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変身。

「見て見て、これ買う為に頑張ったのよ♪」


ある日、買い物から帰ってきた羊角はとてもご機嫌だった。

何やら限定品の、その上予約も出来ない商品を買いに行ったらしい。

その為に前日から有休をとり、店の前に深夜から並んでいたそうだ。


そして無事に目当ての物を手に入れ、これ以上ないぐらいの上機嫌で少女に見せている。

因みに何を買って来たかというと、最近少し人気になった変身ヒーローアニメの玩具だそうだ。

話を聞く少女は良く解っていないが、羊角がご機嫌なので笑顔で話を聞いていた。


「ああ~、買えてよかったぁ~」


羊角は買って来た玩具を抱きしめ、心からの安堵と喜びを見せる。

その様子に大変だったんだねーという様子で羊角の頭を撫で、けどそれが何なのか良く解らず首を傾げる少女。

だが今の羊角にそんな疑問に気が付ける冷静さは無く、目的の物が胸にあり、その上少女に頭を撫でられた事でテンションはマックスに達する。


「天使ちゃんにも付けてあげるわね! 別バージョンのも買ってるから!」


羊角はそう言うと、買い物袋から今抱きかかえている玩具と微妙に違う玩具を出して来た。

そしてそれを箱から出すと、少女の腕に装着させる。

更に自分の腕にも付けると、羊角はバーンと効果音がしそうなポーズをとった。


それはさながらアニメのキャラクターが取るようなポーズ。

腕に付けた物を見せつける様なポーズで立つ羊角を、少女はほへーっとした顔で眺めている。

羊角のテンションと行動に全く付いて行けていない事は間違いないだろう。

ただ羊角が楽しそうなので、ほけっとした顔のままパチパチと小さく手を叩いていた。


「ホラホラ天使ちゃんも。こうやって。早く早く!」


少女がぽけっとしているのを見て、羊角はせかす様に同じポーズをとらせようとする。

完全にテンションが天元突破している様子の羊角に圧されつつ、同じ様にポーズをとる少女。

ただ何か様になっていない。何が悪いと言われると困るのだが、何だか若干決まっていない。

これで良いのかと首を傾げながらなのが余計にそう見えるのだろう。


けど羊角にはそれがツボに入ったらしく、いつの間にか手にしたカメラで撮っていた。

自分がポーズをとる事など早々に放棄し、満面の笑みで少女を撮る羊角

何か間違っていないか不安だった少女だが、羊角が楽しそうなのでニコーッと笑顔で応える。

その笑顔を一枚撮ると羊角は口元を抑えて崩れ落ち、歓喜に震える様子を見せていた。


明らかに奇行の類だが、既に少女は慣れているので特に気にせず、プルプル震えるだけで動かなくなった羊角を措いて玩具を少し触り出した。

壊さない様に細心の注意を払いつつ、どう動くのかを確かめている様だ。


触っている内にボタンらしき物を発見し、押すと機械音的な曲が流れ少女はびくっとしていた。

後は開いたり何だか変形したりするのを確認すると、最終的に少女は真剣に悩み始める。

それは単純に、これで一体何をするのだろう、という疑問であった。


用途が解らないその道具。これを付けた結果何をするのだろうかと。

男の部屋にも玩具は有るが、基本的には何か遊具として使える物が殆どだ。

故に少女はこういった「ただ持つだけの玩具」というのが良く解らなかったらしい。


そもそもこういう物は元ネタが解っている事が前提だ。

少女はこれが何なのか知らず、作品も見た事が無い。

楽しめないのは致し方ないだろう。


ただそれでも羊角が喜んでいる以上、きっと意味は有るのだろうと少女は思った。

なにせ自分も男に貰った端末を持っていると、とても嬉しい気持ちになる。

特に何に使う事が無くとも、持っているだけで嬉しい物。


写真だって実用が有るかと言われれば、ただ眺めるだけの物だ。

それでも女と一緒に映っている写真を眺めると、少女はとても幸せな気分になる。

だからきっとこれはそういう物なんだろうと、少女は一人納得していた。


「何やってんのコイツは・・・」


そこに男がやって来て、崩れ落ちて震えている羊角に冷たい目を向けていた。

少女に目線を移した時には優しい目になっていたが、少女の腕の玩具を見て全てを理解する男。

再度呆れた様な目線を羊角に向け、溜め息を吐きながら頭をかいている。


そこで少女は自分が溜め息を吐かれたと勘違いし、少し焦った様子で男を見上げていた。

ただ視線が腕にいっていた事には気が付いていたので、これが原因なのかと少女は思い至る。

そしてそこから導き出された答えを、再度少女に視線を移した男は見る事になった。


「・・・うん?」


少女は先程羊角がしていた様な自信満々な様子の顏で、ばーんとポーズをとっていた。

何故かポーズをとって自分の前に立つ少女に困惑している男は、微妙な笑顔で首を傾げる。

その様子に少女も間違ったかなとポーズをとったまま首を傾げ始めた。


「ぷっ」


不安げな表情で首を傾げながらポーズをとる少女に、男は思わず吹き出してしまう。

笑われてしまった少女は何故笑われたのか解らず、ほえっとした顔になっていた。

でも何だか男が楽しそうなので、ほっとした笑顔を見せる少女。

因みにこの間もまだポーズは取ったままである。


「くくっ、うん、可愛い可愛い。貰ったのか? 良かったな」


男は笑いつつも少女を褒めながら頭を撫で、少女はほっとした顔で素直に撫でられる。

むしろすり寄る様に撫でられに来るので、男は完全に犬猫を撫でる調子で撫でていた。


「あのー・・・旦那様・・・いえ、良いです。天使ちゃん幸せそうだし」


復帰した羊角はまるで買い与えたのが男かのような様子に口を出そうとするが、少女が幸せそうな様子を見て口を噤んだ。

先程のテンションは消えてしまっているが、今も少女を撮っているので問題は無いだろう。


「うーん・・・失敗した。天使ちゃんに付けて貰うなら服もちゃんと用意すべきだった」


だろうではなく、全く問題ない様だ。

むしろテンションが落ち着いた事で、余計な事を考えている羊角であった。






後日玩具に合った服装を用意され、撮影会が有ったのは言うまでもないだろうか。

少女はその時もポーズをとったが、やっぱり様になっていなかった。

だが使用人達には好評だったのできっと少女は満足だろう。


「天使ちゃんは本当に何しても可愛いわね!」

「うん、うん、解ったから、ちょっと落ち着こうね」


今回も撮影会につきあった単眼は、何時もより数割増しでテンションの高い羊角を宥めていた。

当然効果は薄く、その日はテンションの壊れたままの羊角。

最終的に女の関節技で静かにさせるまで、羊角はおかしなテンションのままだった。

特に格好良くも何とも無いポーズ。

挿絵(By みてみん)

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