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第96話 誕生日の贈り物(タイプ:フェリル三歳)

 熊おっさんのところに通う事一週間程度で物は出来た。後は誕生日を待つだけだなとラーシーと一緒に皆と戯れる。


 春になって水が温み、魚の活動も活発になってきたのか、川魚の漁獲量が跳ねあがる。まだまだ寒い内陸の方からはやれ炭だ、やれ食料だと矢の催促が来ているらしい。人間一度楽を覚えると戻れないものだなと。お蔭で驚くほどの金が村の中に回るようになってきた。この冬は特に寒さがきつく、羊毛の価格が高騰し、内陸から物納で受け取った羊の毛が王都に高く売れたのも大きい。


「……と八千。ふむ、前年比で二倍強かな」


 食事を終えた父が白湯を片手に帳簿を付けている。


「おおきいの!!」


「それでも、たまたまの部分が大きいからね」


「しゅようさんぎょうがあるのはえいきょうだいなの」


「そうだね。本当に燻製は大きな収益になっているよ」


 父が窓から外を覗くと、朝も早くから村人達が楽しそうに支度をしているのが見える。


「ティーダのお蔭だね」


「みなのせいかなの!!」


 そう答えた私に大きな手で頭を撫でてくれる父。そのまま執務拠点の方に向かった。

 今日はフェリルの誕生会。私は部屋の隅に置いていた箱を手に集会部屋に向かう。


「おたんじょーびおめえとー!!」


 子供達の声と共に、プレゼントの授与が始まる。今日の主役のフェリルは鼻の穴を膨らませ、興奮したように贈り物を受け取っている。

 ジェシからは刺繍が散りばめられたヴェールをもらって、二人で抱き合って泣いている。ここまでは毎年の光景だ。


「ふぉ、ティーダなの!!」


 ワクワク顔ではふはふしているフェリル。はらはら顔のジェシに挟まれながら、そっと小さな箱を手渡す。去年のジェシのように大きさでがっかりする人間はいない。キラキラした瞳で箱を開けるフェリル。


「ふぉぉぉぉぉ!! くしなの!! あーしの!! くし!! ふぉぉ!!」


 興奮したフェリルがでーっと走ってきて、抱き着いたと思うと、がじがじと噛み始める。いててと思いながら、フェリルのお母さんの方を見るが苦笑でごめんねと口パクが返ってきた。フェリルの家も兄弟姉妹が沢山なので、自分の櫛なんて手に入らない。ずっとジェシの櫛を羨ましそうに眺めていたから、熊おっさんに頼んでみた。


「がらがちがゆの……」


 じっと櫛を見ていたジェシがそっと呟く。まだこの辺りでは見た事が無いが、葡萄と蔓をイメージした彫り物を入れている。


「こえ、なーに?」


「ぶどう。くだものだよ。みがたくさんなるの」


「ぶどー!!」


 教えてもらった喜びでぴゅーっとお母さんの方に駆けていく。聞いた情報を伝えるんだろうなと思っていると、お尻に違和感が。振り向くとジェシがお尻を抓っている。


「ティーダ……」


 悲しそうな表情のジェシの頭をそっと撫でる。


「だいじょうぶ、ジェシのもかんがえているから」


 そう答えると、ふわっと微笑み、きゅっと抱きしめてきた。その様子を見て、フェリルがだだっと駆けこんできたのは言うまでもない。



「しかがふえればいいことじゃないの?」


 誕生会から数日後の朝食中、父が若干難しい顔をしていたので訳を聞いてみた。どうも、森の方から鹿が大量に出没するようになったらしい。


「そうでもないな。畑が荒らされ始めている。狩ると言ってもそう簡単な相手ではないし。ふぅむ……」


 鹿の増殖に関しては、きっと私にも責任があると思う。昔は人手不足もあって木を一本切って使うのも結構な手間だった。現状だと、兵を使って荷車に乗せる事が出来るので、大分簡略化されている。しかも炭の件もあるのでちょっとずつ森も切り開かれている。

 過去ならそこそこの期間があるので、広葉樹が芽を出して少しずつ育つまでのサイクルが守られていたし、鹿も偶に来る人間を怖がって積極的には出てこなかった。それが広葉樹の芽を大量に食んで、しかも襲ってこない人間を舐め始めたのか跳梁するようになったらしい。

 平地であれば、馬と弓の相手では無いのだが、森の中の鹿は結構厄介だ。罠猟も限界がある。


「はたけをかこむしかないの」


「費用はかかるが……。それしかないか。内需拡大も見込めるしね」


 父の言葉に頷きを返す。


「それにしかは、かんたんにとらえられるの!!」


「ほぉ? そんな手があるのかい?」


「まかせるの!!」


 折角の蛋白源が向こうからやってくるなら、捕らえた方が良いだろう。囲いを作っても、鹿が増えちゃうサイクルはもう存在する。そうなると、地道に個体を減らしていくしかない。


「せーふぁとそうだんしてみるの!!」


 そう言って、ヴェーチィーと一緒に兵舎の方に駆けてみた。

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