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  作者: 甘甘党
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門前のできごと ①

サイトを開いていただきありがとうございます。


『やっぱりデカいな。』


感想をポツリと、学園の門前で呟く。

〝彩旺学園〟

学園の立派な門の左右に立つ大理石の柱に、そう刻まれていた。

「僕も初めて見たよ。パンフレットで見たけど、こんなに大きいとは思わなかった。」

最初の呟きを漏らした人物の、その隣に立っていた少年――上城馨が同意する。


『学園の造りが今からでも窺える。』


呆れを隠さない言葉を吐くその人を、馨は顔を上げて見上げた。案の定、少しばかり眉に皺が刻み込まれていた。


「でも、悪い場所ではなさそうだよね?」

『建物は、な。今日からこの学園の生徒になる。肝心なのは生徒だ。』


いつまでも小難しい顔を解かないその人に、馨はある行動に出た。


『・・・分かっている。せっかくの高校生活、楽しもうな。』


何の前触れもなくその人に抱きつき、キュルンと、男子高校生としては大きく愛らしい、愛嬌のある目と、万人受けする可愛い顔を上げてその人を見上げる。

すると決まってその人は、馨の頭に手を置き、安心させるかのように優しく微笑んでくれるのだ。

密やかな、馨のお気に入りである。


「うん!」


眉の皺は取り除かれ、それでも名残惜しいのか一向に離れない馨に苦笑いを浮かべ、引き剥がすことはせずに、門に設置されてあったインターホンを鳴らした。


《どちら様ですか?》

『今日から御校へ編入させて戴きます、上城馨と、和露衣美紀と申します。』


馨の分まで紹介した、その人――和露衣美紀は、女子にしては低い声で畏まった。



編入生だと伝えた後、迎えを寄越すからと、ここで待っているように言われた二人は大人しく迎えが来るのを待っていた。

すると唐突に、和露衣美紀が顔を前方に向けた。釣られて上城馨も前を向く。


「あの人かな?」

『多分。』


今はまだ、顔はハッキリと分からないが、確かにこちらに人が歩いて来ていた。二人が立っている場所から約五メートルも離れている。その距離を以て、こちらに来る人の気配を、美紀は気づいたのだ。

今日は休日で、滅多に学園の生徒は外に出歩かない。九分九厘、案内人だ、ということになる。


「(流石だね。やっぱ美紀は凄い。)」

『馨。』

「うん、分かってるよ美紀。」


上城馨の名前を呼んだ、美紀の真意を悟った馨は、すぐさま美紀の一歩前に出た。それに合わせ、馨の一歩後ろへ後退する美紀。

やがて門の向う側から歩いて来ていた人物と対峙し、その人物は二人を見て、いや、正しくは上城馨の後ろに立つ少女、和露衣美紀を見て目を眇めた。


「あなた、男・・・ではありませんよね?」


途中から見えていた、浮かべていた微笑はすっかり鳴りを潜め、訝しげな表情が刻まれる。

私は正直に答えるつもりだった。


『上城様、宜しいですか?』


馨と私以外に人がいる時の態度と口調で、馨に許可を貰う。


「良いよ。」


馨は許可した。最初は不満に思っていた馨も、それをする事の重大さを理解して、他人がいる今は憮然とした、まさに召使いと対話している口調で私に接している。


『(変わったな。あんなに嫌だの何だのと駄々を捏ねていたのに。御曹司という立場が、そうさせているのか。)上城馨様の護衛をしています、和露衣美紀と申します。』


きっちりとした動作で会釈をする。そしてそのまま、馨が何か言うのを待った。


「ところで、あなたが案内してくれるのですか?」


最早すっかり上城家の跡取り息子の態度となっている。表情も引き締まり、そこらの女を圧倒し万人が愛らしいと認める顔立ちが、今は芯の強い少年の印象を与える。

既に姿勢を元に戻していた私は、馨の右手が、ピクッ、と、僅かに浮いてまた脇に着けたのを、目敏く認めた。

馨が無意識に、他人と対峙してストレスを感じ、私に助けを求めたい時、右手が必ず動き、こちらに向かって来ようとする。

極度の緊張から生まれるストレスは、馨の精神に攻撃を与える。

だからその分、二人っきりになった時、甘やかさないと二度と他人と関わらなくなってしまう。精神から来る負担は、次第に体へ負担を及ぼしていくから面倒だ。


《何があっても身体に傷一つ残すな。》


契約を交わした依頼人――馨の父、上城柳が言った言葉だ。

先に交換条件を出したのは自分の方。それに乗っ取って出された約束事を、私が先に反故出来ない。

門がスムーズに音もなく開き、相手と自分達を隔てる物は、無くなった。


「はい。この彩旺学園の生徒会副会長を務めております、宰史響也です。どうぞ宜しく。」

「上城馨です。こちらこそ宜しくお願いします。」

「あなたにも・・・ようこそ、彩旺学園へ。」


馨と握手を交わした後、私に対しても握手を求めて来た。それに呼応して良いか、視線だけで馨に窺った。私の方を向いていた馨は、はっきりと、頷きを見せた。目的は、相手――生徒会副会長の宰史響也に見せつける為に。

二人の一連の動作の意図を正確に汲み取った響也は、面白いとでも言うような目の細め方をした。


『恐縮です。』


視線を響也に戻し、差し出された左手を握る。直後、


「っ!」


握っていた左手に力を込め、自分の方へ引き寄せる響也。当然、いきなり体を引っ張られた美紀は体制を崩し、響也の方へ引き寄せられ・・・。



お読みいただきありがとうございます。

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