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第55話 熊おっさん、あらわる、あらわる。

「おう、お前さんが三代目か」


 夕方、皆が帰った後に、そっと柱の陰に隠れていた男が姿を現せた。ちなみに、その義娘さんはお母さん方に平謝りしている。一つ年上の、レレグン君のお母さんだ。


「はい。ティーダです。一つです」


 私が素直に答えると、胡乱な目つきでこちらを眺めてくるので、こちらも観察してみる。四、五十くらいの長身。熊みたいな髭。目つきは悪いが瞳はキラキラして可愛い。熊みたいな容貌だが、心はウサギっぽい。よしあだ名は熊おっさんだ。


「お義父様、粗相の無いようにして下さい。お相手は、神童、レフェショ様のお子さんなのですから」


 レレグン君のお母さんが口を酸っぱくして言っているが、私としては内心ぐんにょりしている。戦争の時から徐々に神童の噂みたいなのが市井に定着している。これ、平時なら問題無いのだけど、何かあった場合に父を陥れるための神輿に担ぎ上げられかねない。この対応も考えないといけないなと思いながら、しょんぼり小っちゃくなっている熊おっさんによぉっと言った感じで手を挙げてみる。


「迷惑かけたな」


「だいじょうぶ。でも、おかあさんたちはふきげん?」


 私がぼそっと伝えると、ぐさっと胸に何か突き刺さったのか、ふぐぅっと胸を抑えて、前のめる。きっと日頃から井戸端会議ネットワークに色々ねちねち言われているのだろうなと。レレグン君のお母さんがはぁぁと溜息を吐きながらも、レレグン君を連れて帰る。


 私は熊おっさんを連れて、母に声をかけてから応接室に入る。上座によじよじと登って、きゅきゅっとお尻で位置を調整する。


「あらためて、はじめまして。れふぇしょ、でぃーがこ、ティーダです」


「おでれぇた。きちんと喋れんのか。神童っつぅのは嘘じゃねえんだな。俺は、ジラーフ。大工だ」


 母が態々お茶を持ってきてくれた時に、そっと耳打ちしてくれる。大工さんの棟梁らしい。私はそんな説明より、久々に飲むハーブティーに興味津々だ。白湯も嫌いではないが、お茶を飲みたい。香りがまだはっきりと分からなくても、お茶が飲みたい。くぴっとカップを傾けてから、静かに口を開く。


「ごようけんはなんですか?」


「おう、図面の件だ。良いか?」


 テーブルを指さして尋ねるので、こくんと答えると、勢いよくバンッと板を置く。いや、もっとね。丁寧にお願いしたい所存なのですよ。何で、そんなに大雑把かな。そう思いながら、図面を見つめる。


「ぼくがかきましたが、これが?」


 くてんと首を傾げて聞くと、ふるふると熊おっさんが震えだす。もう、こんなおっさんは熊おっさんで十分だ。


「これがじゃねえよ!! こんなの描けたら大工いらねぇじゃねぇか!!」


 私はその言葉に目が点になる。熊おっさんの言い分では、これだけの図面があれば、その通りに切り出して作れば、誰でも物を作る事が出来る。商売あがったりだという話らしい。

 ふぅぅと溜息を一つ吐き、お茶で口を湿らせてから、言葉を紡ぐ。


「どんなにしょうさいにかかれても、ずめんはずめんです。もののきりだし、かこう、しあげ、こうちくにどれほどのぎじゅつがひつようか、やっているほんにんだからわからないかもしれませんが、ふつうのひとにはむりです」


 だーっと告げると、引き攣ったように、お、おぅみたいな返事がくる。


「それに、ながねんのかんで、ずめんにふびがあるかのかくにんをするのがまずせんけつでしょう。うちにもんくをいいにくるじかんはありません、かえってしらべてください!!」


 はっきり言い切ると、熊おっさんが腰を抜かしたように、ずり落ちる。


「いやな……主眼はそこじゃねぇんだ。実は感服しちまってな」


 いざ落ち着いてみると意外に理性的な熊おっさんである。そうでなければ、繊細な大工なんて仕事は出来ない。円の引き方や、その拡大方法など、聞かれた事を素直に答えていくと、恋する乙女にも似た熱い視線を感じる。


「三代目!! 俺の代わりに大工の……」


「きゃっかです」


 訳の分からん話になりそうだったので、さっさと切り上げる。取り敢えず、おもしろ熊おっさんという人材をゲットしたので、水車α一号君の完成は近いかな。直接指揮をしろと言われたので、工房に出向かないといけない。母の許しを貰わないとなと、今からどう切り出すか胃が痛くなってきた。

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