第59話 誕生日の贈り物(タイプ:フェリル)
第一関節と第二関節がやっとはっきりと区別出来る程度に伸びたとは言え、紅葉は紅葉。自分で針仕事が出来る訳でも無い。元々、前世では奥さんより針仕事は上手かったので、子供の家庭科の授業などの手伝いは私の役目だったが、ここでは素直に母に頼る事にする。その代り、お手伝いを頑張る。
「はい、ぱぱ」
朝の食卓にそっと皿を並べる。顔よりも大きな皿なので、慎重に静かに。足元は確認してから前に進む。脳内の指さし呼称、良し。
「手伝いか。感心だね」
そっと撫でられる頭にくすぐったい表情を返す。
「ティーダったら、フェリルちゃんの誕生日の贈り物のために頑張っているの。可愛いわ」
後ろからそっとばらす母の膝をてしてし叩くが、痛痒にも感じていないように、くすくす笑われる。
「そうか。もう春か。ティーダもそろそろだな」
「あい!!」
父の言葉に元気よく手を挙げる。
洗い物を踏み台に乗ってお手伝いしたら、次は掃除だ。麦藁を束ねた箒で丹念に掃除をする。後ろからは新しい遊びだと思ったのか、ラーシーがてちてち付いてくる。母はその姿を見て、悶絶しているのだが、何が起こったのだろう。隅も奇麗に掃き出して、塵取りに集める。
「あらあら……。本当に綺麗。こんな端の方まできちんと掃いているのね。ふふ、良い奥さんになれそうね」
母がクスクスと微笑みながら言うので、てしてし叩いておく。
「じゃあ、作りましょうか」
母の言葉に頷き、部屋に戻る。買ってきた布に、薄く炭で型を描いていく。母は、紡がれた糸から、布に合う色を探している。
「見本はこれなのよね。綿も高いのに、こんなに入れて良いのかしら」
「ふかふかするのがたいせつなの」
「そう。お布団みたいね」
母が若干の戸惑いを見せながら、型通りに布を切り、チクチクと縫い合わせてくれる。その手つきは恐ろしく繊細で緻密、そして迅速だ。運針の間隔は一定で、糸の調子も乱れない。やっぱり刺繍文化って凄いなとほけぇと見つめてしまった。
「あ、あんまりつめこむとかたくなるの。やわらかくいれて」
「そう? こうかしら」
「そうそう」
母が苦笑を浮かべながら、指示に従って、徐々に形が出来上がる。最後に部品を縫い付けて……。顔の部分はちょっと下手糞だけど、私も針を入れてみた。味のある表情になったと思う。
「かんせい」
「こうみると……可愛いわね。こういうの色々作ってみようかしら……」
母が持ち上げてくるくると、回しながら、状態を確認する。正直、売り物と言っても遜色の無い出来だ。綿がはみ出す余地も無い。完璧な仕上がりに、抱き着いて喜びを表現すると、そっと抱きしめ返される。
「ティーダも、裁縫の上手なお嫁さんに巡り合えると良いわね」
にこやかな母の言葉に、はははと乾いた笑いを返す。
「たんよーい、おえーとー!!」
ついに迎えた、フェリルの誕生日。皆で贈り物を持ち寄る。彫った木の人形や木の実で作ったネックレス、花の髪飾りなどが並ぶ中、超期待に満ちた視線が私を貫く。
「はい。よろこんでもらえるとうれしいな」
熊おっさんに細工を施してもらった箱を渡すと、ほわわわわと興奮度が上がるフェリル。いや、箱がプレゼントじゃない。中身、中身。宝箱をもらった子供がはしゃぐようにクルクル回っていたフェリルをなだめ、開けてもらう。
「うわぁ、リィーン!!」
箱から現れたのは生成りの白に可愛らしい目鼻が縫われたファニュのぬいぐるみだった。フェリルの機嫌が限界突破して、でーんとタックルしてくる。
「かあいい、うえしい、てぃーだ!! ちゅきー!!」
がしがしと噛まれるんだけど、これフェリルのお母さんの趣味なのかなと、胡乱な視線を向けると、違う違うと手を振られる。女の子達にも好評で、次々と手渡されて、いいなぁいいなぁという叫びが上がる度に、フェリルのえへん顔と返して欲しい顔が交互に現れる。
「まぁ、可愛いわね。ここもしっかり縫っている。こんな形に出来るのね……」
お母さん方も始めて見るぬいぐるみに創作意欲をがしがし刺激されているのか、品評とテクニックの読み取りに忙しい。何か、壊して構造を調べようとしているフェリルのお母さんにフェリルが一生懸命蹴りを入れていたのは内緒だ。
「わたちも……」
そんな中、ジェシが涙目で裾を引っ張ってくるので、頭を撫でておく。
「たのしみにしておいて」
そうにこりと微笑むと、ジェシの表情にも明るさが戻った。




