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探し人。

「・・・見つけた」


携帯端末を操作しながら小さく呟く男性が居た。

その男は蝙蝠ような翼を持ち、その翼を大きく開いて空に飛び立つ。

だがその翼の大きさは確かに大きいが、どう見ても飛べる大きさには見えなかった。


男性は成人男性の大きさでありながら、翼はその2,3倍程度。

身長は高めで体格も良く、その程度の羽で飛べるようには見えない。

だがそれでも男性は空高く舞い上がり、驚く程の速度で何処かへ飛んで行く。

手に持つ端末を見つめながら、一切の迷いなく。


そしてその手には、一人の少女が映っていた。

とある遊戯場で誰かが撮ったのであろう、可愛らしく遊ぶ規格外な少女が。

SNSに上げられたその動画を、写真を、蝙蝠翼の男は見つめていた。


ただそこで不思議な事が起き、突然データにアクセスできなくなってしまう。

再検索しても少女の動画も画像も一切出て来ない。

動画を上げた者達も困惑している様子が見て取れるが、それも次第に消えて行く。

何故なら動画や写真を上げていた者達のIDも消えていたからだ。


「どうなっている?」


蝙蝠男は滞空しながら端末を見つめ、困惑の呟きを漏らした。

だがそれに応える者も居なければ、自分自身にも答えは無い。

端末を懐に仕舞い、とにかく先程得た情報を頼りに再度動き出す。

先日少女が遊びに行った遊技場へ。












そして話はその数日後の昼過ぎに移る。

その日の少女は少し怯えながら、とある人間を見つめていた。

怯えつつ少年の裾を掴み、何時でも逃げられる様にスタンバイしている。

少年は喜べばいいのか困惑すれば良いのか解らない様子だ。


「ねえ、何かまたお嬢さんに怖がられてるみたいなんだけど、私の気のせいかな?」

「私を襲う様な怖い男という情報を伝えておきましたので」

「嘘でしょ? どう足掻いても私は君を襲うなんて度胸は無いよ?」

「いつもいつも腰を抱いて触って来る男がどの口で」

「それ君の中では襲う範囲に入るのかい。ダンスも踊れやしないじゃないか」


本日は友人が来ており、前日友人が女を襲ったと少女は教えられていた。

屈強な女を襲う様な人という事に脅威を覚えている少女は、何時でも逃げられる様にスタンバイしているのだ。

勿論その際に女も抱えて逃げられるよう、ルートはしっかりと考えている。

少女の周辺だけゴゴゴゴと効果音が鳴りそうな緊迫感だ。


「・・・まあ良いや、取り敢えず今日は急ぎで来たからね。伝えるべき事を伝えて帰るよ」

「珍しいですね。貴方が昼頃に来る時点で珍しいですが」


友人は溜め息を吐いて自分のイメージ払拭を諦め女に向き直る。

その様子に女は真剣な表情になり、少し普段と違うという事を感じていた。

そもそも今は昼過ぎ。朝からいきなり訪問して来る友人にしては珍しい時間。

友人は女の雰囲気が変わった事確認してから、鞄から分厚い封筒を取り出した。


「これを渡しに来たんだ。念の為直接ね」

「これは・・・」


渡された封筒を開き中を確認する女。

大量の書類を途中まで確認して、男に目を向ける。

そこには少女に関するデータを消去した報告書だった。

勿論法に触れず、後始末も問題起きないように。


「感謝します。旦那様はこういう事には手が余り無いので」

「ああ、良いさ。他でもない君の為だからね。もし感謝してくれているなら私に一晩付き合ってくれると嬉しいかな?」

「良いですよ」

「えっ、ほんとかい!?」


まさかの女の了承に友人は人生最高かもしれない笑顔を見せた。

だがしかし、次の瞬間一瞬で表情が削げ落ちる事となる。


「何時でも屋敷にどうぞ。夕食ぐらいご馳走致します」

「・・・私は泣いて良いかな。良いよね。今物すっごく期待したんだけどなぁ」


友人は女の返答にテーブルに突っ伏し泣き崩れる。

勿論女は鈍い訳では無く、完全に解っていて応えていた。

それでも感謝の気持ちは本物であり、当日は全力で歓待されるだろう。

ただし口の悪さは変わらないとは思うが。


「では、これは後で旦那様に―――」

「待った、最後までザットで良いから確認しておいて」

「―――解りました」


封筒に書類を仕舞おうとして、友人が少々強めの声音で止めた。

不思議に思う女だったが素直に聞き、再度書類に目を通し始める。

そして最後の方の書類を見た所で女の目が険しくなった。


「これは・・・本当ですか」

「ああ、暫く大人しくしておいた方が良いかもしれない」

「・・・面倒な。色々やらせてあげたいと思っていたのに」

「それも解って手元に置いてる、でしょ。しょうがないしょうがない。その代わり困ったらいつでも頼ってよ。君の頼みなら、叶えられない願い以外は叶えてみせるよ?」


ドンドン眉間の皺を深くしながら語る女に向けて、おどけた様に告げる友人。

それが本心だという事は知っている。友人がこういう人物だという事は解っている。

だからこそ女は友人に余り頼れないのだが、そこは二人の複雑な関係故だ。


友人が本気だからこそ、女は友人に期待させる態度は取りたくないと想っている。

自分の身の上を考えればなおさらだ。女は見た目が人間でも中身は化け物だ。

それでも尚こうやって想い続けて来る友人に、偶に倒れ込みそうになっている自覚があった。

有るからこそ女は男以外には頼らない。自分を殺す約束をしてくれた弟以外には頼れない。


「対価は払いますよ。友人価格で申し訳ありませんけどね」

「いやいや、全く構わないさ。君の頼みだからね」


対価を払う事で少しでも躱したい。そんなささやかな願いさえこの友人はさせてくれない。

本当なら結構な金がかかっているはずだ。その支払いもさせてはくれない。

ならば女は今まで通り、長年の友人として、友人らしく振舞い続ける。


「じゃあ話は聞きました。とっととお帰り下さい」

「えっ、手のひら返すの早過ぎない? まだお茶も飲み切って無いよ?」

「早く飲んで下さい。何なら頭から飲んで下さい。ポットの残りも全部飲ませてあげますよ」

「それ頭からかけるって言ってるだけだよ。しかもそれ保温の良いやつだからまだ中身熱湯だよね? ちょ、待って待って! 本当にかけようとしないで!」


友人はお茶をグイッと飲み干し、鞄を持って去り際に女に投げキッスをして去って行った。

それを見送ってから女は溜め息を吐き、書類をぎゅっと握る。

そこに書かれている情報に憂鬱な想いを持ちながら。

最近遊技場に来たという少女を捜している男の情報が、書類には書かれていた。


面倒な予感しかしない思いを隠しながら少女の顔を暫く見つめ、書類を男の部屋に置いて来るように指示。

少年は何故か握られたままなのだが、少女は気にせずお使いをこなしに走るせいで引きずられ気味に付いて行く。


「あの子を捜している、か。碌な物ではない予感しかせんな」


少女を見送りながら小さく呟き、今後の対策を考える女だった。

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