第58話 はぢめてのおかいもの
取り敢えず、試験用の水車α一号君は完成したので、後は熊おっさんに任せた。基本的には寸法をそのまま拡大するだけなので問題は無いだろう。心棒の強度なども荷重実験で確認済みだ。これで日常が戻ると、日々ラーシーと戯れている。
「ひゃふひゃふ!!」
「こっちだよー」
「ひゃふひゃふ」
「はははーここまでおいでー」
庭をラーシーと一緒に駆けまわる。暖かくなってきて、雪の気配も無くなった庭は植物達が元気に生え始め、まるで緑の絨毯を敷き詰めたようだ。その上をころころと転がりながら、ラーシーと遊ぶ。駆け回ると言っても、まだよちよちがグレードアップして、てちてちに変わった程度だ。本気でこちらがてくてく歩くと、コンパスの差でぶっ千切ってしまうので、様子を見ながら徐々にだ。
「ひゃふ!! ひゃふひゃふ」
イヌ科の常か、ラーシーも動き回るのが大好きだ。後ろに荷車α一号君を付けたまま、てちてちと付いてくる。荷車α一号君に関しては、外すと嫌々するので、寝る時と食事の時以外は装着している。適度な負荷と皆が注目してくれるのが好きらしい。人懐っこい性格の生き物らしい。
「ふぉぉ、らーちーなの!!」
「ぉえー!!」
庭に回り込んできた幼馴染ーズも混じり、ラーシーが狂喜乱舞する。はっはっと息を切らしながら、その短い脚を器用に使って縦横無尽に走り回る。その姿が何とも愉快で可愛らしい。ある程度走り回ると力尽きたのか、母が用意した皿の水をペロペロと舐めて、腹を見せて転がる。そのお腹を優しく撫でながら、私も休憩する。
もう、ちょっと運動しただけで、暑さを感じる陽気も混じるようになった。春も近いなと思っていると、でーんと背後から幼馴染ーズが抱き着いてくる。
「あのね、あのね!!」
「たんよーび!!」
そう、もうすぐフェリルの誕生日だ。子供に関しては現世の人間として祝われる一歳、生き延びた事と人間社会に組み込まれる事を祝われる四歳、大人として認められる十五歳が大きな誕生日イベントだ。他の誕生日に関しては家族や親しい友人などが祝ってくれる感じになる。
「おくりものかんがえるよ」
私がいうと、フェリルが顔を赤らめていやんいやんとする。ジェシはその姿を見て、良いなぁという表情を浮かべるので、頭を撫でておく。
はてさて、女の子に贈る物……。ふーむと思いながら、個人資産をチェックする。実は父と相談し、燻製の販売を交易として始める頃から、利益の割合でお小遣いをもらう約束を取り付けていた。これも個人資産が無ければ自由に発明が出来ないからだ。そんな訳で、貯金箱を覗きに行ったのだが……。
「また……額面の大きな硬貨ばかりだな……」
父も杓子定規にきちんと支払うので、ちょっと子供の金額というには多すぎる額になっている。水車小屋を建てられる程度の金額にはなっているので、燻製の儲け、恐るべしだ。かけ払いは無いので、いつもニコニコ現金払い。しかも販売に行くのも村切っての武闘派集団だ。とりっぱぐれが無い。その上、現在でも生産量をじわじわ増やしながら新規開拓しているので、貯まる一方だった。
「一人で買いに行くのは流石に無理……か……」
と言う事で、母に相談したところ、村の市場に連れて行ってくれることになった。てくてくと母と手をつなぎ、高台からの道を歩く。春の日差しは麗らかで、歩いているだけでうきうきしてくる。戦争の時は家に避難していたのか、各家の軒先には鶏や山羊、羊が寝そべったり、餌を食んでいたり、その横を番犬のようにきりっとした表情のファニュがころころ転がっていたり、長閑だ。
村の中心まで到着すると、色々なお店が露店で並んでいる。村といってもそこそこの規模があるので、市場も中々盛況だ。ちょっとした食べ物の露天なんかもある。あの辺りが筆頭になって、戦争の時に補給部隊を構築してくれた。
「おかしたべる」
私がててーっとまず向かったのは、焼き菓子のお店。鉄板でホットケーキみたいな物を焼いて、蜜をかけてくれる。簡単なお菓子だが、値段は夕食一食分くらいになる。お高いが、主婦達には大人気の店だ。
「無駄遣いしちゃ駄目よ?」
母は苦笑しながら言うが、ふにゅっと半分に割って差し出すと、嬉しそうな表情を浮かべる。親子仲良く、道の端に座って、はむっと食する。素朴な穀物の香りと、蜜の味が気持ち良い。麦芽糖みたいな香りがするので、水飴を伸ばした物かなと。生まれて初めての甘味に満足した表情をしていると、母がそっと口を拭ってくれる。
「ふふ。こうしていると、本当、子供ね」
ニコニコ顔の母に頬を近付けると、ムニュムニュと頬で迎撃してくれる。その後は二人でプレゼントを、あれでもないこれでもないと探し回った。既製品でも良いのだけど、出来れば手作りの方が良いかなと。布と糸、それに綿を買い込んで家に帰る事にした。




