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第89話 収穫祭

 兵の一部と文官さんが連れ立って荷馬車と共に村を出る。昨年は王都から出張ってきた兵に渡せば仕舞いだったけど、今年からは手持ちの兵がいると言う事で、村から兵を出す形になる。


「それでも、荷役に人を割かなくて良いので、ありがたい話です」


 セーファがニコニコ顔で兵を取りまとめて、移動の準備を始めている。本当なら、数十人でもっこを使って麦を運搬するという非常に重労働かつ危険な作業をしなければならなかったが、今年からは荷馬車がある。戻ってきた荷馬車の車軸や補強を熊おっさんと虎おっさんに伝えて、改造した荷馬車β君は列を成して街道を進む。ちなみに、荷馬車はそのまま王都に納品される。まだ一から作り上げるだけの情報は与えていないので、設計図と一緒に買い取りとなる。これのパテントも入る予定だが、今後莫大な資産を産むだろう事は過去の歴史を考えれば容易い。車輪様、ありがとうございます。


「行ってまいります!!」


 選抜された護衛の(はずれをひいた)兵が少し残念そうに出発するが、給与は大目に支払っている。何故そんなに残念そうかと言うと……。


「これ……。こんなに裾が短くても良いのかしら……」


 膝下二十センチくらいのワンピースのような服を着たヴェーチィーが恥ずかしそうに告げてくるので、可愛いと返すと、てーっと部屋を出ていった。

 まぁ、独身の男性と女性に関しては出会いの時期でもあるからだ。ちなみに、部族の長達としては目下軍事力を取り込みたいと考えているので、兵の皆さんは売り手市場だ。忠誠は父に合っても、縁故の(しがらみ)というのは中々に厄介だ。


「おねえちゃんもおまつりにでていいの?」


「そうね。出会いはまだまだ早いけど、雰囲気を楽しむと言う事かしらね」


 母もふふふという感じで、取り合わない。まぁ、お姫様といっても現在はうちの子だし、七歳は市井においてまだ結婚には早すぎるので安心という感じなのだろう。

 最近は少しずつ母の作業を覚えて、糸紡ぎなどをしながらお母さん方の輪に入っていけるようになっている。


 となるとなのだが……。


「ふぉぉ、みちぇ? どう?」


「かわいいの!!」


 予想通り、フェリルとジェシがべったりになった。折角の祭りの衣装を着込んで見せに来る辺り、溜めが足りない。ちなみにまだ裾上げの調整中らしく、お母さん方にあまり動き回るなと言われているのに走り回っている。他の男女も同じような感じだ。村の中が浮かれ始めている。


 去年はまだ小さかったし、燻製の魚をどうするかで頭がいっぱいだったため、全然記憶に無い。

 用意とかいらないのかなと思っていると……。


「ふぉ……。また、すごいの……」


 母が丹精込めて織って、刺繍した、もう病気も裸足で飛び出して逃げそうな精緻で繊細な服が用意されていた。


「これ、きるの?」


 乳幼児用の産着みたいな凝りようだなと思っていたら、母がにこにこと告げる。


「いつも無茶をするティーダにはこれくらい必要よ」


 ふぉぉ、信用されていない。そんな感じで、沸々と祭りの気配は高まっていく。



「では、祭りを始める!!」


 収穫後、後片付けも終わり、ほっと一息を付ける頃。空気は澄み、秋の深まりはもう冬の足音を響かせ始めている朝に、父の声が響く。

 村の中に歓声が響くと、ラッパのような管楽器と太鼓を先頭に、子供達がそれぞれの一張羅で行進を始める。私は帯刀した状態で先頭に立っているのだが、どうしてこうなった。まぁ、三代目か。はぁぁ。

