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怖い料理。

今回の話、苦手な人にはとても苦手な物が出てきます。

その事をご理解の上お願い致します。因みにG系の話です。



「どうぞ、旦那様」


夕食時、複眼はにこやかな笑顔を見せながら蓋の付いた皿を男の前に置く。

普段の女にも似た静けさは無く、今の複眼はとても上機嫌に見える。

そんな複眼の様子を見て、男はとてつもなくテンションが下がっていた。


「・・・何で、蓋が付いてんのかな」


男はその理由を良く解っているのだが、それでも問わずにはいられなかった。

だが問われた本人はその答えを口にする事はなく、ただ笑顔で立っている。

その反応も男は解った上での問いだったのだが、予想通りな事に更にテンションの下がる男。


助けを求める様に女と少女に視線を向けるが、女は当然のごとく無視。

少女は解っているのかいないのか、男の様子を不思議そうに首を傾げながら見ていた。

この二人に助けを求めるのは駄目だと思った男は意を決して蓋に手をかける。

かけるが、中々その手が上がらない。重りが付いているかのように動かない。


「開けたくねぇ・・・」


思わず男は呟くが、傍で複眼が笑顔の威圧をしていて逃げられない。

再度助けを求めて女に視線を求めたが、やはり完全無視で助ける気は一切無い事が解る。

少女は何故男がそんなに困っているのかそもそも解っていない様にしか見えない。


「くっそ・・・!」


男は今度こそ意を決し、蓋を開ける。

そしてその中身を見て蓋を戻した。


「・・・まじで?」


覚悟はしていた。複眼がにこやかに持って来た時点できっとゲテモノ料理だろうと。

珍しく蓋をして持って来ている辺り、絶対にゲテモノ料理だとも思った。

だが流石にこれは辛いと、男は頭を抱える。


「旦那様、ちゃんと味見はしていますので味は保証しますよ?」


複眼はにこやかに言い放ち、男はそれに更に頭を抱えてしまう。

その言葉は事実であり、今までだって不味い物が出て来た事はない。

と言うか、中にはぱっと見ゲテモノと解らない物もそれなりに有った。

だから尚の事油断できないのだが、今回はそんな生温い物では無かった。


「ゴキブリ・・・!」


今日のメインはゴキブリ炒めであった。

それもしっかりと姿焼きの、かなりでかいやつだ。

野菜も一緒に炒められているが、ささやかなカモフラージュにもなっていない。


「ちゃんと食用ですから安心して下さい」


複眼の説明に、何もそんな事を心配している訳じゃないと男は言い返したい。

だがあまりの衝撃に声が出ず、只々そこで頭を抱えてしまっている。

そして溜め息を吐き――――また溜め息を吐いた。と言うか溜め息しか出て来ない。


「ほら旦那様が食べないと、ちみっこが食べられないじゃないですか。旦那様が開けたからちみっこも蓋を開けてしまっているのに」


複眼に言われて少女に目を向けると、確かに少女も蓋を開けていた。

そして何の嫌悪も抵抗感も無い表情で、本気で不思議そうに男を見ている。

男はその事にまた溜め息を吐き、そしてまた溜め息を吐く。

ただただ溜め息を吐く生き物と化している。


「ああ、クソ、解ったよ、食うよ・・・!」


男は蓋を開き、それと対峙する。

それはゴキブリ炒めなのだが、若干揚げ物に近い様子も見て取れる。


「表面をパリッとさせる為に、少し油を多めに炒めました。食感は悪くないと思いますよ」


複眼の説明を聞きながらフォークを突き刺すと、確かにサクッとした感触があった。

そして恐る恐る口に入れ、若干涙目になりながら咀嚼する。

すると説明通り表面はパリッとしていて食感は良く、そして味も中々に悪くない。

というか美味い。勿論味付けの影響もあるのだろうが、ゴキブリ自体も中々良い味だ。


「ね、美味しいでしょう?」

「美味いのは・・・認めるけど・・・」


問題は味がどうこうではなく、只々その見た目だと思う男。

男はそこで少女の様子を見ると、少女は一切を気にせずゴキブリを食べていた。

むしろ美味しそうに、とてもご機嫌にもっしゃもっしゃと食べている。


様々な知識への偏見の無さは、こういった食事にも表れている少女であった。

ただ男は見ていなかったが、ふたを開けた瞬間だけは少女も少しテンションが下がっていた。

それは男と違いゴキブリだからではなく、姿焼きだったせいだ。


勿論普段食べている物が生き物だという事は良く解っているが、今日は沢山の生き物が使われたんだなと解る事でテンションが落ちていたらしい。

だがこうやって食卓に上がった以上、ありがたく感謝して頂く少女であった。

とは言っても、食事の最中は美味しくてそんな事は頭から何処かに行っているが。


「ああもう、解ったよ、ちゃんと食べりゃいいんだろ!」


少女の食事を見ていると何だか自分が情けなくなった男は、そう言って全て平らげる。

やり切った充実感は無く、ただひたすらにもう出さないで欲しいと願う男であった。










因みに使用人達の夕食にゴキブリは出ていない。

出すと単眼が暴れる為出していないのだが、男がその事実を知る事は無いのであった。

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