全体でわーいと喜ぶ少女。

猫も少女が喜んでいるのが嬉しくて、ぶな~と鳴き声を上げていた。


「ふふっ、仲良いね。それじゃ一緒に作ろうか。それとも一人で頑張ってみる?」


複眼の問いに、出来れば複眼に一緒に居てほしいなーと、上目遣いで窺う様に見つめる少女。

自分一人でやれるならばそれが一番だが、初めての事は失敗が怖い様だ。


「おっけ、じゃあやろうか。作るのは・・・これが一番簡単かな。丁度生利節も有るし」


少女が持って来たメモを見ながら、作る物を決める複眼。

念の為に複数の料理をメモしていたのだ。

複眼は生利節を取り出し、レタスやニンジンなどの野菜も取り出した。


「それじゃあ私は後ろで見てるから、頑張れ」


複眼はあくまで監督だと言われ、少女はハイッと元気よく手を上げる。

そして踏み台を持って来て作業に入った。相変わらず身長が足りない。


「先ずは根野菜を細かく切り、鍋で柔らかくなるまで煮て、その間に別の作業をしようか」


少女は複眼の指示通り、先ずは根野菜を細かく切り始める。

最近は包丁の扱いも慣れたもので、以前よりも危なげなく調理できる様になってきている。

とはいえ軽快なリズムを刻めるほどではなく、休み休みの包丁の音では有るが。


「ん、良いね、これ位細かい方が食べやすいだろうね」


少女は猫が食べるのだからと、かなり小さめに刻んだ。

刻んでからやり過ぎたかとおも思ったが、複眼の言葉にほっとしながら鍋に水を入れる。

そして野菜を鍋にぶち込み、柔らかくなるまでコトコトと煮込みつつ次の作業へ。


「今度は生利節と葉野菜を細かく千切ろうか。これは手でいこう」


複眼に言われた通り、手で細かく千切っていく少女。

先程の野菜と同じ様に、かなり小さめに千切って器に乗せた。

猫はその様子を見て小さくぶなぶなと鳴いてそわそわしている。


「そうしたら野菜が煮込み終わるのを待とうか」


これでほぼ作業は終わりであり、後は野菜が煮込まれるのを待つだけであった。

初心者に優しい物を選んだだけあって、とても簡単である。

そうして待つ事暫く、柔らかくなった野菜を引き上げて一緒に混ぜる少女。


「野菜のゆで汁を、ちょっとだけかけようか。これ位で良いかな」


複眼はおおさじを少女に手渡し、受け取った少女はその通り軽ーくゆで汁をかける。

最後に軽く混ぜて出来上がりー、と少女は器を持ち上げようとするが、複眼がそれを制した。


「熱いから冷ましてからね。そうしないと猫は食べられないから」


と言われ、はっとする少女。それは先程調べた時に知ったはずの事実でもあった。

うっかりで火傷をさせたかもしれない事に、少女はしょぼんとしながら猫を撫でる。

猫は良く解らないけど元気を出してと、少女の手をペロペロと舐めていた。


そのおかげか少女はすぐに復活し、ふんすと気合を入れながらパタパタと手で仰ぎだす。

どうやら風で冷まさせようというつもりらしいが、手では限界が有るだろう。

複眼はクスクスと笑いながらうちわを取り出し、横から仰いで少女を固まらせるのだった。


「ん、これぐらいで良いかな」


食べられる程度まで冷まし、複眼のGoサインも出たので猫の前に器を置く少女。

猫は一体これは何だろうと、最初こそ念入りに匂いを嗅いでいた。

だが暫くするともっちゃもっちゃと食べだし、ぶな~と美味しそうに鳴き声を上げる。


どうやら猫は少女の作ったご飯が気に入ったようで、ずっと鳴きながら食べている。

少女はそれが嬉しくて、これ以上ない笑顔で猫が食べ終わるまで見つめていた。










なお、その様子を犬はじっと見ていた。

僕の分は無いのですね。そうなんですね。というかのような目で。

それに気が付いた少女は慌てて犬ご飯を調べるのであった。

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