第64話 誕生日の贈り物(タイプ:ジェシ)
お知らせです。
ただ幸せな異世界転生が書籍化致します!!
出版社はGAノベルス様となります。
発売時期はまだ完全に決まっておりませんが、今冬の予定です。
よろしくお願い致します!!
あいにくの雨模様になったが、今日はジェシ達の誕生日を祝う日。子供達は春にしては肌寒い気温の中、火鉢の周りに集まって誕生日の子をお祝いしている。
「おえーとぉ!!」
今日の主役達が、両手一杯にプレゼントの山を築いていく。ジェシも顔を興奮で真っ赤にしながら、お母さんにプレゼントを預けに行っては戻りと行ったり来たりだ。
一番の友達であるフェリルが可愛らしい刺繍が施された髪紐を贈ると、感極まったのか二人で泣き始めたのでお母さん方が宥めに向かった。この後とか、物凄くハードルが高いなと戦々恐々としながらジェシの前に立つ。
「てぃーだの」
きらきらした瞳が物凄く期待の色に染まっている中、私はそっと小箱を渡す。その瞬間、ジェシの落胆した表情と後ろから覗き込んでいたフェリルの勝ち誇った顔が交錯する。大きさで比べてもしょうがないんだけど、子供心にはそう言うのもあるかなと。
「あけてみて」
私が言うと、ややぎこちない手つきで箱を開け始める。ショックが強かったのか、目を細めて蓋を開けて、くてんと首を傾げる。
「こえ、なーに?」
木で出来た櫛をそっと持ち上げると、ジェシが不思議そうに見つめ始める。
「ふぉ!! おはな!! きえー」
ジェシが蔦模様と春の終わりに咲く百合をあしらった浮彫に心奪われたようにぼーっと見つめている。後ろでは、その飾りに嫉妬心を刺激されたのか、フェリルが肩をがじがじと噛んでくる。痛い、本気で痛い。痣になる。
「これはね、こうつかうの」
ジェシが握りしめた櫛を受け取り、そっと髪の毛を梳る。ブラシとしては、毛の硬い豚っぽい動物の毛皮で作られた物が存在するが、そこまで品は良くない。それに消耗品と言っても高価だ。子供に至っては、髪を梳かしてもらう事など大きな行事の時くらいだ。
今回ジェシのプレゼントのために、熊おっさんに薄い鑢を作ってもらい、歯の間隔が緻密な櫛を作ってもらった。ざんばらでぼさっとした長髪を優しく少しずつ整える。
「きもいいー」
うっとりするように目を細めながら、ジェシがぽつりと呟く。それに合わせて、肩の痛みが増す。フェリル、痛い。本当、勘弁して下さい。
細く若干猫っ毛だった髪は、櫛の油分で輝きを取り戻し、美しく光沢のあるストレートに変わっていく。木に関しても椿の近縁種があったので、それを材料にしてもらった。油分が多くて実から油は採れるけど、煙が出るため薪に使いにくい種類で、建材に使うにも節が多いので嫌がられるので、打って付けだった。
お母さん方も、ジェシの変化に驚いたようにざわめきながら、徐々に近づいてくる。輪が狭まる中、フェリルの髪紐でゆったりと結んで櫛をそっと差し込む。
「かんせい」
私が告げると、お母さん方からほぅっという溜息にも似た声が上がる。ジェシは元々少し大人びた深窓の令嬢といった雰囲気を感じさせる子だったが、その魅力が今完全に解き放たれている。腰近くまで伸びた美しい長髪は艶やかな光沢と共に、緩やかな弧を描き、背中で結われている。
くるっとおしゃまな感じでジェシが体を回すと、お母さん方から歓声が上がる。
「そういう風に使うのね……。私も作ってもらおうかしら」
苦痛の表情に気付いてくれたのか、母が噛みつき怪獣をそっと外してくれた後に、肩を抱きながらそっと呟く。
「ままはいまのままでじゅうぶんきれい」
私がそう言うと、ほんのりと頬を染めながら、うりうりと頬を押し付けられたので、押し付け返す。恥ずかしがり屋の母だ。
「ふぉぉ……。きえぇ……」
ジェシが後ろ髪を前に回して見つめた瞬間、うっとりとした声音で呟く。と、その瞬間、ばっと飛び掛かってくる。フェリルと違って大きなアクションをしないと思っていた私は虚を突かれて、としんと尻もちを着く。いててと思いながら、ジェシを見つめると、キラキラがギラギラに感じるほど濡れた瞳で、ガンを付けられている。いや、あまりにも真剣な目だったので、怖い。ウェイト、ジェシ、ウェイト。
「てぃーだ、ちゅき!!」
がしっと首を掴まれた私はそのまま引っ張られたので、とっさに顔を背けたのだが、むにゅりと柔らかいものが頬に当たる。
「あーーーーーーーー!!」
フェリルの叫び声と共に、部屋は温かな笑い声に満ちる。肝心のジェシは興奮で我を忘れたのか、必死で抱きしめてくるので、呼吸がし辛い。苦しいと思っていると、フェリルが絡んだ腕を外そうとしてくれる。救助かと安心したが、その鬼のような形相を見て、ひくっと口の端が動いてしまう。はぁぁ、二歳児でも女の子は女の子か。と言うか、遂さっき麗しの友情を確かめ合っていたじゃないかと。恐ろしきは女の嫉妬かと思いながら、必死でジェシの背中をタップしながら、救援を待つ事にした。




