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第78話 お尻の痛み

 ヴェーチィーが疲れの為ぐーすかと眠りに就いた後、眠い目を擦りながら王都までの荷物をリストアップする。


「王族が滞在するとなると、一日二日では帰らないよ?」


 父が言うのに、私は頭を振る。


「そんなにいたら、ままがきづかれでたおれるの。ほかのむらにもいってもらうの。しさつとかのめいもくで」


 私がきりっと述べると、父は母の方を向いて、軽く苦笑を浮かべる。


「そうだね。王族の行幸なんて早々あるものではないね。この村だけとなるといらない恨みを買いそうだ。少し向こうの侍従とも話をしてくるよ」


 父が立ち上がり、執務拠点の方に向かう。残された母と私で荷物を割り出し、どの程度の積載が必要かを算出する。


「でも、ティーダ。私達が抱いて移動するとなると、荷物がそれほど積めないわ。王都までは無理よ?」


 馬に目一杯食料を積んで、王都までぎりぎり程度。その場合でも中継の村で補給を前提としている。


「にぐるまとべつににばしゃをつくっているの。あれにのるの!!」


 熊おっさんが収穫前までに完成しようと躍起になっている荷車と荷馬車。荷車の方はそれ程技術が無くても出来る為、荷馬車の方を優先してもらっていた。あの径の車輪が完成すれば、荷馬車の方にも適用出来る。


「荷馬車……。え、あれに人が乗るの!?」


 母が驚いた表情で、こちらの顔を覗き込む。この村の人は馬で移動する事に固執しすぎているので、荷馬車に人を乗せるという概念が無い。まぁ、荷馬車そのものが新発明という風になるけど。


「うん。ぱぱとままのうまとむらのうまでいどうするの!!」


 村の共有財産としての馬もいるので、それに引かせて四頭立てくらいにすれば食料と私達、後は鰻を引く程度は可能だろう。道が悪い事は想定されるけど、川を渡るような経路は無い。馬車で移動が可能となれば、今後王都との往来も増える。そうなれば、経済の活発化にもつなげられる。色々考えたが、発展を考えるなら、大きな拠点との太い輸送手段は確立しておきたい。


 うとうととしながら、あれが必要、これが必要と話をしていると、くてぇといつの間にか寝入ってしまった。


「あらあら、まだまだ子供ね……。でも、本当に大丈夫なのかしら……」


 そっと持ち上げられたのは夢現(ゆめうつつ)の境で記憶しているが、その後は眠りの霧の果てに包まれていた。



「いやじゃー!! ここにおるー!!」


 朝の食事を出した後に、侍従から他の村の視察の話を出されたヴェーチィーは思いっきり駄々を捏ねている。さすが七歳。


「しかし、国王陛下の名代となれば公人。ここは各地に度量を見せるのも王族の役目となりますれば……」


 侍従の方もねちっと外堀を埋めながら攻めている。


「何のためにここまで来たと思っておる!! 叔父上……」


「殿下、このままではレフェショヴェーダディーにまでご迷惑をお掛け致します。各地との諍いの種を王族が撒いたなどとなれば一大事で御座いますぞ?」


「そんなもの、叔父上が王都に来れば……」


「もしそうなったとしても、引き継いだ者の身もお考え下さい。いらぬ恨みを買うなど……」


 侍従は教育係も兼ねているのか、何かと反論してくるヴェーチィーを封殺し、最終的には昼には村を発ち夕方には到着出来る遊牧地へと向かう形で話がまとまった。父がどんな話をしたのかは謎だけど、よく侍従の人と話をまとめたものだと感心してしまった。


