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第68話 鶴だけの専売特許では無いです

 それからというもの、頻繁にフェリルとジェシの曾祖父が家に出入りしているのを見かけた。父の話では、相手は族長なので、門前払いは出来ないらしい。仕事に支障が出そうなので、止めて欲しい。


「はい、だーちゃま、あー」


「こっちのが、おいちーの。あー」


 私は口の端をぴくぴくさせながら、目の前の泥団子と葉っぱを見つめて、途方に暮れている。

 隙を見ては、フェリルとジェシが母に家での父の様子を聞きに行っている。そのフィードバックをこちらで試す状況だ。その通り演じないと駄目らしいので、色々ままごとも制約が出来て面倒くさい。

 私は書類仕事をする旦那さん役として、地面に文字の羅列を書かなければならないらしい。


「あまりめいわくをかけるのは、だめよ」


 そんな時の天使、ウェルシがててーっと近付いてきて窘めてくれると、二人がふぉぉと驚いた表情を浮かべて、ひそひそ相談した後、蜘蛛の子を散らすように退散する。


「ありがとう」


「ううん。みんなであそぶほうがいいから」


 慈愛の女神ウェルシもそろそろ四歳だ。この庭からは卒業して、家事手伝いや布を織る仕事に従事するのかな。その時に何か贈り物が出来れば嬉しい。

 母に相談すると、手織り機は各家庭に存在していて、家で使う布は自分達で織るそうだ。



「また、でけえな」


 差し出した薄板には、機織り機の機能概要と原理の説明、それに完成予想の簡易図が書いてある。詳細な設計なんて覚えていないので、熊おっさんが頼りだ。


「ぬののせいさんりょうがひやくてきにこうじょうするの」


 私が告げると、むむむと熊おっさんが唇を結ぶ。布の需要は高く、女性の主な収入源だ。村の中の潜在需要も高いし、交易の柱になりえる。絹製品なんて遥か将来だ。今は毛織物と木綿織物の生産を上げるだけで十分な収益を上げられるだろう。


「ここの詳しい図はねぇのか?」


 熊おっさんはペダルを踏んで経糸を上下させる機構が気になるらしい。


「くちでうごきはせつめいできるけど、えにかくのはむり」


 そう答えると、熊おっさんも唸ったまま動かなくなる。


「今、水車小屋の内部構造で手一杯だ。暫くかかっぞ?」


 その言葉に、私は頷きを返す。ウェルシの誕生日までに間に合えば良いんだ。気長にいこう。



 春の(うら)らかな日々は、あっという間に過ぎていく。その間も、族長と父との熱い攻防戦や、フェリルとジェシとの飽くなき逃走劇、兵士の人達の涙涙の訓練風景などがしっちゃかめっちゃか進んでいたが、取り敢えず時は進む。


 真夏の日差しは今年も健在で、川では仔豚達がオムツ姿で、川岸をぱちゃぱちゃバタ足する風景が広がっている。去年との違いは、水車の一号機が完成した事だろう。併設された建物は、粉挽き小屋と鍛冶の仕上げ小屋、それに実験小屋となる。それぞれに軸で動力を回して稼働させている。問題無く動くなら、水車の増設を検討すると父から言質を取っている。


 水車の完成により、粉挽き作業から解放された女性陣からは絶大な支持が寄せられた。地味に重労働だし、熱を出さないように挽かないと駄目なので時間がかかる。そんな気の滅入る作業から解き放たれたのだから、人気は鰻登りだ。


 それに鍛冶屋の保守作業も滞りがちになっていた。建設ラッシュに伴う金属部品の製作で鍛冶屋のメンバーがかかりっきりになっていた。特に研ぎの作業は一定の力量のある人間が時間をかけないといけなかったので、後回しにされていた。

 これには兵士の人も困っていた。切れない包丁、歯の鈍い斧、毀れた鍬、斬れない剣、大問題だった。それが丸砥石の導入で徐々に解消されている。

 元々の熟練度が低い人間が必死で加減を覚えてくれたので、鍛冶屋の人員を削らずに器具の保守が行えるようになった。今は、徐々に鍛冶屋の人間で持ち回りしながら習熟度を高めているらしい。


 と言う訳で、人手(リソース)がやっと余り出した。女性陣が多いので、糸の紡ぎや、布織へのリソースの移行を行っている。糸の量産は成ったが、布の方がボトルネックになっている。やはり手織り機では、生産が頭打ちになる。


「あちょぶの!!」


「てぃーだ、あちょんでくえない!!」


 そんな背景もあって、最近熊おっさんのところに出ずっぱりだったせいか、幼馴染ーズの機嫌は上場以来の大暴落の様相を呈している。株主様はカンカンだ。


「そろそろおよごうか。てをもっててあげる」


 ここは低姿勢にご機嫌を取っておこうと、提案すると、どちらが先に手を掴んでもらうかで喧嘩が始まる。ジェシは大人しい性格は変わらず、私に関わる部分だけは積極的になってきている。人付き合いは難しいなと、燦々と降り注ぐ夏の太陽を見上げた。

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