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少女の相棒。

畑に有るビニールハウスには蜜蜂の巣箱が有る。

ビニール栽培をすると決まった際、老爺が養蜂をやっている知り合いに頼んで借りている物だ。

少女は今その蜂の為の食事をせっせと作っている。


ビニールハウス内で蜂を長生きさせる為には、定期的に食事を用意しないと餓死してしまう。

用意する物は砂糖とお湯。それを入れる器になる物と、水に浮かぶ藁などの蜂の為の足場だ。

砂糖とお湯を一対一で混ぜ、藁を乗せて完成。

流石に少女でも簡単に作れるので、気を付ける所はお湯で火傷しない事ぐらいだ。


器を慎重に持ち、こぼさない様に気をつけながらハウスに向かう少女。

ポテポテ歩く様は少々横に揺れており、周囲の者達にしてみれば心配この上ない。

だが誰も代わりに持とうなどとは言わず、少女自身の意思を尊重してやらせている様だ。

因みに一リットル程度なので重い訳では無く、単に少女の歩き方のせいなだけである。


そして無事ハウスに辿り着き、端っこに置いてある巣箱の傍に器を置いた。

ただそのままだと蜂が気が付かない時が有るので、ちょろっと出入り口にこぼしておく。

こうしておくと匂いの無いこの食事でも、蜂が気が付くという訳だ。


春~秋の間であれば外に出してあげれば良いのだが、蜂は冬の寒さに耐えられない。

そもそも寒いと巣の中以外の活動をしなくなるので、こうやって食事の用意が必要なのだ。

とはいえ冬以外は勝手にどこかから蜂なり何なりの虫が飛んで来るので、外の畑に巣箱の用意など要らない訳だが。


ぶううううんと独特の音を鳴らしながら飛ぶ黄色い虫。

少女はこの蜂達に愛着が沸いていた。

勿論借り物巣箱で定期的に持ち主が回収に来るので、同じ蜂では無いと解っている。

それでもこの畑を一緒に作ってくれる相棒だと思うと、とてもほっこりした気分になる様だ。


それにミツバチのモコモコした見た目もお気に入りの様で、とっても可愛いと良く眺めている。

出来れば撫でたいなーとも思っているが、そうすると蜂が驚いてしまうのでぐっと我慢の様だ。

たまーに傍に寄って来る蜂を手に乗せる程度で済ませている。


尚少女は邪気が無いせいなのか何なのか、蜂にどれだけ近づいても刺された事は一度も無い。

むしろ蜂の方から寄って来て少女に止まる事もしばしば。

頭や肩に蜂が止まったまま畑仕事をしている事も有り、巣箱の持ち主も少し驚いていた。


「調子はどうだい?」


のんびりした様子で老爺がハウスに入って来たので、少女はぺこりと頭を下げて挨拶をする。

そしてポテポテと実のなっている辺りに移動し、実の一つを老爺に見える様に手に乗せ、成果を嬉しそうに見せた。

ニッコニコした様子の少女に、老爺の笑いじわが更に深くなっている。


「うん、良い感じだね。外の冬用の作物も悪くないし、お嬢ちゃんは緑の手の持ち主だねぇ」


緑の手の持ち主と言われ、少女はじっと手を見る。

そこには血行が良いせいなのか、少しピンクのかかったペールオレンジの両手。

けして緑色ではないし、緑色の何かが出て来た事もない。


「ははっ、緑の手というのは、作物を育てるのが上手な人、という意味だよ」


両手をじっと見ながら首を傾げる少女に、老爺はクスクスと笑いながら説明をする。

少女は知らなかった言葉にほへーっと少し呆けた顔を見せ、両手を再度見てニコーッと笑う。

そこに少女の機嫌の良さにつられたかの様に蜂がやって来て、手に止まって来た。

手の甲の上でもそもそと動く蜂に、君も頑張ったもんねーっと笑顔を向ける少女。


「ふふっ、この子達もお嬢ちゃんが居るから張り切ってるのかもしれないねぇ」


蜂たちにそんな意志があるのかどうかは解らない。

それでも何となく、老爺はそんな風に感じた。

少女もそうだったら良いなと思いながら、ニコニコと蜂を眺めるのであった。

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