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ズレてるドラゴンスレイヤーと不幸な亜人  作者: 色々大佐
不幸なエルフ

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第四話 コカトリス

 ここは街の郊外にある草原、低級の魔物達がよく出没するところでもあり初心者に教えるには最適なフィールドである。

 ジーナが正式な弟子になったということで早速、魔物との戦い方を教えることにしたのだ。


「さてジーナ、お前は魔物との実戦経験はあるか?」

「ありません師匠!!」


 ないのかー


「エルフは狩猟民族だから魔物との戦いの経験はあるんじゃないのか」

「私はあくまでも魔法での偵察や連絡要員だったんで、実際に戦ったことはありません。でも魔物を見つけたりとかは得意です。ていうか、魔物と戦えるくらい強かったら人攫いに捕まって奴隷商に売られたりとかしてません」


 実際に戦うのは別のエルフで、ジーナは戦闘要員ではなかったということか。

「そうか、ならまずは適当な魔物と戦ってもらおうか。よし、まずはあいつからだ」


 俺が選んだ獲物、それは巨大な鶏のような身体と蛇の姿をした尻尾を持つ魔物、キマイラと称される魔物だった。


「初めて見る魔物ですけど、あれはなんと言う名前の魔物なんでしょうか師匠」

「あれはキマイラと呼ばれている魔物だ、ちょっと手ごわいけど初心者でも勝てなくはないぞ」


 キマイラはそこそこ強いが初心者でも決して勝てない魔物というわけではない。初心者の冒険者が挑んだとして死亡率はせいぜい七割くらい。十回挑んで七回は冒険者側が死ぬ程度の魔物だ。


 ジーナが弓を構えると、背中の矢筒から矢を取り出して弓を番えた。


 不意に、俺の服が引っ張られた。今まで黙って俺たちの会話を聞いていたリリーだ。

「おいアラン、あれはキマイラじゃなくてコカトリスだぞ」

「そうだった、いっけね。ジーナストップ、コカトリスは初心者の手に余る。攻撃中止だ」


 俺がそう注意すると同時にジーナが放った矢がコカトリスの胴体に刺さった。

「なにか言いましたか師匠?」


 ジーナが言えたのはそこまでだった。怒れるコカトリスが放った反撃の石化ブレスが彼女の体全体を覆い尽くすと、あとには石像になったジーナが存在していた。



「お世話になりました師匠、私も立派に一人前の冒険者として旅立つことが出来ます」


 そう言って逃げ出そうとするジーナの肩を俺が掴んだ。

「まだ俺は何も教えてないぞジーナ」

「いえいえもう十分教わりましたって、これ以上師匠と一緒にいたら命の危険だってことが!!」


 振り払おうとするジーナと逃さないように踏ん張っている俺。

 リリーの魔法で石化から解除されたジーナは、事情を聞くなりこうして逃げ出そうとしていた。


「大丈夫だって次はキマイラとちゃんと戦わせるから」

「そのキマイラも死亡率七割らしいから問題なんですよ。なんでいきなりそんなもんと戦わせようとしているんですか、アホなんですか、アホなんですね」


 わがままな弟子だなあ。


「しょうがない、なら俺が手本を見せるからジーナはその真似をすればいい。これならどうだ」

「それなら何とかできそうですが……私が真似できる範囲でお願いしますよ」

「安心しろ、俺がこれから見せるのは素手で魔物を仕留める方法だ。慣れれば誰だってできる」


 そこで俺は先ほどジーナに石化ブレスを浴びせたコカトリスを獲物として定めた。不肖の弟子の敵討ちとばかりに俺もやる気を見せる。


「まず中型以上の魔物ってのは多少の攻撃じゃあ通用しない。更にコカトリスは自己再生能力も高い上にすばやい。見ろ、お前が当てた矢も今では体から抜き取られている上に、傷口もふさがってる」

「そんな強敵を新人冒険者の私にぶつけないでくださいませんかね」


 ジーナからの抗議を出来るだけ無視して俺は話を続ける。

「であるから、大事なのは魔物に悟られずに素早く近づいて仕留めることだ。だが、魔物ってのは基本的にタフで生命力が強い、ではどうすれば良いのか? こうすればいいんだ、見てろよ」


 コカトリスの野郎は少しも警戒してなかった。ジーナが雑魚すぎたせいで、こちらをなめているのだろう、だがそれならむしろ好都合だ。

 コカトリスとの距離を測ると二十メートル前後。これなら相手が反応する前に余裕で仕留められる距離である。


 さて、本来なら人は武器なしでは魔物に傷をつけられない。魔物の持つ強靭な皮と筋肉と骨格に対して人の拳では十分なダメージを与えることができないのだ。だが、人の意思と工夫はその不利すらも凌駕するのだ。

 

 まず俺はジーナの目に映る程度の速度でコカトリスに近づいた。できるだけ音を立てずに少し前かがみになるように駆け抜けると、目算どおり、十歩前後でコカトリスの側面へと到着する。


 そして、闘志を拳に込めてコカトリスの頭部めがけて拳を振り抜くと、コカトリスの頭部が弾け飛んだ。


 この技は昔、初めて冒険に出たときにスライムと戦っている最中に覚えた技だ。仲間が次々とスライムに消化されていく中で、剣も通じず絶体絶命に陥って無我夢中の中で使えるようになった技。意思の力で相手の防御力を無視してダメージを通す便利な技である。 


