第88話 収穫
結局王都に行った目的の一つ、祖父母に会いに行ったけど、会えなかった。これは国王の意地悪とかではなく、祖父が忙しいため面談する暇が無かったのが真相だ。インテリの祖父は王都で暦を研究しているようで、収穫前後の辺りは大忙しらしい。ただ一段落付いたら村に帰ってくるという話は貰ったので、待つ事にする。
問題はこちらだと、そっと首を上げるとニコニコ顔がいる。
「おねえちゃん、やすんでていいの!!」
「ティーダが頑張っているから見ておくの」
「ふぉぉ!!」
鈴が……鈴が常に付いてくる。
王都から移動してきて数日、村での生活に慣れた頃に、ヴェーチィーの思い悩む顔が増えた。
ある日相談を受けて見ると、今まで父と母を苦しめていたと言う事に気付いたらしい。
というのも、ずっと周りの人間から父を力の振るえる地位に、母には村の事に専念させる方が良いと吹き込まれていたようでそれを信じていたけど、実際接して見ると全然そんな事は無かったというのが真相らしい。
「あやまったら、だいじょうぶなの」
「でも……」
「きにしすぎると、びょうきになるの。おねえちゃんがびょうきになると、かなしいの」
私の言葉が後押しになったのか、ある晩。ヴェーチィーが食後、真剣な表情で二人と話をしていたが、最終的に温かい雰囲気で三人が抱き合っていたので和解したのだろうと嬉しく思っていた。
が……。
「ティーダ……好きぃ」
「ひどくなったの!!」
甘えるのが酷くなった……。誤算だった。
「ふぉぉ、とやえゆの!!」
「でも、おねえたんよ?」
生活に慣れるまでと言う事で、ヴェーチィーも子供達と一緒に庭でお母さんと一緒に見守る係を申しつけられているのだが、なんだかスキンシップが多い。
それを見て、幼馴染ーズが白目で額に縦線を描きこんだような表情で、ひそひそ話をしている。
「じゆうが……じゆうがない……」
色々と考えて作ったりして気晴らしをしていたのに、付きまとわれるのでそれも出来ず、しょんぼりな毎日を送る感じになってしまった。
そんな毎日を送りながら、徐々に村も秋の雰囲気が本格化してくる。木々は色付き、空気は乾燥しながらも冷たくなってくる。ヴェーチィーは早々と後続で運ばれてきた綿布団を皆に振舞ってくれたので、母と三人でぬくぬくと眠っている。父? 父は一人でぬくぬくしている。ちょっと寂しそうなのはご愛敬だ。
「さぁ、収穫を始めよう!!」
父の号令に、村の皆がおぅと唱和する。四歳の子供からは皆参加して、それぞれ役目を分担して収穫作業を行う。刈り取りは刃物を扱うので、四歳以上じゃないと参加出来ない。収穫作業に参加出来るようになると子供の中では憧れのお兄さん、お姉さん扱いだ。私は帯剣しているので特別参加と言う事でちょこまかちょこまか走り回っている。
「おみずなの、のんで」
「これ、あっちにはこぶね」
ててーっとラーシーを連れて、仔犬のように駆け回る。雨が降ったら大変なので、頑張って早めに終わらせて一気に乾燥させたい。村の皆が同じ思いで一致団結して頑張っている。ヴェーチィーも村の皆に混じって束ねた麦の移動なんかを嬉々として手伝っている。目の前で誰かが喜ぶさまを見ながら作業をする事が新鮮なのだろう。
「かっこいいの……」
「あこがえゆね」
四歳以下の子供達は監視のお母さんと一緒に畑の畔に鈴なりになって見学している。男の子達は早々に飽きてちゃんばらなんかをしているが、女の子達はころんと横になって飽きる事無く物色しているようだ。
「ティーダ、しゅごいね」
「まじってゆの。おとなよ? かこいいの……」
「そえにくやべゆと……かこわゆいの!!」
監視のお母さんが布に座って糸を紡ぎながら子供達の話を苦笑を浮かべながら聞いている。どんな年代でも女の子の大好物はコイバナなのだろう。チャンバラや鬼ごっこをしている同世代の男の子が不憫でならない。邪魔にならないなら良いと思うんだけど。
「ご飯よ!! 休んで!!」
母を筆頭にお母さん方がお昼ご飯を持って来てくれる。収穫の間は昼ご飯とは別に間食なども振舞われる。皆も一息吐こうと群がる。
「ほら、ティーダ、あーん」
「だいじょうぶなの!! ひとりでたべられるの!!」
ヴェーチィーが粥を匙に乗せてふーふーしてから差し出してくるが気恥ずかしい。
「とやえゆの……」
「ちょと、げんめちゅ?」
女の子の株が若干下がる中……。
「うらやましい……」
「やさしいおねえたんとか……」
男の子の株も下がってそうで嫌だ。
そんなこんながありながら、収穫の方は順調に進む。何より、熊おっさんが頑張ってくれた猫車がちょこまかと集積を楽にしてくれるし、荷車が移動要塞のように乾燥場所まで力強く山積みの麦達を運んでくれる。例年に比べてかなり余裕をもって収穫の方は完了した。豊作というのも相まって、村人の間には安堵と晴れがましい表情が多い。
さぁ、次は収穫祭だ!!




