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第二話 事情

「なっ言ったとおりだっただろ」

「勉強になりましたアラン師匠」


 盗賊退治の成功報酬を手に入れた俺たちはギルドを後にするところだった。


 今回のギルドは手ごわかった。そう盗賊ではない、ギルドだ。


 盗賊退治の成功を報告すると、ギルド側は依頼達成の証拠を出せといきなり言ってきた。

 普通であれば、ギルド側が調査した上で、盗賊が討伐されているかを確認。数日から一週間かけて調査が終わった後に報酬を支払うのだが、ここのギルドは違った。依頼を受けた側が依頼成功の証拠を出さなければならないらしいのだ。

 これは初めて依頼を受ける冒険者への初見殺しでもあるのかもしれない。


 まあ当然、盗賊頭の生首を持参していた俺はそれをドンっとギルドの受付においてやった。

 季節は春。気温は暖かく、肉が腐臭を出すのに文句のないこの季節。当然、その生首はもうえっらいことになっていた。

 どれくらいえっらいことになっていたかと言うと、リリーとジーナがそれを持っていた俺から距離10メートは離れていたくらいえっらいことだ。


 袋の中から呪いの生首を取り出して、おら手配書のやつだろ、と俺がやったのが一つ。それによってギルドの内部に耐え難い匂いが充満してギルドがパニックになったのが一つ。最後に、それにもかかわらず顔色一つ変えず、手配書の盗賊ではありませんねと言い放ったクソ職員がいたのが一つ。


 生前は悪逆の限りを尽くしていた盗賊親分の頭部かどうかについて、その職員と論戦を展開。どっからどう見ても手配書通りだろという俺と、角度によっては若い女性の頭部にも見えると主張する職員との間で果てしない戦いが繰りひろげられた結果、騒ぎを聞いてやってきたギルドマスター直々の沙汰で、もう金払うから止めてくれという結果になった。


「あれが冒険者ギルド……どっからどうみてもヒゲ生えたおっさんの生首なのにそれを若い女性だと言い張るとは」

「そうだ、冒険者は常にあの冒険者ギルドと金のやり取りをするんだ。決して何があっても引いたら駄目だ、引いたら最後、骨の髄までしゃぶり尽くされるからな」

「わかりましたアラン師匠!!」


 弟子がまた一つ成長したことで俺は満足した。この業界には冒険者ギルドだけは信じるなと言うたった一つの鉄則があるんだ。


 俺とジーナがそんなコミュニケーション取っているとリリーが横から口を挟んできた。

「ジーナ、補足しておくと普通はあんな酷い職員には当たらないからな。ギルドマスターが涙目になっていたのは見ただろう。アランはなぜか知らないが、そのギルドで一番酷い職員と当たる運命にあるんだ。そして、アランの弟子のお前もおそらくはその運命に巻き込まれている」


「何を言ってるんだリリー、ジーナに嘘つくなよ。俺が酷い職員とばかり当たるだけだって? そんなわけない。ギルド職員なんてのはどれもこれも血も涙も通ってない悪魔ばかりだ、人の皮を被っている畜生共だ。でなければ、俺が十年近くも酷い職員ばかり引き続けた運勢最悪の人間ってことになっちまうだろ」


 と、そう思ってジーナの方を見ると彼女が俺から離れてリリーの傍によっていた。


「リリーさん、私の師匠になって下さい」

「すまない、弟子は取らない主義なんだ」

 俺の愛弟子ときたら秒速で俺を裏切りやがった。


「んんんんんん、ジーナさん?」

「すいません、そんな運命に巻き込まれたくないんですよ見逃して下さい」

「俺は責任感のある男だからお前も俺の運命に巻き込んでやるよ、ほらタッチ、はい俺の悪運つーけた」

「ちょっと、師匠の悪運が伝染ったらどうするんですか!!」


 逃さんぞ、貴様だけは。


「お前は俺に感謝の気持ちはねえのか、奴隷商に捕まってたのを俺が助けてやったんだろうが、命の果まで付き添いますとか言えねえのか」


「それ言っちゃいますか、リリーさんから聞いているんですよ。奴隷を嫁にしようと買いにやってきて、騙されて自業自得で捕まった後に大暴れして偶然私を助けただけだって。だいたい、奴隷商人のところにいる時は待遇すっごい良かったんですからね、むしろ今のほうが待遇悪くなってますから!!」


 おいおいリリー、何教えてんだよと睨むとリリーは親指をぐっと立てて答えてきた。いや別にそんなハンドサイン求めてねえから。


「それにしたって師匠、奴隷を嫁にするだなんて男として情けないとか思うでしょ普通、なんでそんなことしたんです」

「自分の金を自分の思うように使う。それのどこが情けないんだね」

「きっつ」


 そんじょそこらでは見られない軽蔑の視線をジーナが俺に向けてきた。


「無駄だジーナ、私がアランに何も言ってなかったと思うか。やつは本気だ、だがそれよりもそんなアランに奴隷商人のところまで付き添って、こいつのトラブルに巻き込まれた私が一番の被害者だ」

