こんなことあるのか
拙い文章ですが読んでいただけると幸いです。
ショーケースの中にあると輝きをまとったそれは一瞬にして僕を魅了した。なぜ私を選んでくれないのか。流暢にそう語りかけてくる。
「すみません……それ1つください」
「店内でお召し上がりですか?」
気がつくと無意識のうちにそれを購入する意思を店員さんに伝えていた。
「お好きな席でお待ち下さい」
僕は窓際の海の見える席に座る。穏やかな海がこの世界は平和だと言ってるようだ。
ほどなくして輝きをまとったそれとアイスコーヒーを店員が持ってくる。アイスコーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。しかし、そんなことはどうでもよかった。その隣にある、モンブランは僕のことを威圧していた。
「モンブラン〜」
機嫌をとるように声をかけてみるが返事はない。それはそうか。
僕は甘いものが大好きだ。口の中に広がるあのしあわせな空間を感じるだけでこの先も生きていける。
「ごめんね」
そう言って輝くモンブランにフォークを刺す。悲鳴が聞こえたような気がするが気にしない。フォークを口に持っていく。その距離が縮まる度に胸が高鳴る。ついに口の中に入ると、しあわせとなって僕の中に取り込まれて言った。いいことありそうそんな気がした。
「おい、金出せ」
モンブランとアイスコーヒーの余韻に浸っている時だった。そんな声が耳に入ってくる。その声にぎょっとしてカウンターを見ると、いかにも、言い方が悪いと思うかもしれないが、やのつく職業の人が脅迫していた。若い店員さんは青ざめていた。
「金田さねぇならなぁ」
ポケットから何かを出すと、悲鳴が上がった。
パァンという恐怖の音が聞こえた。拳銃だ。ポケットから取り出したのは凶器だった。なぜ持っていると考えたが、職業を考えると納得した。威嚇射撃の跡が天井に残る。
「お金出しますからぁぁ」
「早くしろ」
狼狽している店員さんはレジからお金を出そうとするが焦りと恐怖からか手元がおぼつかない。落としてしまった500円玉が転がる。それが、やのつく人を逆なでした。
「早くしろって言ったよなぁ!?おい!?」
3発空に向かって放つ。それが今のイラつきを表していた。
なにかが足に当たった。見ると、それは先ほどの500円玉だった。それが運の尽きだった。
顔を上げると、バッチリとやのつく職業の人と目が合ってしまった。終わったなと思った。
「おいてめぇ。なにみてんだよぉ」
ズカズカと歩み寄ってくる。逃げろと、体が警鐘を鳴らしている。しかし、ぶるって動けない。
「え、あ、あの……えっと……」
「なんだよ。まともな口元きけねぇのか?ぁ?」
見れば見るほどやばい顔をしていた。無数の傷跡が顔に残っている。絡んではいけない人とはこういう人を言うんだなと思った。意外と冷静な自分が怖い。
カウンターに眼を向ける。早くお金を用意してくれれば。しかし、その考えは馬鹿なものだったと気づいた。
店員さんは、いつのまにかいなくなっていた。周りのお客さんも消えていた。そこで僕は悟った。
(ここで死ぬんだろうなぁ)
そう思った時にやのつく職業の人もカウンターを見た。
そして気が付いた。もう、お金が手に入らないことを。
「おい……あんさん」
感情のない声が聞こえてくる。
「あんたはよくやったよ。だから……」
頭に拳銃を押し付けられた。
「あばよ。恨むならポンコツな人間どもを恨め」
未曾有の衝撃が僕の頭を襲った。
そして、奄美 光太郎の人生は終わった。