 麦の穂を片手に、無病息災、豊年満作を祈願しながら、村を練り歩く。レフェショの家からぐるりと村を巡り、最終的に向かうのは……。


「おぉ、子供達が到着したか。今年も豊作で何より!!」


 ゲルから出てきた宝飾品満載のおじさん。そしてその隣には毛皮お化けも付いている。

 鼓笛隊がぶんちゃかと軽快な曲を鳴らすのに合わせて、皆が声を合わせて神に恵みの喜びを謡う。秋の抜けるような青空にその歌声はどこまでも広がっていった。


「さぁ、祝福だ!!」


 綺麗に着込んだ未婚のお姉さん方が小さな鉢に白い物を注いで、子供達に配る。飲め飲めといわれるので、ぐいっと行くが……。ぶふ……。これ、やっぱり馬乳酒だ。薄めているけど、お腹がぽかぽかする。


「ふぉぉ、あまいの!!」


「うまー!!」


 蜜か何か入れて口当たりを良くしているので、後続の子供達も喜んで飲んでいる。酔わなければ良いけど。子供達は飲み終わると、ててーっと音に合わせて踊り始める。私もフェリルやジェシに手を引かれて、激しい盆踊りみたいなのを躍る。


「はっはっは。さぁ、宴の始まりだ!!」


 胡散臭いおじさんが子供達が杯を空ける間に、神への祝詞のようなものを唱えていたが、一瞬厳粛になったムードを吹き飛ばすように叫ぶ。

 すると、鼓笛隊が勢いのある楽しい曲を奏でだすと、周囲は祭り一色に変わる。歌を謡い、酒を飲み、ご馳走を食べる。


 私は、にこにこしながら近づいてくる大人(よっぱらい)から、ぴゅーっと逃げ出し、家族の方に向かう。


「あはは。格好良かったよ」


 父がぐりぐりと頭を撫でてくれると、母がぷにゅっと頬を当ててくれる。


「うん。ディーの子供ね。凛々しかったわ」


 母も嬉しそうに抱きしめてくれる。


「格好……良かった……」


 そっと手を握ったヴェーチィーもぼそりと告げてくれるので、よしよしすると、にっこりと微笑む。


「おねえちゃんはまじらなくてもいいの?」


 私が聞くと、ふるふると首を振る。


「まだ、知らない人が多いから、ちょっと怖い。それに見ているだけで楽しいから」


 そう言うと、にこりと微笑む。聞くと、王族の間は一段高い場所で見下ろすだけで、この手の祭りを楽しむ事は無かったらしい。じゃあ、楽しんでもらおうと、ててーっと料理を取りにいく。

 おぉ、瓜と刻んだ山羊の炒め物はちょっと甘辛くて美味しい。ふぉ、川魚の甘露煮だ。パンは必須と……。両手をお皿で一杯にして机に戻ると、家族から温かい笑いをもらう。


「ふふ。お利口さんね、ティーダ」


 そっと撫でられると、嬉しくなってあいっと返事する。家族でゆっくりと食事を楽しんでいると、色々な人が挨拶に来る。その度に杯を交わしているけど、父は大丈夫なのかなと思ってしまう。


「大丈夫よ。強いから」


 そんな心配顔がばれたのか、母がそっと耳打ちしてくれる。そんな温かい雰囲気の中、祭りは最高潮(クライマックス)へと向かっていく。村の中心で大きな焚火がくべられて、若い男女が踊りを始める。


「さて、そろそろ帰ろうか」


 父が立つと、周辺の村人達も三々五々散り始める。ここからは若い人達の時間らしい。家族のある人は家族と、それ以外の人はどこかで集まって食事をしたり飲んだりするらしい。


「良い祭りだった」


 帰り道、しみじみと父が告げるのが心に触れた。今年も色々忙しかった。それでも皆が幸せなら良かった。


「ことしも、よいいちねんだったの」


 私が言うと、一瞬呆けた顔をして、両親が笑いながら頭を撫でてくれる。そっと腕を組んだ父と母。私はヴェーチィーの手を掴んで家路に戻る。どうか来年も幸がありますように。

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