 あいるびーばっくみたいなセリフを吐きながら村を出ていくヴェーチィー達一行を見送り、急いで工房に母と一緒に向かう。


「にばしゃできてる!?」


「でぇ、どうした、三代目!!」


 ばーんっと扉を蹴破らん勢いで開け、叫んでみた。


「いそいでおうとにむかうの。にばしゃがいるの!!」


「あぁ。予備部材まで出来たが、まだ試験が済んでいないぞ?」


「うぅぅ……。しけんがまだなの。んー、じっちしけんでいいの。じゃっきがかんせいしていれば、ぱぱでもしゃりんはかえられるの!!」


「ジャッキは先に作っているからいけるな。しかし、本気であれを使うのか?」


 熊おっさんが指し示す裏庭には、露天式の荷馬車が鎮座している。


「ぼくがいどうするとなると、うまにはのることができないの。さいあくにもつだけでもつんでいどうするの!! うなぎをまもりながら!!」


 私が力強く宣言すると、良く分からんという表情で熊おっさんが曖昧に頷き、一応の了解を得る。これで移動手段を確保した。


「まま、つぎはうなぎなの!!」


 ててーっと急いで母と一緒に走り回る。家族と護衛の食料を確保し、馬車引きの調教もしていない馬を宥めすかしながら荷馬車を引かせる訓練をしたりしていると、簡単に二日が経過していた。馬自体の調教は皆がみっちり仕込んでいたので、慣れれば素直に荷馬車を引くようになってくれたのは助かった。最終的には御者スタイルではなく一人が馬に乗って、他の馬に指示を出すスタイルになったのは時間が無い中ではしょうがないだろう。元々、人間は乗らず物を載せて人が横を歩くのを想定していた代物だ。乗りやすい馬車なんてまだまだ未来の話だ。


 二日目の夕食後、出発前の最終ミーティングとなる。


「本当に、ティーダも付いてくるのかい?」


 父が決めかねるように呟く。


「まだ体が耐えられるとは思わないのだけど」


 父の言葉に、こくりと頷きを返す。


「うなぎのせわはひつようなの。ほうほうをつたえるだけでも、だいじょうぶかもしれないの……」


「それならば……」


「でも、なにがおこるかわからないの。そのときにだかいさくをださないとだめなの!!」


 三日分の荷物と鰻を持っての移動は流石に両親と馬だけでは難しい。荷馬車が必要になる。その荷馬車が壊れた場合の世話などを両親が学ぶとなれば、また時間がかかる。出来れば、ヴェーチィーが王都に戻る前に全部を終わらせて国王に釘を打ちたい。


「ふぅむ……」


「それに……おじいちゃんとおばあちゃんにもあってみたいの」


 大家族主義の村の中において、祖父祖母なんてありふれている存在なのに、出会った事も無い。出来れば元気に育っている姿を見て欲しい。

 そう告げた瞬間、母がそっと抱きしめてくれる。


「ごめんね、ティーダ。私達の問題で寂しい思いをさせてしまって」


「ううん。さみしくはないけど、おじいちゃん、おばあちゃんはさみしいかもしれないから」


 私が冗談めかして言うと、父が大きく溜息を吐きながらこくりと頷く。


「分かった。だけど一つだけ約束だよ」


 真剣な瞳で、父が言う。


「いつもの無理は禁物だ。絶対に無理はしない事。いいね?」


 許しの言葉に、勝手に表情が明るくなるのが分かった。こくりと元気よく頷き、いそいそと床に向かう。明日は朝一で出発だ。



「では、後は頼むぞ」


 村の運営は文官さんと……。


「私が留守番ですか……」


 セーファ、それに族長達に任せた。族長だけだとちょっと頼りないけど、セーファが残ってくれるなら兵の運用も問題無い。


「村の防衛は任せた」


 今回、ベテランと若手は残して、中堅どころを集めて小隊一つ分を護衛として引き連れる事になった。そちらの食料を集めるのが一苦労だったのは言わない。

 荷馬車に母と私、それに鰻が入った桶が並ぶ。不慮の事故を想定し、積めるだけ積んでいく事にしたので、家族の荷物は最低限しか積めない。


「では出発する!!」


 父の言葉と共に緩やかに走り始める馬と荷馬車。その姿に興味をそそられたのか、子供達がわらわらと集まって横を並走してくる。


「いってくるねー!!」


 その中に見つけたフェリルやジェシ、ウェルシの姿に手を振り、初めての旅路へと向かう。どんな冒険が待つのかな、ちょっとワクワクする。


 そう思ってたのは、初めの三十分程度でした。


「おしり、いたいの……」


 馬で慣れている母は横に座っていても平然としているのに、私は悪路の荷馬車を舐めていた所為か、ずきずきとお尻が痛んで身動きが取れなくなった。ゴムを履いていない木製の車輪で走った事なんて無かったなと。結局母に抱きしめてもらいながらの馬車移動となった。ふぉぉ、格好がつかない!!

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