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第75話 誕生日の贈り物(タイプ:ウェルシ)

 大きな騒ぎも起きずに(きん)に関わる騒動が終わったので、私は日常に戻る。最近、幼馴染ーズは同性と遊ぶ事が増えたので少しだけ安心している。あんまりべったりされると成長の妨げになりそうなので怖かった。


「てぁー」


「とぉー」


 私は男の子達と混じって、チャンバラごっこに余念が無い。これも遊び一辺倒と言う訳でも無く、体作りと剣の訓練の為というのが大きい。長い棒を振り回す感覚は早い段階で慣れておかないと、大きくなってから感覚の把握に苦労する。重さは変わるが、長さはそこまで変わらない。どの程度の長さの物がどこまで届くのか。それをきちんと把握するため、チャンバラごっこに明け暮れる。


「むぅぅ、ティーダずるい。なんか、きちんときってる!! おしえてもらっている!!」


 と、男友達から物言いが入る。と言っても、時代劇の殺陣を真似ているだけなんだけど。何だか格好良いと言う事で、皆に教える事になった。偃月殺法とか覚えても役に立たないよ?

 ちなみに、父が使っている剣を見ていると、片刃で少し反りの入った鉈みたいな剣だった。偃月刀が近いのかもしれない。基本的には馬上刀なので、馬に乗りながら勢いで斬るのが主目的らしい。直刀だと折れるか曲がるので、反りが入っているのだろうと推測する。もう少し木材に余裕が出来たら木刀でも作って素振りが出来たらなと思いながら、カンコンと皆で遊ぶ。


 そんな日常を過ごしていると、夏の盛りも過ぎて、朝夕に過ごしやすい日もちらほらと現れる。そろそろ秋も近いのかなと。そんな秋の前に、ウェルシの誕生日だ。



 秋晴れと言いたいほどに澄んだ青空の下、ウェルシ達の誕生会が開かれる。


「おえーとぉ!!」


 人気者のウェルシにわらわらと子供達が贈り物を持って集まる。小さな子は泣きだしたりしている。明日からはウェルシも大人と一緒にお仕事の勉強を始める。中々会えなくなるのが寂しいのだろう。


「ありがとう」


 受け答えも凛々しく、もう大人の中でも大丈夫だと思わせるウェルシの姿に、目を細めてしまう。何というか、出来のいい子の門出を祝う親の気分のようだ。

 順にプレゼントを贈り、最後は私の番になった。最近誕生会の時にオオトリ扱いされているのは何故なのかとちょっと問いたい。


 子供らしくわくわくした表情のウェルシの手を取り、てくてくと歩き始める。面食らった表情のウェルシの後には、子供達やお母さん方がぞろぞろと付いてくる。

 現在建設中の執務拠点の隣に、平屋の講堂みたいな単純な作りの建物が真新しい木材の輝きを発しながら鎮座している。中にウェルシを導き、機織り機の前まで誘導する。


「これが、おいわいのおくりもの」


 じゃんっと言う感じで、ウェルシを前に出すけど、反応が無い。


「これ、なに? いとがかかっているけど……。おりきみたいなもの?」


 用途が分からなければ喜びようが無いか。テストに協力してもらった母に織り機の実演をしてもらう。パタコンパタコン、軽快なリズムでフットレバーを踏みながら飛び杼(シャトル)をシャコンシャコンと左右させる。飛び杼も車輪の概念を熊おっさんが飲み込んでくれたので出来た代物だ。まるで演奏会のようにリズミカルな織り作業にウェルシが目を輝かせ始める。将来的には複数の飛び杼を使った多色織にも挑戦したいなと思っていると、ウェルシがうずうずと母に近づいていく。そっと後ろにずれた母の間に座り、教えられながらウェルシがフットレバーを踏み、飛び杼を操り始める。歯車と滑車が使えるようになったので、子供の体重と脚の力でも容易くフットレバーは稼働し、ウェルシの思うままに動き出す。満面の笑みで機織りを楽しむウェルシの姿に、成功を確信した。


