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第80話 王都到着

 近付くと徐々に灰色の何かが分かってきた。万里の長城に似た威容が姿を現す。灰色に見えていたのは日干しレンガの色だった。ふぇぇと、首を上げて眺めていると、砂煙が勢いよく近付いてくる。


「何者か!! 馬が引いている物は何だ!!」


 二十騎程の武装した集団が騎馬のまま周囲を取り囲み、ぐるぐると回りながら誰何してきた。父が護衛の人に視線を送ると、護衛の人が巻いていた旗をふぁっさと広げる。


「紫旗!! レフェショヴェーダだ!! 連絡を!!」


「ディー様? おぉぉ、近衛の誉れ、ディー様ぞ!!」


「陛下に奏上を!!」


 効果は絶大だ。向かってきた門衛の皆さんは分裂して、王都の方に進む部隊と先導してくれる部隊に分かれる。護衛の皆は門衛の人と何かの情報を取り交わしているようだ。


「ぱぱ、はたをひろげてちかづけばいいのに」


 荷馬車の方に後退してきた父に言うと、呵々と大笑される。


「あまり身分を見せびらかすのは好きでは無くてね。それに邪魔なんだよ、旗を持って馬を駆けるのは」


 ニヤニヤと笑っているところを見ると、荷馬車のお披露目を兼ねての示威行為だったのかなと。門衛の人も私達が乗っている荷馬車にちらちらと視線を向けている。


「ティーダが頑張って作った物だから、精々話を広めてもらわないとね」


 そっと呟くと、父がはしっと馬の胴を足で締める。すると、ててーっと馬が駆けはじめ一気に先頭に出る。やれやれと思いながら、前を向くと壁はもう目前だった。

 高さは二十メートル程だろうか。これも全て手作業で構築した物だろうに……。その威容にごくりと唾が勝手に飲み込まれる。

 壁に沿って移動していくと、大きな門が見えてくる。夜になると門は閉められるという事で、商人や都の住人で混雑している横を、颯爽と旗を握った父が抜けていく。


「おぉ、レフェショヴェーダが都に来るとは……」


「戦か?」


「あれは、ディー様か!! ヴェーチィー様が村に向かったと聞いていたが、何かあったか?」


 門に並ぶ人の話を漏れ聞きながら、門を潜る。その眼前には……。


「ふぇ、みわたせない……」


 左右は地平線の彼方まで平坦な道が広がっている。今の視線の高さだと片側だけで三キロくらい。幅で六キロ近く道が広がっているのだろうか……。なんて無駄な……。

 驚きに口をぱかっと開けていると、そっと母が口を閉じてくれる。


「正面は軍を展開させるために建物を建てないの。ふふ、お口が開きっぱなしよ。驚いたの?」


 私は母に抱かれたまま、こくこくと頷きを返す。日本の土地事情を考えるとこんな無駄な事は無いが、はぁぁ、スケールが違う。

 道の所々にある屋台の賑わいを眺めながら、道を進む。お腹空いた……。


「本日は宮殿でお休み頂きます。どうぞごゆるりと」


 荘厳な寺院を彷彿とさせる建物に誘導されると、色とりどりの布を纏った侍従が待ち構えており、そのまま部屋へと案内される。



「ふぉぉ、すごいの!!」


 貴賓室なのだろう。家具一つ取っても深い艶やかな木々に精緻で見事な浮彫が施されており目を楽しませてくれる。黄金の装飾は、そのまま地金を用いて彫っているのだろう。重厚だが柔らかな光が夕焼けの赤を受けて、部屋を照らしている。

 ぽかーんと口を開けて突っ立っていると、護衛の人達に指示を出し終えた父が部屋に入ってくる。


「どうかしたかい、ティーダ」


 ぽふりと頭に手を乗せられて、はっと意識が戻る。何というか、古いお寺や神社で装飾に意識が飛んでしまったような状況になった。


「さぁ、ティーダ。汗を流しましょう。あ、ディー帰っていたのね。一緒にどうかしら?」


「お先にどうぞ、ティン。ティーダをよろしくね」


 父はそう言うと、奥の寝室の方に向かう。後ろからは侍従達が果物やお酒と思われる瓶を持って付き従う。うーん、ウェルカムドリンクかな。私は母の後ろに付いてちょこちょこと部屋の奥の扉を開ける。


「うわ、広いわね!!」


 奥にはこれも見事で複雑な彫刻に満ちた、青銅の湯船が鎮座している。ふぉぉ、生まれて初めてのお風呂だと喜び勇んで服を脱ごうとすると、母が腕をがっちり握る。


「ふぉ、なんで!?」


「待ってて、ティーダ」


 優しく母が微笑むと、入ってきた扉から目だけを出した湯着の女性がわらわらと入ってきて、母のお世話をし始める。おぉぉ、お金持ちっぽいと思っていると、私の周りにもいつの間にか侍女が集まっていて柔らかな所作でさくさくと服が脱がされていく。ちょっと恥ずかしいので視線を落としていると、優しい口調で侍女が話しかけてくれる。


「あら……。女の子のように整っている顔なのに、男の子なのね。ふふ、ディー様のお子様と窺っていたからどんなに逞しい子かと思っていたけど、可愛らしいわ」


「そうよね。ふふ、怖がらないでね……」


 柔らかな手で持ち上げられて、すのこの上に立たされると、適温のお湯をかけられて全身に油のような物を塗られて、マッサージされる。ふぉぉ、駄目、そんなところまでと思っていると、ちゃぱりちゃぱりと流されて、ぽちゃりと湯船に浸けられる。


「ふへぇ……。ぬくいの……」


 ちょこんと縁に布を置いて、顎を乗せて体の力を抜く。母はマッサージを受けているのか、幕の後ろで楽しそうな話声が聞こえる。秋とは言え、平地の天幕はかなり冷え込む。そんな中、荷馬車の揺れと格闘していた三歳未満の体は酷使に不平不満いっぱいなのか、疲労がぐわっと出てくる。


「ふぉぉ……きっと……おいし……い……もの……が……まって……いる……の……」


 我慢の限界を超えたと思ったら、急速に意識を失ってしまった。お腹……空いた……。



 はっと目が覚めたのは、真っ暗な闇の中だった。ほのかに光る縁を頼りに用心しながら進み、押してみると木の窓がぱたりと開く。清冽な秋の空気と共に、登り始めた太陽の頭の部分が見える。見渡す限りの建物が金色に染まり始める。

 あぁ、王都(リグヴェーダ)に到着したんだ。そう実感した瞬間、お腹がぐーっと不満の声を上げる。


「あぁぁぁ!! 夕飯にありついていない!! うわぁ、認識したら空腹がぁぁ……」


 振り返り、旅の疲れを癒すように寝入っている両親に急いで、てちてちと向かった。

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