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第95話 些事とプレゼントの準備

 スリッパは物凄い反響を以って受け入れられた。色々忙しい女性陣とは言え、足先が冷える機会も多い。そうなると色々と不調の原因になる。何よりも冷たい床の上を素足で歩きまわる必要が無いと言う事で、ベストセラーになってしまった。今まで関係の薄かった服飾店のお姉さんから直々に挨拶と言う事で訪問された時は何があったのかなと思った。



「がぁぁぁ!! 水筒ばっかり注文が入るじゃねえか!!」


「ふゆばはあきらめるの!!」


 虎おっさんの叫びはともかく、湯たんぽに関しても母が概要を説明するとお母さん方の間でブレイクした。炬燵で温めた布団も、冬も本番になると隙間風ですぐに冷めてしまうと言う事で夜のお供が求められていたので、合致した形だ。特にそこまで投資をしなくても良いというのが大きな理由らしい。


 そんな感じで冬の生活も改善されて、大きな病気も発生せずに気候は緩やかに暖まり始める。


「ふぉぉ……。ぬくー」


 庭でぽへーっとどこかに走り出そうとするラーシーを抱きしめながら日向ぼっこをしていると、ふわっと影が差す。


「お爺ちゃんみたいよ」


 ほんのりと微笑みを浮かべたヴェーチィーが見下ろしているのを見上げる。自然な微笑みに影は差していない。あぁ、良かったなと思いながらひょいっと立ち上がる。


「まだふたつなの」


「でも、お父様みたいだったわ」


 そう言われて、あの権力の権化みたいなパワフルな姿を思い出し、ぶるぶると頭を振る。


「そんなにこわいかおしてないの!!」


「ふふ。家族と一緒の時は違うのよ?」


 そんな会話をしながら部屋に戻る。



「ふーむ……」


 夕食後に白湯を楽しんでいると、珍しく父が難しい顔で唸る。


「どうしたの?」


「いや、北の方の集落でな……」


 本日北の方から定期的に来ている行商の人から書状が届いたらしい。内容としては、結構北方の村からの食糧援助の打診と言う事らしい。


「ふぉ? ぜんたいてきにほうさくっていってたの」


「そうなんだ。今年は北の方でも結構な実りがあったはずなんだ……。それなのに、どうしてなのかなと。手堅い人の筈なんだけど……」


「たいおうするの?」


「距離的に王都から出すよりもこちらからの方が早いからね。レフェショとしての打診だから、王都から補填はしてもらえるよ」


「おんはうれるときにうるの!!」


 私が叫ぶとははっと父が若干の苦笑を浮かべる。しかし、食料不足でこの村に打診が来るなんてこの二年で無かった気がする。常と違う事が起きると気になる質だけど、何事も無ければ良いなと。

 結局、セーファを隊長とした輸送部隊が移送する運びとなり、問題無く帰還した。



「襲撃を受けた結果のようですね」


 戻ってきたセーファの開口一番は意外な話だった。


「あそこの周囲でそんな余裕のある勢力なんてあっただろうか……。元々隣国に面していると言う事で備えはしてあっただろうし、かなり歴史もある村だぞ?」


「大規模な野盗が出没しているようです。隣国との調整で対応が後手に回っているようです」


 そこからは仕事の話と言う事で、執務拠点の方に移動してしまったので詳しい事は聞けなかった。


「難しい顔をしているわよ」


 若干気になっていたのを母に見つかり、うりうりと頬を擦り付けられる。負けじとうりうり押し返す。


「大丈夫よ。あの村からは何ケ所かの村を経由しなければ、ここまでは辿り着けないわ」


「なら、どうしてうちのむらからしょくりょうをはこぶの?」


「あぁ、それはこの村がレフェショヴェーダの治める村だからよ。援助の可否判断は陛下の決裁が必要になるわ。これまでは王都に直接出ていたのでしょうけど、うちに来るようになったのね」


 ふむ。まだまだ知らない事の方が多いのだろう。無知が故に気になっているのだろうと、頭の片隅に置いて、この件は忘れる事にした。



 そんな冬も徐々に過ぎていき春の訪れをちらほらと見つける頃には炭焼き窯の運用も本番を迎えた。まだまだ内陸の草原地帯は厳しい寒さと言う事で、薪を使って炭を作って運んでも十分に投資はペイ出来る算段だ。取り敢えずは端材を燃料に炭を生産備蓄して、次の冬に備えていくというのが方針となっている。ただ、今考えている事が実現したら炭もまた商材になって羽が生えたように飛んでいくのだろうなと。


「あら、お買い物?」


 ヴェーチィーと二人で家を出ようとすると、母に声をかけられる。


「うん、そろそろフェリルのたんじょうびだから!!」


「あぁ……。そうね。もうそろそろね」


 何かとばたばたした二歳の一年だったが、もう少しで三歳。今年はゆっくり家族で過ごせたら良いなと思いながら、ヴェーチィーと談笑しつつ熊おっさんの工房に向かう。

 風は温かく、小鳥の歌は尚も響く。畑は緑に染まり、村の人達も浮かれるように動き始める。あぁ、春が来るんだな。

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