 その後は大変だった。飛ぶように布を織れる機織り機は各家庭でも垂涎なのだろう。使いたい使いたいというお母さん方の要望が押し寄せた。母ももみくちゃにされていたが、順次機織り工房に完成品を納品すると伝えると、徐々に鎮火していった。うん、忙しいだろうけど熊おっさんには泣いてもらうしかない。そろそろ弟子を育ててもらわないと、冗談抜きで過労死しちゃいそうだ。


 結局、機織りの講習会みたいになって、機織り機から離されたウェルシは涙目だったけど、明日以降は独占出来ると伝えられ、機嫌が戻った。お母さんと一緒に布を織るらしい。母子睦まじくお仕事してもらえれば嬉しい。

 そんな心温まる誕生会だった。


 日々は穏やかに流れる。川遊びの回数は徐々に減り、畑は実りの時期を待ちわび始める。そわそわと収穫祭の話が出始める夏の終わりもそろそろ見え始めた日の朝。

 母に歯を磨いてもらって、額と額で挨拶をしていると、家の扉がどんどんと荒々しく叩かれる。すわ、非常事態!? と身構えると、無言で父が玄関に向かう。


「青旗を持った使者が門まで来てる!! 王族のお越しだ!!」


 フェリルの父が兵と一緒に慌てた様子で叫ぶ。その言葉に、父が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「分かった。セーファを呼び出してくれ」


 旗の色でどのような人間が来たのかは大体分かる。国王は太陽の黄色。王妃は赤色。王孫が青色。レフェショヴェーダが紫色。レフェショが緑色になる。父も他の地に向かう時は旗を竿にくくって馬を駆っている。昔は緑だったけど、今は紫だ。


「なにかあったのかな?」


 私が首を傾げると、安心させるように母が柔らかく抱きしめてくれる。


「大丈夫。ディーが上手くやってくれるわ」


 気丈な微笑みを浮かべた母が頭を撫でてくれていると馬の嘶き、そして人が駆ける音が聞こえた。


「ディー!! 何をやった。ありゃヴェーチィー様の紋章だぞ!!」


「我儘娘か……。不味いのが来たな……」


 セーファの叫び声に父の苦い声が続く。何となく空気を察して、てくてくと父に近づく。


「ぱぱ、テテイさんとガラシャリーさんをいえからださないようにして。あと、すいしゃにはだれもちかづけないように。むらのひとにもこうがいむようとつたえて」


 熊おっさんと虎おっさんは色々事情を知っているから表に出すのはまずそうだ。後、水車に関しては間違いなくオーバーテクノロジーだ。井戸の滑車も隠したいがそんな時間は無さそうだ。後は……。あぁぁ、結構色々やっている。隠しきるのは無理だと頭を抱えてしまう。


「む……。そうだな。セーファ、頼めるか?」


「分かった。指揮権を借りるぞ?」


「頼む」


 父の返事が聞こえるか聞こえないかの勢いで、セーファが馬に向かう。嘶きが聞こえたと思うと、蹄の音は遠く去っていく。


「ヴェーチィーさまってだれ?」


 難しい顔で考え事をしている父に私は声をかける。


「ん? あぁ。国王陛下の一番下の娘だね。今は……七歳だったかな」


「わがままなの?」


 私の言葉にぶっと父が噴き出す。


「頼むからそんな事を目の前で言ってはいけないよ。聡い方だが、人を振り回す方でもある。粗相のないようにね」


 そういうと父は、お勤めに参上した文官達と一緒に執務拠点の方に向かう。


「しりあい?」


 残された母に聞いてみると、苦笑が返ってくる。


「そうね。苦労させられたわね」


 そっと頭を撫でられた。ふむむ、一波乱なのかな……。

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