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第79話 旅路

 両親の感覚では過剰と言えそうな頻度で休憩を繰り返しながら道を進む。


「これは中々重労働だね……」


 父は護衛の兵達と、甕の水を川で入れ替えては荷馬車に積み込んでいる。母はというと、私を抱きながら鰻の入った籠が流されないように川辺で見守っている。


「いちにちやふつかならなにもなくてもいきるけど、よわるの。そうしたらおいしくなくなるの。げんきなのがいいの」


 熱を持ったお尻に服が擦れるたびに痛みが走り、あひぃと声が出そうになりながら説明を済ませた。母に抱きしめられながらよしよしと撫でられるが、痛みに弱い体は勝手に涙ぐんでしまう。


「はは。馬に乗り始めは皆そうだよ。来年には乗り始めるんだから、覚悟しないとね」


 父が愛おしそうに、自分と母の馬にブラシをかけ、水をあげている。母としては自分で世話をしたいようなのだが、私を抱いているので出来ない。母の馬も母の方をじっと見つめながら、父の世話を渋々受け入れている。本当に馬って頭が良いなと思ってしまう。


 一日目の移動を終えて、天幕(テント)を設営し終えてぱたりと転がった辺りで気を失いそうだった。父の話では、余裕を持って三日の距離は下手をすると四日にかかるかもしれないという。

 私が想定しているのは宝暦年間、佐右衛門が行っていた島根から大阪までの鰻の陸送だ。あの頃は天秤棒に担いでの移動だったが、荷馬車なら少しはストレスが軽減出来るのかなと思いながら、お尻の痛みにあまり変わらないかとしょんぼりする。川に鰻を浸ける頻度を少し下げてでも移動距離を稼いだ方が良いかと悩んでいる瞬間だった。


「ふわぁ!? ちゅめたい!!」


 ぺろりとおむつを捲って外気で冷やしていたお尻に冷たいものが乗って驚いた。振り向くと悪戯混じりな表情の母が絞った布をお尻にかけてくれている。


「真っ赤になっているわね。可愛いわよ」


「ふぉぉ!! おしえて!! おどろいたの!!」


「難しい顔で考え事しているからよ」


 むむむと頬を膨らますと、母がぷにゅぷにゅと頬を当ててくるので、仲直りをする。もう、鈴カステラさんが縮こまってしまった。

 冷えた布をお尻に当てて寝転がってしばらく休んでいると、外から呼び出しがかかる。服を着直して外に出ると、燻製の良い香りが広がっている。見張り役の人は交代しながら食事を楽しみ、再び天幕で就寝となる。

 そろそろ収穫の時期、獲物が肥え太る時期と言っても、野生の肉食獣達の襲来は怖い。徒党を組むイヌ科の生き物は中々厄介なので、父達は交代で寝ずの番らしい。


「ごめんなさい。おせわをかけます」


 私の都合で申し訳ないなと思って頭を下げると、ぽふぽふと撫でられる。


「気にしなくて良いよ。いつかは通る道なのだから」


 父がそう言うと、天幕から出ていく。母と一緒に毛布に包まって目を瞑る。


「ねぇ、まま」


「何かしら……」


「ぼく、めいわくかけていないかな……」


 暗闇、星明りが天幕の隙間から漏れ入る中、そっと呟く。すると、きゅっと抱き寄せられる。


「きっとね、ティーダ。皆、ティーダを応援したいのだと思うの」


「おうえん?」


「神様の声が聞こえると言っても、それを形にするのは難しいというのは良く分かるの。あんな乗り物を作ってしまうなんて思ってもみなかったし。鰻の料理の仕方、燻製もそうよ。形にするのはきっと難しい。それをティーダは頑張って考えている。それをね、応援したいなって思うの」


 そう言われて、そりゃそうかと改めて思う。概念を伝えても、それを形に出来るかはまた別の話だ。私は日本にいた時の教育や見聞で実施出来ているだけだ。他の人なら。同じような状況でも他の人ならもっと困っているだろう。配慮が足りなかったと若干後悔する。


「だから、甘えなさい。誕生日の時に伝えたわよね。ティーダが進みたい場所に到着出来るように守り、導くのが私達の役目なのだから……」


 母の優しい語りに安心したのか、睡魔と戦いながら必死で聞いていた話の途中で意識は霧散してしまった。



 結局三日目の太陽も大分傾き、夕刻が間際に迫る頃、目前に灰色の何かが地面を覆うようにぼんやりと見えるようになった。


「着いたか!!」


 父が叫ぶと、護衛の皆も馬の脚を緩めて、大きな溜息を吐きながら、破顔する。


「見てごらん、ティーダ!!」


 父が指さす先。


「あれが王都だ!!」


 あの広大な何かが、リグヴェーダなのか!!

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