 頭部の無くなったコカトリスの体を無造作に掴むと、ジーナの元へと俺は歩き始める。今夜の晩飯はコカトリスの唐揚げだ、肉片一辺たりとも無駄にはしない。


「さて、やり方はわかったなジーナ。今やったとおりにしてみろ」

「は?」


 と、そこで俺は遥か遠く五キロメートルほど先にベヒーモスがいることに気づいた。ベヒーモスとは牛とイノシシの中間みたいな姿をした四足歩行の大型の魔物で、高い戦闘力を持った難敵である。


「見ろジーナ、あそこにベヒーモスがいるだろ」

「どこですか師匠、全然見えないんですけど」

「ほらあれだよあれ、あの先にいるだろ」


 俺が指差している草原の向こう先をジーナが目をしかめて見つめているが、どうにもわからないみたいだ。エルフと言えば狩人であり、目がいいと聞いたことがあるが、それほどでもないのかもしれない。


「よしジーナ、さっき俺がコカトリスを倒した要領でベヒーモスを倒してこい」

「さっきの要領? いきなり師匠が眼の前から消えて、あのくそ鶏の頭部が弾け飛んだ怪現象のことですか?」


 さて、もし本当にジーナが初心者のままであればベヒーモス相手に死ぬのは間違いない。それはもう完璧に無残に殺されるだろう。だが、さっき見せた俺の技があれば別だ。うまくベヒーモスの急所に攻撃を与えられれば生き残る目も出てくるはずだ。


「さあここまでお膳立てしてやったんだ、俺は鬼になってお前の指導に当たるぞ。まずは死線を百回潜ってこい。嫌だとは言わせん、もしそれでも嫌だというのであれば俺を殺してでも止めてみるんだな!!」


 と、俺がそう言った直後、ジーナが素早い動作で俺に向けて矢をはなってきた。眉間に必中の良い攻撃だ。その矢を意志力を込めたヘッドバットで叩き落としてから、攻撃してきたジーナに文句を言おうとすると、彼女は二の矢を放とうとしていた。


「何故裏切ったジーナ……」

「正当防衛っす。ついでにいうと裏切ったのは師匠のほうが先っす」

「私の見立てでもジーナの言い分は正しいな」


 リリーがジーナの味方についた。こちら側は四面楚歌の状況である。


「俺がなにか間違ったことを言っていたかリリー?」

「そうだな、ではとりあえず私の意見を言わせてもらおうか」


 リリーが一歩前に出ると俺の真正面で仁王立ちになった。杖を右手に持ってちょっと怒ったような顔もしている。


「まず、お前が教えていた内容は普通の人間にとっては自殺と同じことだ」

「いやいやあれくらいなら俺が初心者だった頃からやってたことだぞ。自分よりちょっと強い魔物と戦い続けて自身の壁を突破する、短期間に強くなる最高に効率のいい方法なんだぜ」


「それが効率のいい練習法と言えるのは、お前のように自身の才能の全てを闘争の一点に注ぎ込んでいる蛮族だけだ。まずお前は自分の細胞一欠片まで人間の範疇にない、全く新しい死ぬまで戦う肉型の戦闘機械だと理解するべきだ」


「すげえひどいこと言われた気がするんだが気のせいか?」

「気のせいだ、これでもオブラートに包んで言葉を伝えている。お前の頭の出来を率直に伝えるともっとひどい言葉になってしまうからな」


 うーん、そんなにひどい指導だったかなあ?


「ジーナ、俺の指導はそんなに酷かったか?」


「酷いとか言うレベルじゃなかったですね。例えて言うなら暑さに強くなりたいのなら溶岩に飛び込んで鍛えればいいじゃんと言っているようなものでした」

「それじゃあ十割死んじまうだろうが、俺が言ってたのはそこまで死亡率は高くないぜ」

「そういう返答しかできないのなら師匠はちょっと黙っていましょうか」


 どうにも俺の指導方法はお気に召さなかったらしい。しかしだとすると困った、この方法以外となると、非常に効率の悪い方法しか残っていないのだ。


「だが、これ以外の方法となるとそこいらのなまくら坊っちゃんでも死なないように無理せず少しずつ強くなっていく方法しか俺は教えられないぞ。命の危険もあまりなく、よわっちょろい魔物相手に少しずつ強くなっていくそんな方法だ……ジーナ、お前はそんなことで満足できるのか」


「満足できるんで、最初からその方法で教えやがれクソ野郎」

 ジーナが怒った。なぜか知らんが、めっちゃ険しい目でこっち見ている。


「アラン、とりあえずジーナもこう言っているし、そのなまくら坊っちゃんでも鍛えられる方法で教えてみろ。それとも何か不都合でもあるのか?」

「不都合はないけど、中途半端に魔物と戦える方法を教えるのは危険ではないのかと思っている」

「アラン、世の中の99.9999%の人間にとっては半端に教わることよりも半端じゃなく教えられたほうが危険なんだ。そしてジーナは99.9999%側の人間だ」


ちらっとジーナを見ると、彼女はうんうんと頷いていた。リリーの意見に完全に同調している。


「……そんな生易しく教えられていると周囲にバレたら、ジーナの恥にならないか?」

「ならないですし、それを恥だと思う人間とは私も距離を置きますから平気です」


 ジーナの方も完全に意固地になっているみたいだ。少し時間を置いて冷静になれば俺の言っている方法のほうが正しいと理解してくれるはずだとは思うが、まあジーナが冷静になるまでの時間稼ぎという点で見れば安全重視で教えるのも良いのかもしれないな。


「しょうがないな、じゃあ希望通り、なまくら坊っちゃんでも安全に強くなれる方法で教えてやるよ」


 こうして、リリーの口添えもあってジーナの育成方法が一先ず固まった。

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