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複合遊技場。

「・・・ねえ、私帰って良い?」


複眼はとある建物を眺めながら隣に居る彼女に問いかける。

その問いに彼女はにっこり笑うと、複眼の腕をぎゅっと抱きしめた。


「駄・目。帰っちゃ嫌♡」


相手が男性なら落ちてしまうであろう声音と仕草で告げる彼女。

見せつける様に露出している谷間に複眼はイラッとしている様だ。

複眼は顔を顰めながらべりっと彼女を引きはがし、再度建物に目を向ける。

目の前に有る建物。それは複数のスポーツが出来る巨大遊技場であった。


話の起こりは羊角が買い物に出た際に、店頭で割引券を貰ったという事だ。

それを聞いた彼女が遊びに行こうと言い出し、傍にいた少女に楽しいよーと話した所、キラキラした目で羊角を見つめる事になった。

完全に「行くの? ねえ行くの?」と散歩を期待して見つめるワンコである。

そんな瞳を向けられれば、羊角が二つ返事で返すのは当然だろう。


共に居る面子は彼女と羊角と少女。

どう考えても複眼が面倒を見る羽目になる気配が強い。

せめて単眼が共に居れば違ったのだろうが、単眼はこの手の施設はあまり好きではない。

何故なら単眼サイズ仕様の遊戯具が少ない事が多いからだ。


「嫌な予感するなぁ・・・」


複眼はそう呟きながら、ルンルン気分で羊角に手を引かれていく少女を見つめる。

羊角はでれっとした顔でエスコートしており、全く頼りにならないだろう。

とはいえここで引き返すのも何だか癪だと思った複眼は、再度腕を組んで来た彼女と共に少女に付いていく。


四人で入って受付に向かい手続きを済ませると、先ずは何処で遊ぼうかと地図を眺める四人。

フットボールやバスケットなどの球技が出来る所や、ボルダリングが出来る所やマット運動が出来る所も有る様だ。

地図に描いてあるそれらの可愛らしいイラストを見て、少女はとても目を輝かせていた。

何するの、ねえ最初は何するの、と言った様子で腕をパタパタさせている。


「最初は準備運動でも軽くしに行く?」

「そうね、私達はともかく、一人不安なのが居るしね」


彼女と複眼の視線は羊角に向いている。

普段運動している姿を見ないので、その心配は当然ではあるだろう。

少女も何となくその事を察し、二人の提案に頷いて付いていく。

だがそこで、二人は信じられない物を目にする事になった。


「なっ!?」

「そんな馬鹿な・・・!」


足を開いたまま、ペタッと地面に体をつける羊角の姿がそこに有った。

その様子からは運動不足は見てとれない。普段からしっかりと柔軟をしている事が良く解る。


「ふふっ、甘いわね。私が天使ちゃんの撮影をする為に、今まで何もせずに居たと思う?」

「・・・え、撮影にそれ要る?」

「・・・突っ込んだら負けよ」


どや顔で言う羊角であったが、笑顔を向けているのは少女だけである。

彼女と複眼は意味の解らない理由に冷めた目を向けている。

当人である羊角は少女に背中を押して貰ったり、逆に補助をしたりとご満悦だ。

因みにしっかりと撮影許可を貰っており、カメラは設置済みである。


「さって、んじゃあまずは何しに行こっか。角っこちゃん何かやってみたい物ある?」


準備運動も終わって彼女が訪ねると、少女は首を傾げながら地図を見る。

そしてすぐにワクワクした顔を見せながら、トランポリンを指さした。


「お、良いね、行こう行こう」


少女の要望に否という理由もなく、皆でトランポリンの有る場所に向かう。

そこには大きなトランポリンが置いてあり、皆が楽しそうにピョンピョン跳ねていた。

それを見た少女はテンションが思いっきり上がり、トランポリンの中にパタパタとかけて行く。


「あっ、ちみっこ、待っ―――」


複眼は静止させようと手を伸ばすが少し遅かった。

既に少女はトランポリンに飛び乗り、そして刎ねて、跳ねながら転がっていく。

暫くころころと転がってから止まり、少女はワタワタとしながら立ち上がろうとする。


だがトランポリンとは不安定な足場であり、複数人が使っているという事は常に揺れている。

バランス感覚の無い少女がそんな所に立てばどうなるか。

当然またコロンとこけて転がっていく。立ち上がってはコロン。立ち上がってはコロンと。

最早普通に立つ事もままらない少女であった。


「はぁっ・・・! 何あれ可愛い・・・!」

「あはははっ、頑張れー」


立ち上がっても立ち上がってもこける姿に羊角は満足そうだ。

口元を抑えて泣きそうな顔をしながら悶えている。

彼女も可愛らしいと思っている様で、危険も無いと思って応援をしている。

少女に手を貸す様子は見て撮れない。


確かに小動物が上手く動けずに転がっている様に見えて可愛いのだろうが、当の本人は必死な顔である。

その様子を見かねた複眼が少女の傍まで行き、取り敢えず立てる様に支えてあげた。

そしてそのまま少女と共に軽く跳ね、着地も上手く足から降りれるようにバランスを取ってあげている。


普通に飛ぶのとは少し違う感覚に、少女はにこーっ複眼に笑顔を向けていた。

どうやらこれでも少女には満足な様だ。

そして暫く跳ねていると、何とか少女一人でも跳ねる事は出来る様になった。

