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第85話 裁き

「不敬!! 不遜!!」


 だっと立つ音が聞こえたのは、あの体格の良い男性の方からだった。しゃらりと金属が擦れる音が聞こえた瞬間は、鈴カステラが縮む。でも、ここは賭けるべき時と場所だ。


「なれど!!」


 私の叫びに虚を突かれたように、しんと静まり返る。


「わたしのそふぼにいかなるおちどがございましょうか!? しろのじゅうし、じゅうしゃにとうたとて、でんかのてちがいとききおよびます!!」


「こわっぱが!! 聞いた口を叩くな!! 王族の命ぞ!?」


「むろん!! おうめいも、おうぞくのめいもしじょう!! なれど、なればこそ!! いを!! あやまちをみとめるべきときは、みとめるべきとぞんじます!!」


 私の叫びに、横の父がすいと立ち上がる。ふわっと父に抱き上げられた私は無表情な父を初めて見る。ただその瞳の中に浮かぶ悲しみは一生忘れる事は無いだろう。そっと振り被られた手が、勢いよく私の頬を打とうとした瞬間だった。


「まてぃ!! これは王命ぞ!!」


 国王の言葉に、すんでのところで手が止まる。あの勢いだと、どうなっていたか分からない。必死で唇を結んだ父が唸る程の力で止めなければならない勢いだ。


 かつり、かつりと足音が近づくたびに円卓に座っていた人達が平伏していく。まるで波涛が砂の鐘楼を崩すかのようだなと場違いな思いで見つめていると、国王が眼前に立つ。私もそっと降ろされて、父と共に平伏する。すると、ふわっとした浮遊感と共に、抱き上げられる。


「ほんに二つか? 何とも。飛燕の子は大胆にして、勇猛よな」


 かつかつと器用に抱かれ円卓の上座、玉座の方に運ばれる。あぁ、この人も人の親だったなと改めて場違いな事を考えていると、そっと玉座に座り、私は膝の上で横抱きにされる。周囲は皆平伏したままだ。どのように動けば良いかと混乱していると、じっと見つめられ頭を撫でられる。


「ティーダ。ふふ、人を統べるか。良い名だ。ティーダ、問おう。敢えて帰還と言ったな? その故を述べよ」


「はっ。あやまちとはいえ、でんかのおことば。きそんとなれば、ふまんもでましょう。ならば、ひとときのいこいとして、むらにもどるじゆうをあたえるは、ふぼのじょうにもかなうかと。ばんみんしんかのなっとくもえやすかろうとおもうしだい。また、そふぼがおうとにておしごとをほうじておりますのもききおよんでおります。それをすてるはしんかのみちにそむきましょう」


 私が天に届けよとばかりに告げると、一瞬目を丸くした国王の呵々大笑が会議室に號と轟く。そこには好々爺然とした顔は無く、覇王の、人を統べ、導く、あの顔が戻っていた。


「ふむ。これはヴェーチィーの役者が足らぬわ。うむ。我儘を排する事なく、親子の情に訴えて益を選ぶか。それにティラーン達も日々この国の為に邁進してくれておる。それも慮るか。ヴェーチィーの過ちとは?」


「はっ。でんかがかくちのさんぶつをへいかにほうじるはでんかのおつとめ。なれど、ははのきょしゅうをしちにしいるはあまりにひどう。ちちはそれほどにしんがおけぬでしょうか。それはおいさめすべきかとぞんじます」


 続けての言葉に、流石に切れた人がいるのか平伏した方で若干の動揺を感じた。しかし、それも国王が笑い飛ばす。


「うむうむ。あやつめ、報告には上げておらなんだが、そのような非道を行っておったか。やんちゃも過ぎれば害よな。よい、よい」


 ひたりと、頭を右手で優しく撫でられる。


「ディーよ、是非で答えよ。ティーダの言葉、真なりや?」


 国王の熱い言葉が会議室全体を撃つ。王族への忠義と真実の合間で刹那葛藤した後、がくりと力を落とした父が、それでも尚と裂帛の気合で……。


「是!!」


 と答える。その瞬間、場の動揺がピークに達する。

 不敬、不遜を行ったのを父が保護者が、責任者が是と答えたのだ。


 それでも、私はこの国の自浄作用に賭けたかった。ここで変わらなければ、私達の去就に関して永久に変わり所は無いだろう。


 ここが私のルビコン川だ。

 賽を叩きつけた相手は、相好を崩し肉食獣のような笑みを浮かべた。


「面白い!! 良いぞ、良い!! 繁栄よあれ。今まさに儂は感じた、この国の未来を!! この国は永劫に輝こうぞ。儂等は神に非ず、過ちは犯す。なれど、臣がそれを正す。善哉(よきかな)!!」


 迸る竜声がびりびりと会議室を震わす。平伏した皆が静かに、しかし徐々に力強くだんだんと床を叩く。是、是、是。賛意は部屋を揺るがし、王都に響き渡らんとする。ちらりと国王が宰相を向き、宰相もこくりと頷きを返す。


「うむ。ティラーン達に関しては永の働きの行賞とし、事前の報を以って帰還を許す。尚引き続き勤めには励むよう。またヴェーチィーに関してだが」


 ごくりと干上がった喉が鳴るのを感じた。


「ディーの預かり子とする。だが、今後永年ディーとの婚儀は認めぬ。ディーはティーダを育てたその才を活かすべし」


 床の殴打音は尚も上がり、部屋をうちたおさんばかりの勢いで奏でられた。


 え、我儘姫がうちに来るの? ぽかーんと笑っている国王を眺めていると、にやっと笑われた。

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