不思議な行動。
「ねえ、あれ何やってんのかな」
「わ、私に聞かれても・・・」
庭で起きている光景を見ながら、困惑した様子でひそひそと話す彼女と単眼。
それもそのはずで、庭では少女が不思議な行動を続けていた。
空に向かって手を伸ばしてぐーっと伸びるような動きをしたかと思えば、今度は蹲って祈る様な体勢になり、かと思えばボディービルのポージングの様な動きも見せている。
ただそれだけなら「また何かやり出したのかな」と割といつもの事だと慣れた物なのだが、今日は少し様子が違う。
普段なら少女は大抵笑顔か疑問顔で何かをしているのだが、今日はずっとしかめっ面なのだ。
「今度はヨガのポーズやりだしたよ、角っ子ちゃん」
「あ、こけた」
片足立ちでの手を上に伸ばした結果、そのままコロンと転ぶ少女。
バランス感覚が相変わらず無い少女にはヨガのポーズは無理な様である。
暫く転がって空を眺めていたかと思ったら、今度はそのまま横にゴロゴロと地面を転がり出す。
そしてうつ伏せの状態で止まったかと思ったら、今度は手足をバタバタと動かし始めた。
「何かストレスでも溜まってるのかな、角っ子ちゃん」
「貴女が悪戯し過ぎるからじゃないの?」
「そんな事無いもーん、あたしと角っ子ちゃんはいつも楽しく遊んでるもーん」
「遊んで貰ってるの間違いだと思う」
二人は少女の行動が良く解らず悩んでおり、とりあえず遠巻きにこうやって様子を見ていた。
羊角は二人より先にカメラを構えてスタンバイしていたが、先程複眼に仕事で連行されカメラだけが残っている。
複眼は少女の様子をちらっと見て何かを察した顔を見せていたが、皆少女しか見ていなかったのでそれには誰も気が付いていない。
「動かなくなったね」
「もしかしておチビちゃん、あのまま寝ちゃった?」
「角っ子ちゃんなら有りえる」
「有りえるじゃなくて、この寒空の中寝たらまた風邪ひいちゃうよ」
単眼は少し焦った様子で少女の下へ駆けより、彼女もその後を付いていく。
すると単眼が手を差し伸ばそうとした所で少女はむくっと起き上がり、キョトンとした顔で単眼を見て首を傾げる。
そして差し伸ばされた手を見て更に首を傾げるも、何となく手を取ってニコッと笑った。
「う、うん?」
単眼は良く解らず首を傾げつつ笑顔を返す。
お互いに笑顔で首を傾げるという、変な絵面が出来上がっていた。
「角っ子ちゃん、何か悩み事ー?」
少女の機嫌が悪い訳では無いという事をそれで察し、彼女はストレートに尋ねる。
だが少女は一瞬何かを考える動作をした後に、首をフルフルと横に振った。
「お、隠し事かー? ちょこざいなー。正直に言わないとこうだぞー」
彼女は少女の様子に何か隠していると思い、脇腹をくすぐり出した。
それでも少女は笑いながら首を振り、彼女はちぇーっと言いながら手を止める。
そして少女を抱き上げ、顔を見ながら笑顔で口を開く。
「ま、良っか。本当に悩んでるなら言いなよ。おねーさん達は頼りにはならないけど、出来る限り力になるからさ」
「あはは、そこは頼りにしてっていう所じゃないの?」
「ふっ、あたしが頼りになると思うのかい?」
「自分で自信満々に言うんだ・・・」
彼女の本気なのか冗談なのか解らない言葉に単眼が笑い、少女もつられて笑いだす。
その顔は何時もの少女の笑顔だと思え、彼女は表情には出さずに安堵していた。
実は朝からしかめっ面だったので彼女なりに心配していたのだ。
勿論それは他の住人達も同じではあるのだが、余りに何時までもしかめっ面なので話しかけられずにいた。
唯一男だけは訊ねはしたのだが、それも首を横に振られたので何も聞けずじまいである。
「そうね・・・何に悩んでるのかは無理に聞かないけど、お手手がこんなに冷たくなってるから、今日はもうお部屋に戻って暖かいお茶でも飲もう?」
手を取って言う単眼の言葉に少女は素直に頷き、彼女に抱えられたまま屋敷に戻る。
その間お互いの頬をくっつけて「角っ子ちゃんの頬つめたーい」と遊んでいた。
彼女が抱きかかえ、少女の手を単眼が握り、手を軽く振りながら歩いている。
歩きにくい事この上ない様に見えるが、本人達は楽しそうなので問題無い。
少女は別に機嫌は悪くはないので、二人の優しさに笑顔で応える余裕は有る。
単純明快に、先日の角の事を悩んでどうにか出来ないかとじたばたしていただけなのだから。
あのしかめっ面は疑問の顔を通り過ぎた顔をしていただけであった。
複眼は何となくそれを察したからこそ、特に声をかけずに去って行ったのだ。
勿論少々心配はしていたが、また行き詰まったら誰かに助けを求めるだろうと思っている。
今何も言ってこないという事は、一人で頑張ってみようと思っているのだろうと。
そして少女はその通り、今はなるべく一人で頑張ってみるつもりだ。
少女は結局の所、この角は良く解らない物なのだと受け入れたらしい。
その上で「こう、念じて、どうにか、出来ないかな」と頑張っていた様だ
結果が先の変な動きなので、成果は無い上に心配をかけてしまっていたが。
そんなこんなで暫く少女の奇行は続くのであった。