ただし着地がちゃんと出来ないので、一回跳ねるとこけて転がっていくのだが。


それでも少女は満足そうで、笑いながら転げまわっていた。

ある程度少女が転げまわった所で羊角が声をかけ、また違う所へ向かう。

折角複合施設に来たのだし、色々やろうという事の様だ。

笑顔で少女から手を握りに来る様子に、羊角はそのまま昇天しそうな程幸せであった。


「はー・・・面白かった」

「アンタ端っこでちみっこの事眺めてただけじゃない」

「いやだって、あたし今日スカートだし。高く飛び跳ねるのはちょっと」

「何しに来たのよアンタ・・・」


ひらひらとスカートをつまんで揺らす彼女に複眼は頭を抱える。

因みに羊角と複眼はパンツルックであり、少女はスカートだが中に短パンを穿いている。

この調子だとやっぱり疲れる事になりそうだと思いつつ、少女に付いて行く複眼であった。


「天使ちゃん、今度はボーリングでもやってみる?」


羊角の問いに楽しそうにコクコクと頷く少女。

おそらく今の少女は何と問いかけても頷くであろう。

その輝く笑顔に羊角は段々心が浄化されて行く感覚を覚えていた。

ただ撮影の手を止めていない辺り、羊角の気のせいだろう。


ボーリング場に向かい手続きを済ませ、靴を履き替えてレーンに入っていく。

ただ複眼は、ここで少し不安になっていた。

少女の力の強さから、ボーリングの球を投げたら大変な事になるのではと。


実際少女は一番重い球を片手で軽々と持ったのだ。気軽にひょいっと。

指のサイズが合わずに小さい物にしたので、余計に軽く感じているだろう。

少女にとってはボーリング玉であろうと、おそらく野球ボール程度の感覚なのだ。


「ちみっこ、あんまり力ずくで投げちゃ駄目だからね?」


投げる前に複眼にそう言われ、コクコクと素直に頷く少女。

当然少女も、こんな物を全力で投げれば危ないと解っている。

これは固いし普段持っている物よりはちょっと重いのだからと。

その様子に心配し過ぎだったかなと、複眼は安心しながら腰を下ろした。


その間に羊角と彼女がボールを投げており、二人共ストライクを出している。

少女は二人の投げ方を見て、成程こうすれば良いのかと動きを真似ていた。

そして少女の番が回って来て、ボールを手に持ちレーンに立つ。


ゆっくりと重さを感じない様子でボールを後ろに上げ、先程見た動きを真似て下手で投げる。

だが、少女も複眼も肝心な部分に気が付いていなかった。

少女はこれが余り力を入れ過ぎてはいけない物だと解っている。

解ってはいるが、どの程度抑えれば良いかが解っていなかったのだ。


結果、大人でも出せない速度で球は転がって行き、周囲の人間が驚いて全員目を向ける程の衝撃音が鳴った。

やってしまった少女も投げた体勢のまま固まっている。因みに豪快なガーターである。


「あー、そりゃ店員飛んで来るか・・・大丈夫じゃなかった・・・」


凄まじい轟音に驚いて店員が確認しに来て、プレイは一時中断となる

ただそこまで大事になりそうな損傷は無かった様で無事ゲームは続けられた。

少女は必死にペコペコ頭を下げていたのも、店員が甘く見てくれた理由かもしれない。

申し訳なさげな様子で胸元をぎゅっと握り、上目使いで涙目な少女の破壊力は絶大だろう。


「ちみっこ、さっきより力は弱くね?」


少女はその言葉にコクコクと頷き、今度は大分抑えてボールを投げる。

すると今度は弱過ぎたのか頼りなさげな感じに転がって行き、結局ガーターになった。

だが少女は今度こそ問題無く投げられた事が嬉しかった様で、一本も倒れてなくてもニコーっと笑顔を見せていた。

そんなこんなで一ゲームが終わり、少女の点数は18点であった。でも本人は満足だ。


この後また別の所に向かうが、少女は終始この調子で、最初は何かをやらかしていく事となる。

ダーツをやれば一投目でボードを外して壁に当てた上にめり込ませ、フットボールをやれば余りの威力にゴールが吹っ飛んでいき、ボルダリングでは必死に握ったせいか足場を握り砕いた。

幸い事故として済ませてくれたが、もうこの遊技場には来れないなと思う複眼である。


他にもピッチングが出来る所で壁に穴をあけたり、アーチェリーで弦を引き過ぎて千切ったりなどもしたので、もし損害賠償を請求されたらと思うと気が気ではない。

ビリヤードなど、テーブルに穴を開けて完全に一つ駄目にしてしまっている。

むしろこれで損害請求をされなかった事が奇跡だと思っている程だ。


因みにゴルフなども有ったが、地面を盛大に叩いてクラブを折る未来しか見えなかったのでやらせていない。

下手をすれば床にも大穴が開く事だろう。


「はぁー・・・楽しかったね、角っこちゃん!」

「そうねー、今日は新しい天使ちゃんが一杯撮れて私も満足だわぁ」


だがそんな複眼とは正反対に、とてもやり切った様子の彼女と羊角。

少女は失敗をして迷惑をかけた自覚は有るものの、今日が楽しかったことは事実である。

それに今は両隣に居る二人がとても楽しそうで、つられて笑顔でコクコクと頷いて返していた。


「・・・子供三人の面倒見てる気分だった」


ただ一人、複眼だけが疲れ切って帰宅をするのであった。

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