プロローグ
何が起きたんだろう。
周りを見れば瓦礫の山が出来ていた。それは私が住んでいた、いや私が連れてこられたこの屋敷の成れの果てなのは間違いない。
少し前まで私は森で生活していた。風龍様を守護するエルフの一族、それの一員としてだ。それがふとしたミスから人さらいに捕まってこの屋敷まで奴隷として連れてこられた。そこは覚えている。
まあ正直、奴隷と言っても森で生活していた頃とは比べ物にならない程いい生活を何故か送らせてもらっていたので、私は満喫していたのは事実であり、不満はまったくなかった。
むしろ、森の中で過ごしていた頃より快適すぎて、もう二度とあんな原始人みたいな生活には戻りたくないとまで思っている。つまり私にとっては、この奴隷商人の屋敷こそ我が魂の聖域そのものといった場所であるとまで考えていた。
そう、そんな幸せ奴隷生活を過ごしていたはずなのにこの状況はなんだ。
いつも私の世話をしてくれている使用人達はそこいらでのびている。屋敷の主である奴隷商人はズタボロの格好で地面に倒れているし、顔が怖くて気も優しくない警備の方々達も同じように、猛獣に襲われたかのような姿であちらこちらで気を失っていた。
本当に何が起きたんだ、そう思っていると、一匹のオーク、いや人間がいることに気がついた。その男はまるで人型の魔物のような姿形だ。巨大な体躯にいかつい面、風貌だけで人を殺せそうな戦士が怒りの表情でそこにいた。
「嫁、俺の嫁、どこ、どこに行った」
理性の失った様子でつぶやくその様を見て既に私は自身の命と貞操に関して、人生最大級の危機を感じていた。
ガタガタと私が震えていると、その男が私に気がついた。いややめろって、気づくなって、こっちみないでよって。そんなことを考えるが、視線は既に交わっている。二人の視線は絡んで離れない。
ズシン、ズシンと擬音が出そうな歩法でこちらに近づくその戦士。ついに私の真正面にその男が辿り着くと、おしっこチビリそうなほどの恐怖が私の中を駆け巡ってきた。
だが、そこで、なぜかとある事を思ってしまった。おそらくは自己防衛本能、混乱、走馬灯、未知への好奇心、それらのどれかもしくはその全てのせいなのかもしれない。そして、我慢しきれなくなった私はつい言ってしまった。
「あの、私を、私を……あなたの弟子にしてください!!」
こうして、私ことエルフのジーナは戦士アランの弟子となった。