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第52話 本当は凄い、世界の発明

「ひゃうひゃう。ひゃうぅ?」


 テーブルの下で元気よくご飯をせがむ声に、はいはいと答える。急いで粥を流し込み、湯煎していた乳をラーシーにあげる。


「手際が良いな……」


 父が呆然と呟く。粗相があれば面倒をみる算段なのだろうけど、犬の世話は十分慣れているし、小型犬なのでこの紅葉のような手でも、問題は無い。


「そうなのよ。夜中も授乳してくれたみたいで……。無理しちゃ駄目よ、ティーダ」


「はい。でも、ぱぱもままもおつかれだから。できるかぎりはやるよ」


 私がそういうと、ほぉっと感心したような表情を浮かべた父と、まん丸お目目から、だばぁっと涙を流し始めた母。おいおいと嬉し泣きをしながら、父に抱き着くほどなのか。


「こうえきのもうけから、せいかつひつじゅひんをていきょうしたかたちだけど、まちのひとのかんじょうはどうかなぁ」


 正直、直接の交流が無い故、この辺りの実際の評価が全く見えない。良かれと思う物は用意出来るのだけど、本当に良いかは現場の声を吸い上げないと伝わらない。


「その辺りは上々だな。褒美と言っても、殊勲者に家畜を、その他にはささやかではあるが報奨金を渡す程度だ。生活していれば、すぐに無くなる。それに比べて、この冬限定とはいえ、寒さが一冬和らぐと言う方が余程嬉しいようだな」


 父の言葉にほっと胸を撫でおろす。


「ふふ。奥さん方も喜んでいるわ。洗い物だけじゃなく洗濯もお湯交じりで出来るようになったから。冬は洗濯が大変なのよ。腰もすぐに痛くなっちゃうし」


 母が実感の篭った口調で言うと、父がやや困ったような様子でこほんと咳ばらいをする。ただ、ご婦人方の評価が高いのは朗報だ。家の主はお母さん方なので、ここの声が良い限りは治世は盤石と見て良いだろう。


「炭は量産しないのか?」


 私も先を考えているが、父もなのだろう。やや、期待する表情で聞いてくる。利点が多く見える分、欠点が見えにくい部分もある。


「すみのゆうしゅうなぶぶんは、ねんしょうじかんがながいことと、おんどのいじがよういなこと、そしてけむりがすくないことなの。それをのぞけば、まきのほうがゆうしゅうだよ。ほんかくてきにすみをせいさんするなら、せつびをととのえて、たいりょうのねんりょうがひつようになっちゃう」


「ふむ。結果と求める事が逆転すると言う事か。そうだな、優秀な燃料が欲しいのに、そのために薪を使うようなら、意味はない。では、現状のままで良いと?」


「むぎがらや、はいざいがねんりょうとしてつかえるあいだは、しゅうしがあうの。あれだけあれば、このふゆのねんりょうじじょうはまかなえるの。それいこうはせつびとうしをふくめて、かんがえるの」


「設備投資か……。他の用途としては何を考えられるのだ?」


「きんぞくかこうなの。いっていおんどをいじできるということは、りょうしつなきんぞくをうむのにふかけつなようそなの」


 私が答えると、父がむっりと口を閉じて、内容を吟味し始める。


「それは……青銅器の品質が上がると言う事か?」


「せいどうきぜんたいのひんしつがあがるし、もうすこしせつびをとうししたら、もっとあんかでりょうしつなきんぞくもかこうできるの」


 私の言葉に、父が目を剥く。


「安価で良質? そんなものがあるのか?」


「かわのいしで、だんめんがあかいものがあったの。あれがそう。でもさきにべつのせつびをたてたほうがはやいの。こちらのほうがじゅうようなの」


 川遊びをしている時に、石の組成はみるようにしていた。その中に純度が高い鉄鉱石が転がっていたので、どこか近くに露天の鉱山があるのだろう。それに、品質の良い金属に必要なのは、温度管理だ。


「すいしゃをつくるの」


「水のまるいもの? まるいものというのはなんだ?」


 あぁ、車輪も発明品なのか。そういえば、この村でも車輪や馬車は見た事が無い。交易だって、背負子と馬に積載出来る分だけだ……。そう考えると、まだまだ改善の余地はあるか……。


「きをくれたら、ためしにつくるの」


 私がにっこりというと、父が呆れ顔で笑い始めた。母もその姿を見て、くすくすと笑う。


「分かった。木こりに出す賃金も余裕が出来た。木材の生産にある程度注力するつもりだから、良いぞ」


 父が柔らかい微笑みで、そう言ってくれた。六十人からの受け入れが待っている。その為の建築ラッシュは現在が最盛期だ。農閑期で人手が余っている時に需要が生まれたのが大きいし、乾燥の時間もあるので、木こりの需要も伸びている。村全体に活気が満ちているのだ。


「ありがとう、ぱぱ」


 私はにっこり微笑んで、そう答えた。



 その昼、私はぽてりと座って、貰った建材の一部に糸と炭を使って、円を描いている。


「ふぉ、!! べむきょ? あちょび?」


 幼馴染ーズがまた背後から覗き込んでくる。炭を使うのは遊びなのか勉強なのか良く分からないので、ちょっと逃げ腰だ。


「くるくるまわるものだよ」


「くゆくゆ?」


 二人仲良く首を傾げた様子に、少しだけ噴き出してしまった。

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