「リリーさん可愛そう……」


 やれやれ、女同士で同盟を作っちまいやがった。まあしょうがないね男のロマンってのは女にはわからないものだ。ここにもう一人男がいたらまた違った話の展開になってただろうな。


 俺がそんな孤独を味わっていると、ジーナが更に質問を投げかけてきた。

「それで、なんで奴隷商人は師匠を罠にかけて捕まえようとしたんですか。師匠には奴隷どころか人としての価値すら全くなさそうなのに、もしかして喋るオークと間違えられて捕まったとか?」

「ははは、その生意気な口閉じねえと本当にオークばりに暴れてやんぞてめえ!!」


 こう見えてもリリーにイケメンに変身できる魔法だと騙されてオークに変身できる魔法を教わってんだぞ。マジで喋るオークになれるからな、なめんなよ。


 俺がそんな事を考えると、リリーが横から余計なことを言い始めた。

「こいつは昔にやんちゃをして裏で多額の賞金が掛けられているんだ、表で掛けられてないのは、その内容が賞金掛けている側が表沙汰にしたくない事だからだ。今でもこいつの首を狙っているやつは大陸中にゴマンといる」


「リリーの言うとおり、むかーしちょっとだけ無茶したんだ。おかげで変な奴らに狙われる人生になっちまった」

 俺の言葉にジーナが嫌そうな顔していた。

「その師匠の弟子になった私は?」

「俺の弟子だから、人質の価値ありともう顔を覚えられている頃だ」

「アランの言うとおりだ」


 ジーナがプルプルと震えていた。

「おいおい、そんな熱い目線で俺を見るなよ……いや悪かったって、責任とって強くなるまでは面倒見るから、だからそれ投げようとするな、ナイフは人に向けて投げるものじゃねえ」


 殺意がナイフの先端にみなぎってらっしゃる。間違いねえ、あれは生き物を殺す為だけに存在する類の物だ。


「安心しろアランだけではなく、私もいるからジーナに危険が降りかかることはない。アランだけならともかく、アランだけならともかく」

「そうですね、リリーさんがいるなら大丈夫ですね師匠だけならともかく」

「俺ってそんなに頼りないのか?」

「性欲に目がくらんで奴隷の嫁を買いに行って罠にかかる人間に頼りがいはありません」


 そんなことはない、誰しもハニートラップには掛かるものだ。それは男の本能というもので頼りがいとは関係がない。


「まあ師匠がそういう人間なのはよくわかりました。で、何をして賞金掛けられたんですか」

「ちょっとムカついたからこの国の支配者だった地竜をタイマンでぶっ殺した」


 ジーナが俺をきょとんとした顔で見ていた。

 そして次の瞬間、ジーナは笑いだした。


「し、師匠ったら冗談が上手い。ドラゴンにタイマンで勝てるわけないじゃないですか、10年前に討伐された天竜だって人の軍隊と英雄を集めてようやく倒せたのに、それがよりにもよってタイマンでとか」

「大魔道士様をだまくらかして装備揃えてメタ張って勝ったんだ。一つ一つが国宝レベルすら超える装備だったからできた事だ。もう一度やれと言われても難しいな」

「そんな嘘で騙せると思わないでくださいよ、それでリリーさん本当のところはどうなんです」

「あの時お前に貸した装備の代金まだ貰ってないからな、ちゃんと支払えよ」

「わかってるよリリー、生きている内に支払えたら支払う」


 俺とリリーがそんなやり取りをしていると、ジーナの笑い声が消え始めた。


「今の話ってもしかして本当に?」

「俺は嘘をたまにしか言わない」


 そう、本当にたまにしか言わない。


「じゃあ師匠に賞金を掛けてるのって」

「この国か、もしくは竜を信仰してる奴らか、もしくはリリーがムカついて俺に嫌がらせで掛けてるかだな」


 多分その三つのうちのどれかだ、可能性としては一番最後のが高い。


「ちなみにどれくらいの額が掛けられているのかわかります?」

「俺の知ってる限りだと、人間の良心と正義をドブに捨てても全く後悔しない程度の額だ」


 ジーナが固まっていた。ちょっと言葉の内容が強すぎたのかもしれない。


「そういうことだ。アランと一緒にいると飽きなさそうだから私も一緒にいるだけだしな、ジーナもある程度自衛が出来る様になったら故郷の森に返ったほうが良いぞ。当然、エルフの中にもアランを狙う奴がいるだろうから、完全に安全とは言えないだろうが」


 そんなわけでこの日、正式に俺たちの仲間が一人増えることになった。彼女の名前はジーナ。ちょっと不幸なエルフの女の子だ。


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