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第97話 鹿対策の準備

「話の内容だと、森林伐採が原因ですよね?」


「うん」


「その上に柵を作るとなると、悪化しそうですが……」


 取り敢えず、セーファに鹿などの生き物が増えている原因を説明すると、考え込み始めた。


「だいじょうぶなの。というより、いちどくずれたじょうきょうはなおせないので、そうほうにとってだきょうできるじょうきょうにもっていくの」


 実際に日本でも環境が崩れ野生動物が大量発生したり、人里に現れるケースは多発している。ただ、その状況で野生動物の保護を謳っても何の意味もない。保護しても一度崩れたバランスは崩壊の一途を進むだけだ。禿山になるまで山を食い尽くして、人里に降りてくる。それが問題ならば生息地が抱えられる数まで減らすしかない。植物の繁茂速度より野生動物の繁殖速度を下げるのであれば、正直滅ぼす程の勢いで狩り続ける必要がある。お互いに生きていくのなら、厳しい妥協点を見出すしかない。


「分かりました。では柵の方は兵の方で対応します。春の農作業の方はどうしますか?」


「ぱぱのほうしんにそってほしいの。としごとにちがいをかんじてもらうのもじゅうようなの」


 私がそう伝えると、こくりと深く頷きが返る。


「本格的に農業を仕込むんですね。確かに兵を辞めたとしても生きる道があるのであれば、それは意味のある事でしょう」


 この世界の兵の人はある程度お金が貯まると、独立する人間が大半だ。将になれれば別だけど、一兵卒のまま死ぬまで勤め上げる人というのはまぁ、珍しい。そういう意味ではノウハウをどうやって伝えていくか、課題も残っている。まずは屯田兵として育てると決めたのなら、この村と心中してもらえるように努力する。


「このむらのいちいんになってもらうの!!」


「それは素敵ですね。私も好きになりました」


 セーファの言葉には真意が籠っている。王都も都会で良いのだろうけど、この村も最近は負けていない。物流で考えれば前年比で二倍近い物が動いている。住んでいる人にとってはワクワクする村になっているだろう。


「じゃあ、おねがいします」


 私はそう告げると、ヴェーチィーと一緒に虎おっさんの工房に向かう。



「えらく細かい注文だな……。量も多いし」


 差し出した木版を見て、ふむぅと虎おっさんが唸る。


「すいとうのじゅちゅうがへったならだいじょうぶなの!!」


「はぁぁ……。確かに減ったが。こう色々持ち込まれたら休む暇もねぇな」


「いそがしいのはいいことなの!!」


「そうだな。暇よりは良いわな。材料はレフェショに付けて良いのか?」


「いま、はらうの!!」


「豪儀だな?」


「つかうばしょがないの!! うまくいったらほてんできるの!!」


「はは。三代目がそれで良いなら問題はねぇよ」


 そんな会話をしながら、材料と作業費の見積もりを出してもらい、対価を払う。どうせ私のお金は貯まるばかりなので、こういう時に使わないと貨幣が停滞してしまう。どうせ鹿が捕らえられれば、今度は鹿肉の燻製にして売り出せば元は取れるだろう。

 笑顔でお辞儀し合って店を出ると、ほぅっと溜息が聞こえる。


「ふぇ?」


 見上げると、ヴェーチィーが悩まし気な瞳でこちらを見つめている。


「どうしたの? おねえちゃん」


「ティーダはおうちのために頑張っているなって。私、本当に駄目だったなって……」


 告げるごとに暗くなる顔色を見て、そっと抱きしめる。


「そんなことないの。がんばろうとしたけど、まちがっていただけなの」


「ティーダ……」


「まわりのおとながまちがったことをいっても、わからないの。おねえちゃんはわるくないの!!」


 物の分別が付かない子供を大人が騙したのなら、それは大人の責任だ。子供に判断を押し付けるべきではない。


「ふふ。ありがとう。うれしい。好きよ」


 そう告げると、ぎゅっと抱き返してくるので、ぶるぶる身震いして逃げる。将来のある娘さんを縛る訳にはいかない。戦術的撤退と見て、ててーと走る。


「あ、待てー!!」


 いつの間にか足も伸びてコンパスの差も少しずつ縮まっている。取り敢えず追い付かれるまでに気分転換出来れば良いかなと。そんな事を思いながら、家に向かって駆けた。

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