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第67話 外堀を埋めるのは定石です

タロの日記始めました。

情報公開をタロが行うページです。

https://www.facebook.com/160780581163195/

「……っぷ」


「わらったぁ!!」


 許嫁騒動の夜、母と一緒に父に相談すると、顔を背けられて噴き出された。大事な子供の将来の話なのに、噴き出すとかあり得ない。


「いやいや、すまない。先日相談を受けたのを思い出した。それがどうなったらそんな話になるかと思ったよ」


 父が宥めてくるが、ふと横を見ると母の表情は真面目だが、肩が震えている。


「まま……?」


「駄目……今は駄目よ」


 声をかけると表情が崩れて笑い出す。そうなると父も改めて大笑いだ。娯楽の少ない村なので、こんな事でも大騒動なのだろう。笑いの種にされる私は堪ったものではない。


「ふたりとも、きらい」


 私がそういうと、笑いが止み、やっとで家族会議が始まる。


「子供の言葉だからな。そんなものは誰も真剣には取り合わないよ」


 父がばっさりと言い切る。補足するように母が言葉をつなぐ。


「結婚に関しては家同士のつながりが重要だからそんなに気にしなくて良いわ。ティーダが気に入らないというのであれば、私達が守る事が出来るの」


 母が安心させるかのように微笑みを浮かべて言う。

 まぁそれなら安心したとほっと胸を撫でおろすと、母が更に言葉をつなぐ。


「それでも、約束をしたなら、あの二人が認めるような子じゃなければ難しいわ? 迂闊な子ね、ティーダは……。本当に」


 慈愛の表情を浮かべた母にそっと抱きしめられて、ぽんぽんと背中を安心させるように叩かれる。心配をかけてしまったと思うと、久々にじわっと勝手に涙が浮かんでくるので、ぐしぐしと母の胸で拭う。

 落ち着いた頃に、ごほんと父が一つ空咳をあげる。


「心配はしなくて良い、ティーダ。何があっても支える。そう約束したのだから」


 誕生日の日の言葉に、私も微笑みを浮かべてしまう。


「うん、あんしん。フェリルとジェシともなかよしなの」


 二人の名前を上げると、びしっと父の顔が固まる。うん? っと私が首を傾げると、母が冷ややかに父を見つめながら口を開く。


「族長相手に引いては駄目よ? レフェショでしょ?」


 母の言葉に苦笑を浮かべた後に、真剣な表情に戻った父が言葉を紡ぐ。


「勿論だ。どんな相手でも、約束は守るよ。私の可愛いティーダ」


 母に抱かれた私を安心させるように父の広い(かいな)が包み込む。その温もりにほっと息を一つ吐いて、眠り込んだ。が、眠りに落ちる間際に一つ疑問にぶち当たった。あれ、重婚って出来るの?




「ん? 出来るぞ」


 てんとんかんとん組み上げた木を木槌で叩いている熊おっさんが事も無げに答える。


「そうじゃなきゃ、男の数が足りん。兵になるにも男の方が有利っちゃ有利だしな。商人なんて過酷な仕事をするのも男が主だ。そうなれば、町に残っている男なんて、そうはいないだろ」


 そう言われてみて、ぽんと手を叩く。そりゃそうだ。父が交易に連れて行った男性は所帯を持っている人ばかりだったけど、あれは戦闘経験があるってだけではなく、今後交易を維持するのに若い男を使いたくなかったからなのかもしれない。と言うよりも、若い男は他の手段で稼ぎたいと思うだろう。もしくは一気に稼いで、村で家を買ったりとかか。どちらにせよ、長くは続かない。


「しょうにんさんは、かていをもたない?」


「店を持っちまえば相手の親御さんも認めてくれるだろうが。中々交易商人のままで結婚出来るというのは聞かないな」


 そりゃ、いつ死ぬか分からない相手に大事な子供を預けたい親がいるかという話か。中々に世知辛い。結局、お金がある男性に女性が集まる形になっている。一夫一婦制というのは豊かな環境なら上手く回るかもしれないが、過酷な環境では絵に描いた餅なのだ。


「お前さんならまぁ、引く手あまただろうな。レフェショだって血筋ではなく王様の承認が必要だ。それでも、二代続けば三代目もって考えるしな。はは、上手く避けろよ、三代目」


 熊おっさんが高らかに笑うが、残念。既に貰い事故済みだ。しょんぼりだよ。

 取り敢えず、水車小屋内の機械部分の仮図面に注釈を入れ終わった段階で、母に手を引かれて家に戻る。



「久しいな、三代目」


 少しずつ暖かい日が増えて、春も深まってきたなと思う日々。庭で皆と遊んでいると、珍しいお客様が現れた。


「じーじ!!」


 珍しくてーっと走っていったジェシがでーんと抱き着く。ジェシの曾祖父が好々爺然とした表情でよしよしとジェシの頭を撫でる。日頃寄り付かない長老会の人間が態々ここに来るとか、胡散臭い。胡乱な目つきで挨拶をすると、ジェシの曾祖父が苦笑を浮かべて手を振る。


「そう、嫌うな。別に結婚をごり押ししに来たわけじゃぁないぞ」


 ほら、語るに落ちた。老人はこうやって陰険な手を使うから嫌だ。


「それでも可愛い玄孫の未来じゃからな。悲しむような事にならん事を祈っておるだけじゃ」


 ちらっちらっと笑みを浮かべながら哀れを装う(じじい)。ほら、外堀を埋めに来ている。がるると不信感を露に唸っていると、大人な笑みで家の方に退散したが、埋められるのも時間の問題かなと。

 人生とはままならないものだなと、疲れた溜息を一つ吐く。


 空は薄い雲に覆われた青空。恵みの春は、その大らかな優しさを存分に地上に降り注いでいた。

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