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第63話 刃物の意味

お知らせです。


ただ幸せな異世界転生が書籍化致します!!

出版社はGAノベルス様となります。

発売時期はまだ完全に決まっておりませんが、今冬の予定です。


よろしくお願い致します!!

「お、三代目、良い肉入ったよ!!」


「三代目、テールの実はどうだい、甘いよぉ?」


 ジェシの誕生日が近いと言う事で、熊おっさんに頼んであった物を受け取りに村を歩いていると、市場の雑踏辺りから頻繁に声をかけられる。私は羞恥のあまり俯きがちになる。というのも……。


「まーま、あのこ、けんもってるー」


「あら、そうね。小さいけど、偉いわね」


 ふふふふふと生暖かい笑みで見知らぬお母さんに会釈されるのに、こくりと挨拶を返すが、恥ずかしい。この四歳児からの刃物というのは身分証明の意味もあるので、腰に差す必要がある。と言う訳で、やや反りのある小刀を鞘に入れて、差しているのだが、落ち着かない。


「まま、つけなきゃ、だめ?」


「ふふ、そうよ。ティーダはもう、それを着けても良いって認められたんだから」


 母は上機嫌で歩いているが、家を出る時に腰に小刀を差した姿を見た途端号泣してたのは内緒だ。ちなみに、子供達の中で遊んでいる時は、母に預かってもらっている。もし、何かの拍子に抜けでもしたら大変だ。そればかりは認めてもらった。



「おぉ、どうした、三代目?」


「たのんでいたものはどうですか?」


 私が問うと、ぱんと手を叩いて、そそくさと奥に向かう。戻ってくると小さな箱を渡してくる。


「言われた通り作ったが、そんな物、何に使うんだ?」


 熊おっさんが可愛らしく首を傾げながら聞いてくる。全然似合わないが、敢えて指摘するほどでもない。


「ないしょです。わたしたあとにおしえます」


「そりゃぁ、たのしみだ」


 熊おっさんが破顔したのを見届け、小さな彫刻刀を借りて、家に戻る。

 ちなみに、誕生日に贈られる刃物は一種の免許みたいなもので、これより小さな刃物は使っても大丈夫という証になる。子供が勝手に刃物を振り回さないための処置でもある。ちなみに十五の際に剣を贈るのは、人生においてどんな刃物を使ってでも切り開き、生き抜きなさいという意味も持っている。


「あら、ティーダ、大丈夫なの?」


 夕食が終わり、父が残務処理のため執務室に戻って広くなった居間のテーブルに、プレゼントを置いて、彫刻刀を入れる。力を込めて、刻もうとするが、深く入れると全く動かない。引っ張っても抜けないし、(こじ)ると不格好な線が刻まれる。はぁぁと溜息を吐くと足元で転がっていたラーシーが呼んだ? という表情で見上げてくる。


「ほら、貸して。ん。はい、ティーダ」


「ありがとう、まま」


 母に渡すと、ひょいっという感じで引き抜いてくれる。お礼と一緒に頬を差し出すと、母がむにゅっと頬をくっつけてうりうりとしてくる。


「鉄筆で凹ませるより難しいわよ?」


 母も幾ら私が刃物の所持を許可されたと言っても、心配なのだろう。傍に待機して、じっとこちらを心配そうに眺めている。


「うすく、すこしずつけずるね」


 刃を余り立てずに、しゃりしゃりと軽く、微かな音を鳴らしながら、徐々に削っていく。だが、この二歳時の体は言う事を聞かない。積み木などでリハビリは随時行っているが細かい動きと言うのはまだまだ難しい。そもそも筋力そのものが足りないのか、思った以上に思い通りに削るというのは難しい。運針の時もそうだったが、まだまだ成長を待たないと色々と自身でやるのは無理だなと。


「あらあら……。思った以上に綺麗に彫るのね……」


 母が胸をぽてんと頭の上に置いて、後ろから覗き込んでくる。と言うか、この村の人の彫刻の腕は凄い。文化的なものなのか、削ったり磨いたりに関していえば、かなりの腕だ。学校の図画工作レベルの腕では全く太刀打ち出来ない。それでも二歳児が作った物と考えれば良いかと。


 暫く母に見守られながら、一心不乱に削っていく。芸術作品を作る訳では無い。丁寧に相手を思って作れば良い。そう思いながら、集中していると、いつの間にか背後の気配が増えていた。


「完成か……。上手いものだな。大工の素質もあるのか?」


「ていねいにほっただけだよ」


 ふぅっとプレゼントを吹くと、奇麗に模様が浮かび上がる。


「ふふ。こんなのをもらう相手が羨ましいわ」


 母が少し熱い吐息と共に囁くと、父が若干渋い顔をする。あまり手先が器用で無い父は中々手作りのプレゼントと言う訳にはいかないらしい。

 一度テーブルの上の木屑を落として、箒で掃き、片付けを済ませる。彫刻刀は返しに行くまで父に預ける。


「きちんと片付けまで出来て偉いわ」


 母が嬉しそうに頭をなでなでしている間、ジェシが喜んでくれるかなと、当日の予行演習を考えていた。

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