でました、お決まり展開
暗闇の中に、うっすらと光が差し込む。しかし、目を開けることができない。
(おそらく死んだんだろうなぁ、やり残したこといっぱいあるのになぁ)
昨日、僕は不運にもやのつく職業の人にひょんなことから殺された。痛みを感じなかったから多分即死だろう。
(現場の掃除とかどーなってるのかなぁ)
と、どうでもいいことを考える。おそらく、血と、うーん、中身?をぶちまけてるはずだから、恐ろしい惨状になっているだろう。
「不運でしたねぇ」
「え?」
どこかから声が聞こえた。男性の声が女性の声かすらわからない奇妙な声が。頭の中に声が反響する。
そして、金縛りの時のように開かなかった目が解放された。開くと、そこは、真っ白な一室。何もない空間の真ん中に一脚の椅子があるだけ。そこを僕は座っていた。
「強盗に遭遇して、店員が逃げて、八つ当たりの銃殺。本当に不運としか言いようがないですねぇ」
声が部屋と僕の脳に反響する。本当に不運だったなと僕は思う。
「そんな不運なまま、輪廻の輪に戻すのは可哀想ですねぇ」
「輪廻の輪?」
「生まれ変わるってやつですよ」
輪廻転成。魂が天界に帰ってやがてまた世界に帰ってくる地球ができた頃からの不変のシステム。生まれ変われるならいいやと僕は思っている。
「そんな不幸な魂には施しを」
パチンと音がなると目の前にどこかわからない、見たことのない生物、人、景色が脳内に流れ込んでくる。ドラゴンのようなものと武装した人間が争っている。周囲には家が壊れ、火の手が上がり、死体が積まれている。気持ち悪くなってえずく。
ぱっと世界が変わった。美しい水の楽園がそこにはあった。綺麗な鳥が空を巻い、猫?のようは凛と威圧するような動物が一匹悠々と歩いている。
「これは?」
「なんていえばいいだろう。もう1つの世界かなぁ」
ここで頭の中に1つの仮説が立つ。
「異世界転生……」
生前、ラノベというものはあんまり読まなかったが、友人の勧めで一冊借りて読んだ。ありえないだろと笑ったのはいい思い出だ。
「あらぁ、その言葉を知っていましたかぁ」
無機質な声がおどけるように言った。ありえないことが目の前で起きている。でも、少しワクワクしている自分がいる。
「あなたさえ良ければ、転生しませんか?」
ほらきた!不安なども大きいが今は知的好奇心がそれを上回っていた。一度でもラノベに触れたことのある人なら憧れの展開だ。でも、表情を消して答える。
「どんな世界ですか?」
それは聞いておかなければいけない。絶対に一瞬で死ぬ世界とかだったら嫌だから。
「そうですねぇ。魔法、剣なんでもありな世界ですねぇ。魔物もいますよぉ〜」
もう完璧にラノベの世界じゃないですか!心が踊っているのがわかる。
「不幸な魂。ただのまま転生させるのもつまらないですねぇ。もし転生を望むならば、何か特殊能力をつけてあげましょう」
これが俗にいう主人公最強系の始まりということか。ここで最強の能力を手に入れれば転生先でも無双できる。それもいいなと思う。
「その世界に甘いものはありますか?」
「は?」
気づいたら口走っていた。僕は甘いものを生きがいにして生きてきた。向こうの世界にもそれがなかったら正直転生する気も起きない。初めて無機質な声がすっとんきょうな声をあげた。そしてひとしきり笑うとこう言った。
「もちろんありますよぉ。でも、加工技術などはあまり高くない」
「なるほど」
そこで僕の欲しいものが決まった。無双できる強さなんかじゃない。強さなんて努力でなんとかなると思う。それよりも
「神様だがなんだか知らないですけど。転生したいと思います」
「おぉ。よかったぁ」
嬉しそうな声を上げる。
「欲しい能力があるんです」
「なるほどぉ。言ってごらん。最強の力?権力?」
「いえ」
僕は息を吸い込んで
「絶品の甘いスイーツを作る能力です」
「え?」
困惑の声がした。
「そんなもの……」
「あなたにとってそんなものだとしても、僕にとっては1番大切なこと。みんなに素晴らしさを伝えたいんです」
1人で楽しんでもつまらない。その世界にスイーツがないなら僕がその先駆けになる。
「わかった」
諦めたような声がする。
「それじゃぁ、新しい世界でも頑張れぇ。見てるから」
そう聞こえると意識が飛ぶ。
優しい風に包まれて、目を覚ます。
いつのまにか空の綺麗な草原の真ん中にいた。