出来る使用人
「はい、出来た。この書類あいつに持って行ってくれ」
男に頼まれ渡された書類を受け取り、恭しく一礼をして部屋を去る。
そしてカツカツとヒールの音をさせながら、女の下へ書類を届けに行く女性が居た。
その女性は額に大きな角を持つ女性で、少女の成長した姿に見える。
「ああ、これか。お前が言うと旦那様は素直に聞くから助かる。早めに出せと何度も言っているのに、私が言っても聞きやしないからな、あの男は」
書類を持って来た事を褒めつつ、男の事にブチブチと文句を言う女。
そんな女に苦笑しながら女性は部屋を離れ、二人にコーヒーを用意する為に台所へ向かう。
「あっ、角っ子ちゃーん! 聞いてよぉ! 酷いんだよぉ!?」
そこには複眼と彼女が先に居た様で、何かが有ったらしく彼女が涙目で抱きついて来た。
自分より少し低くなった彼女の頭を撫でながら複眼に目を向けると、複眼は溜め息を吐く。
「アンタね、いい加減ちみっこの後ろに隠れるの止めなさいよ」
「後ろじゃないですもーん。胸の中ですもーん」
「アンタねぇ・・・」
どうやら嘘泣きだった様なので、女性はぺりっと彼女を引きはがす。
そして複眼にはいっと手渡し、コーヒーを入れる事を優先した様だ。
「ああん、角っ子ちゃん酷い!」
「酷くない。あんたはちょっとこっち来い」
複眼に連行される彼女に手を振って見送り、静かになった空間でコーヒーを入れる準備をする。
既に粉にしたコーヒー豆を取り出し、ドリップでコーヒーを入れるようだ。
その匂いにつられたのか、単眼と羊角がひょこっと顔を見せた。
「おチビちゃん、コーヒー淹れてるの?」
「良いなー、天使ちゃんのコーヒー飲みたいなー」
女性は羊角の言葉にくすっと笑い、傍にある椅子を軽く引く。
そして出来上がったコーヒーを置いて、傍に砂糖とミルクも用意した。
「わ、良いの?」
女性は羊角に優しい笑みを見せながら頷き、単眼に飲むかと首を傾げながらカップを指さす。
お湯は二人分沸かしていたので、残りを単眼の為に使うつもりの様だ。
単眼は誘いに笑顔で頷き、自分用の椅子に座った。
「はぁ~生き返る~・・・天使ちゃんのエキスが入ってる・・・」
「入ってない入ってない。でも本当に上手になったね、おチビちゃん。もう大きくなったし、おチビちゃんって呼んじゃ駄目かな?」
「台所の主は相変わらずちみっこって呼んでるし、良いんじゃないかしら。それに貴方にとっちゃ変わらずおチビちゃんでしょ。ね?」
女性は羊角の問いかけに笑顔でコクンと頷き、単眼のコーヒーをテーブルに置く。
そしてまた男と女用のお湯を沸かしながら、二人へ持って行くお菓子の用意を始めた。
既に作っておいたパウンドケーキを切り分け、可愛らしい柄の皿に乗せていく。
「何やらせても手際よくなったよねぇ、おチビちゃん」
「そりゃあ天使ですから」
「何で貴女が自身満々に答えるの・・・」
二人の会話にクスクスと笑いながら、それでも褒められた事を誇らしく思う女性。
ついでに青年の分のコーヒーも入れてあげようと、カップを用意した所で単眼の呼ぶ声が聞こえ――――。
「―――ちゃん、おチビちゃん、そんな所で寝たらまた風邪ひくよー」
はっと顔を上げ、きょろきょろと周囲を確認する少女。
自分の手を見ると先程より小さくなっており、声をかけて来た単眼が更に大きくなっていた。
いや、手どころか足も小さいし、靴はヒールなどではなく踵が潰れている。
少女は何が起こったのかと考えを巡らせ、段々と頭が覚醒していく。
「どうしたの、おチビちゃん、何時も以上にぼんやりお目目だよ」
少女は自分が寝ていたのだと、そこで気が付いた。
箒を手に落ち葉を片付けようとして、立ったまま寝ていた様だ。
つまりさっきまでの出来る女性は、夢の中の自分だったのだと。
「おチビちゃんはまだまだ目が離せないねー♪」
少女を抱きかかえながらの単眼の言葉に、夢の自分との差に少し悲しくなる少女であった。