調子の変化。
心地良い季節だと思っていたのも束の間の事、あっという間に寒い時期がやって来た。
そんな最中でも少女は元気に走り回り、畑仕事も張り切っている。
張り切っているのだが・・・最近の少女は少々様子がおかしかった。
「おチビちゃん、大丈夫?」
単眼の問いかけにコクコクと頷く少女であったが、その様子は全く大丈夫ではない。
とは言っても住人達が焦る様な事は特になく、むしろ微笑ましく思いながら様子を見ている。
「んー、全然大丈夫じゃないね」
そんな少女を見つめながらくすくすと笑う単眼。
少女はそれにプルプルと横に首を振るが、それも動きが緩い。
そして話しかけずに暫く放置しておくと、少女はコックリコックリと船をこぎ始める。
最近の少女はこの通り、良く寝る様子が見られる様になっていた。
それは今迄の様に陽気に負けて眠るという様な物ではなく、むしろそんな物は関係無く眠たげにしている。
その可愛い様子には誰も危機感を感じていないし、感じる事は無いだろう。
この時期に畑仕事をしている途中でも時々眠そうにしている辺りは少し危険ではあるが。
「最近よく寝るねぇ・・・」
「この間の疲れが今頃出たのかもね。結構暴れたらしいし」
完全に頭がテーブルに落ちてしまっている少女を眺めながら単眼は楽し気に呟き、複眼は今の少女の状態の原因の予想を語る。
「それが原因なのかな?」
「さあ。単純にそれしか理由が思いつかないだけ」
「ああ、成程」
単眼の問いにシンプルに応える複眼だが、実はその答えは案外間違っていない。
少女は女との殴りあい以降、少しばかり良く眠る様になっている。
事件後すぐは女と共に居る時間が多く、女の膝で寝ていたりなどした為余り気にならなかった。
だが普段通りの仕事を始めてからも、少女は良くウトウトした様子を見せている。
それはひとえに、力の回復をしているからであった。
力の消耗により普段の稼働にも体力を普段より消耗し、普段よりよく眠る様になっている。
そしてそれは他の部分にも影響が出ていた。
「そういえばおチビちゃん、力が入ってない時が有るのよね」
「ああ、足腰に力が入ってない時あるよね。偶にふらついてる」
「それもそうなんだけど、普段から前より力が弱い気がするの」
二人の言う通り、最近の少女は前程力が強くなくなっていた。
勿論犬に付いて走れるぐらいの体力も脚力も健在だし、力も普通の人に比べれば強い。
だがそれは帰って暫くするとねじが切れた様に眠る事も多く、偶に瓶の蓋が開けられず顔を真っ赤にして頑張っている少女も見受けられる。
ただふらついているのは少女のバランス感覚の無さが原因であり、力が入っていないせいで余計にふらついているのだった。
「むしろそれが普通で、普段の力が強過ぎなんだと思うけど」
「あはは、それは確かに。あの小さい体には不釣り合いな力だもんね」
複眼は少女の飲みかけのミルクを片付けつつ今が普通と言い、単眼も笑顔で同意しながら少女を起こさない様に抱える。
単眼の大きな腕は安定していて寝やすいのか、少女は気持ち良さげに腕に抱きついていた。
「ふふっ、じゃあ私は寝かせて来るね」
「はいはい、お願い」
そしてこうやって誰かにベッドに運ばれ、また寝てしまったとへこむ少女が最近のワンセットになっていた。
もう一つ加えると寝る前の抵抗の相手が彼女だと、寝る直前まで遊ばれたりもしている。
「ふふ、お休みおチビちゃ――――」
少女をベッドに寝かせ、優しく頭を撫でてその場を離れようとする単眼。
だがその手をキュッと握られ、それが余りに力が弱かった為に思わず中腰で止まってしまう。
「も、もうちょっと良いよね?」
思わず腰を下ろし、少女の寝顔を見る様にベッドに顔を乗せる単眼。
少女は握った単眼の手を頬に当て、気持ち良さげに擦り付けている。
「えへへ、可愛いなぁ・・・」
そうして少女を眺める単眼はつられたように眠ってしまい、迎えに来た複眼に溜め息を吐かれながら起こされるのであった。
因みに女は特にこういった症状は出ていない。それ故に女は少しばかり心配に思っている。
ただ変わらず元気な様子では有るので、暫く様子を見る事に決めている様だ。