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第66話 口は災いの元

お知らせです。


ただ幸せな異世界転生が書籍化致します!!

出版社はGAノベルス様となります。

発売時期はまだ完全に決まっておりませんが、今冬の予定です。


よろしくお願い致します!!

「みちぇーみちぇー」


 家の庭で日向ぼっこをしていると、ジェシがちらっちらっとおしゃまな表情を浮かべ、振り返るポーズで櫛を見せつけてくる。


「か……かわいいよ?」


「むふー」


 満面の笑顔で横に座るジェシ。ふと寒気を感じて背後を見ると、ぬいぐるみを抱きしめながら憤怒の表情で立つフェリル。げきおこである。やめてあげて、私が表情を作ったぬいぐるみが悲壮な顔になっている。げに恐ろしきは女性の美に対する欲求か。


 本人の適正に合ったプレゼントを贈ったつもりだったのだが、なんともかんともである。ちなみに、フェリルにぬいぐるみを櫛と交換するかと聞いてみたが嫌なのだという。ぬいぐるみは大事。どうも寝る時も欠かさずに一緒だとフェリルのお母さんに聞いた。聞いた時には、フェリルにぺしぺし叩かれていた。ふーむ。気に入ってはいるのか。


 この辺りの思慮に欠けると言うか、前世もそうだった。娘にプレゼントを買ってきても、母と娘に駄目出しされる毎日。かといって、お金をあげても情緒が無いと言われる始末。困ってしまってしまう。ぽてりと肩に乗せられたジェシの頭の重みを感じながら、どうするかなと悩む。



「女の子の気持ち……?」


 困った時は先達に聞こうと思って、父に聞いてみると絶句された。詳しく状況を伝えると、噴き出された。こちらが真剣に聞いているのにとぷんぷんしながら部屋に戻ろうとすると平謝りされた。母の髪の毛の世話をしないと言ったのが効果的だったらしい。


「ティンもそこはさっぱりしている気質だからね。難しいな」


 と、父の武勇伝を聞いていたのだが、全く参考にならない。私は前世、昔から持たざる者だったので色々考えていたが、父は持つ側の人間だった。イケメンで戦闘の猛者、王の覚えめでたく、土地持ち。うん、優良物件だ。そんな父が昔から慕い合っていた母と艱難辛苦を乗り越えてゴールインしたのだから、ハンカチを食い千切っても陰湿な嫌がらせを受けるほどにはヘイトを稼いでいない。と言う訳で、全く参考にならなかった。


 困ったなと、部屋に戻りラーシーと戯れる。存分に走り回った後にマッサージをして、わしゃわしゃと撫でると興奮が振り切ったのかぴくぴくしながらお腹を向けているので、優しく撫でてあげる。


「不機嫌ね」


 ふと顔を上げると、水を入れたカップを頬に当てられる。


「まま……」


 女心は女性に聞くべきかと、状況を説明すると、父と同じ顔で噴き出される。こういうところは夫婦で似るよなと思いながら、ぷいっと憮然な表情を浮かべて顔を背けると、柔らかいぷにぷにが押し付けられる。


「ごめんなさいね。可愛らしかったから」


 若干過呼吸気味に引き攣りながら母が頬を当ててくるので、うりうりと返して、仲直りだ。


「ジェシちゃんも奇麗になったから。自信が出ちゃったのね。フェリルちゃんの後ろを追うだけだったもの」


 少しだけ遠い目で母が呟く。


「おたがいにじしんをひきだしたら、たいとう?」


 私が問うと、母が右手の人差し指を唇に当てて、うーんと唸る。


「関係性はその時々で変わるものだから。変わらない関係なんて無いわ?」


 と言われたのだが、全く答えになっていない。母が空になったコップをお盆に乗せて部屋を出ると、再びころころと転がりながら悩む。最近手足が伸びてきたのか、ちょっと転がりにくくなってきた。成長痛とかはないから、徐々に伸びているのかなと。悩みつつ途方に暮れる。ラーシーは満足そうな顔で大の字で眠ってしまった。大物である。




「やくちょく?」


 何かの物で釣ると言うのも難しいなと思っていたので、ある日二人を引っ張って話をする事にした。


「ふたりともたいせつだし、だいじにするよ」


 うん。二人が私にとって大事なんだと理解してくれれば、ギスギスした雰囲気も無くなるかも。そう思って告げてみたが、俯いた二人はふるふる震えるままで返事が無い。

 あれぇ? と思っていると、ばっとフェリルが顔を上げる。


「およめちゃん!!」


 フェリルが叫ぶと、ジェシも負けじと顔を上げる。


「およめしゃん!!」


 びしっと引き攣った口の端をぴくぴくさせていると、二人がだーっと猛牛の勢いで、自分達のお母さんの元にダッシュしていく。スローモーションで繰り広げられる大興奮の二人の報告と、にやりと笑ったお母さん方二人。一瞬の昏い笑みは満面の笑顔に変わって末永くよろしくねという口の動きと共に、手を振られる。


「だー!! ちがうのー!!」


 私が誤解を解こうとお母さん方井戸端サークルの元に向かおうとすると、がしっと掴まれる。両腕を見ると、煮えたぎったような上機嫌の二人ががっちり両腕を掴んで離さない。


「あちょぶの、ままごお」


「だーしゃんなの。だーしゃんのやく」


 ずりっずりと引っ張られる私が首を懸命に振って誤解をアピールするが、お母さん方に囲まれた母がそっと振り返った表情は冷めたものだった。迂闊。母の口の動きは雄弁に物語っていた。



 二歳の春、私、許嫁が二人出来ました。

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