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第三話 とりあえず魔物と戦わせてみる

 さて、ではこれからどうしようか。

 ジーナがどれくらい戦えるかを判断する為に、盗賊退治を受けたがそれも終わった。ちょっと早いけど魔物退治に行っても良いかもしれないな。


 だがしかし、魔物は盗賊よりも遥かに強いのが基本だ。いきなり魔物と戦わせて大丈夫なのだろうか。


 俺がそんな事を悩んでいると、今まで俯いていたジーナが顔を上げた。


「よし、プラスの方向で考えましょう。ドラゴンを倒したすごい人が私の師匠なんだと。師匠だけじゃなくて私も周りに狙われるとかそういうのは全部置いといて、それだけ考えます!! というわけで師匠、これからもよろしくお願いします」


 ジーナの方も心の整理がついたのか、うまい具合に心を切り替えられたらしい。

 こりゃあ俺の方も気合い入れて教えてやらんとな。


「それでこそ俺の弟子だ。じゃあこれから魔物退治を教えてやる。俺について来い!!」

「わかりました師匠!!」


 俺としたことが何を悩んでいたんだ。弟子がやる気になっているのに危険だのなんだのと考えてしまうとは情けない。師匠に大事なのは弟子のやる気に応えること、これこそが最も守らなければいけないことではないか。


 そうして俺たち二人が元気よく歩き始めると、不意にリリーが口出ししてきた。

「おいジーナ、先に忠告しとくぞ。アランは基本的にずれているからな、とくにこいつは才能が溢れすぎていて、普通の人間と感覚がだいぶ違う。やめておくなら今のうちだ」


「おいおいリリー、俺はこれでも下積み時代からコツコツ強くなってきたんだぜ? 他人に教える為の経験なら俺にだってちゃんと備わっているんだからな」


「そうですよリリーさん、いくらアランさんだって、初心者に教える知識と経験くらいはありますって。それに、私はどうしても強くなりたいんです」


 考えてみれば俺たちはジーナがなぜ俺の弟子になったのか知らなかった。奴隷商から助けた時、ジーナから弟子にしてくれと言われてそのまま暇つぶしで弟子にしただけだから仕方ないと言えば仕方ない。


「そういえば何故ジーナが俺の弟子になったのか動機を知らなかったな。俺の戦う姿に一目惚れでもして、そのまま弟子になったとか妄想していたけれど、それであってる?」

「くっそキモいので、その妄想は生涯しないで下さい」


 どうやら外れていたらしい。まあそれについては俺もわかってたことだから良いけどな。


「私はずーっと生まれ育った森から出たことがありませんでした。毎日を森の祈りと守護に費やして狩猟や村の雑事を真面目に過ごしていました。私が人さらいの集団にさらわれたのは、そんな時です」

 そこでジーナの目頭に涙が溜まり始めた。

「商品価値が下がるという理由で手荒なことはされませんでしたが、故郷にいる仲間や家族とは離れ離れになりました。そうして一人、奴隷商人に売られて屋敷の中で囚われる事になったのです」

 次に両肩を抱いて震えだした。

「屋敷での生活は森の生活に慣れていた私にとって戸惑いばかりでした。ほとんど虫の出ない住居、共同ではない一人部屋、獣臭くない肉料理、舌がとろけるようなデザート、口うるさい家族達のいない快適な時間、蚤すらついていない清潔で綺麗な衣服。どれもこれも……初めて体験するものばかりでした!!」


 そこでジーナの目から涙がこぼれ落ちてきた。

 故郷の仲間達を思い出して涙でも流しているんだろうか、んなわけねえな。


「師匠が私を助け出してくれたのはそんな時です。師匠が暴れたせいで崩落した屋敷の瓦礫の中から私を救出してくれたのがそんな時なんです。お昼寝タイムでぐっすり寝ていた私がいつの間にか、何故か瓦礫の中に埋まっていた、そんな時なんですよ」


 涙どころか血の涙が出そうな表情のジーナが力いっぱいそう言ってきた。


「そうか、じゃあ俺も責任取ってお前を故郷の森まで連れて行ってやらないとな。縄で縛り付けてでも連れて行ってやるから安心しろ」

「嫌ですよ、誰があんな生活に戻りたいなんて言いました!! 死んでもゴメンです!!」


 リリーが呆れた目でジーナを見ていた。

「つまりそれで、アランに復讐するために強くなりたいと?」

「いえ違います。奴隷商人のところから助けてくれた事自体は感謝していますよ。あのまま捕まっていれば、いつかは売り飛ばされていたでしょうしね。ただ、理想郷を見つけても自身に力がなければ理不尽な暴力によって奪われてしまうとわかったんです。だから次こそ自身の居場所を守り通せるように強くなりたいんですよ」

「お前その言い分だと全く俺に感謝してないじゃねえか、俺への恨み節100%だろうが」


「それでどうするんだアラン、このままジーナを弟子にするのか」

 リリーからそう問われると、うーんと唸る。

「ちょっと納得行かないところはあるが……問題なし」


 少し悩んだけど俺は合格として扱った。

「冒険者なんて、金が欲しいだの女抱きたいだの周りからチヤホヤされたいだので強くなるもんだ。そう考えれば、自身の居場所を守れるくらいは強くなりたいというジーナの動機は全く問題なし、むしろ健全な部類に入る」


「さっすが師匠、懐が広い、腹筋も凄い、腕周りも凄い、ついでに顔もいかつい、雰囲気も殺人鬼真っ青の危険生物だけはありますね。いやちょっとまった顔掴まないで、その握力はやばいって頭蓋骨割れます、いたっいたた、いたいってば、調子に乗りすぎましたすいません」


 謝罪の言葉が口から出てきたので顔から手を離してやった。円滑なコミュニケーションとはすなわち握力によってなされるというのが俺から弟子に教える第一の真理だ。


 リリーがため息を吐いた。

「ジーナの事を思えば失格の方が良かった気がするが、両者ともに合意したのならば私からは何も言うまい……死ぬなよジーナ」


 リリーも納得したみたいだし、そうと決まれば話は早い。俺も本腰を入れてジーナを鍛える必要がある。


「ジーナ、お前の強くなりたいという願いは俺もよくわかった。俺の教えは厳しいがついてこれるか?」

「できるだけ安全で危険のないようにお願いします。ひよこが卵からかえった直後に親鳥がひよこに接するくらいの優しさの感じで」

「わかった!!」


 確か鶏の親は卵からかえったばかりのひよこ同士を戦わせて見事生き残った、たった一匹を自身の継承者にするという話があったな。昔の冒険者仲間からそんな話を聞いたことがある。


「ちょうど町の郊外に初心者に適した魔物が出てくる場所がある。そこでみっちり鍛えてやる、付いて来いジーナ!!」


 溢れるばかりの闘気をみなぎらせて、今ここよりジーナ育成プロジェクトを開始する。

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