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第49話 火鉢は浪漫です

「ふぉ!! ひあちょび、めーよ!!」


 私が麦藁を燃やしていると、驚愕の眼差しでこちらを見つめる幼馴染ーズに見つかった。


「あそびじゃないよ。おしごと」


「おちごと!!」


 仕事の一言に、二人の瞳は尊敬の色に彩られる。大人に頼られたい幼児である。

 やっている事は単純で、火が点った薪の上に麦藁を乗せて完全燃焼させる事である。母が何度かやっているのを見て理解した段階で、交代してくれた。二歳目前とは言え、子供の火遊びは危険だ。おねしょしちゃう。


 母がめらめらと麦藁を燃やすのに、私が手を伸ばして暖を取っていると、二人とそのお母さんも手を伸ばす。


「ぬくいの!!」


「ふぇぇ、きもいいー」


 今日は寒風吹きすさぶ天候で、台所で火を使っても寒かった。取り敢えず、下の方を板で目張りしてみたが、あんまり効果があるとも感じない。ただ、直接の風が吹き込んでこないだけでも大分ましになってきた。

 そんな中、竈の薪の温もりに蕩ける六人だった。ただ、フェリルとジェシはぽかぽかしてくると眠たくなったのか、うとうとし始めたので、お母さん方が抱っこする。


「うー、ぬくいのもっちょ」


「ぽかぽかほちい」


 すると、寒さがぶり返すのか、文句を言うので、お母さん方が服の中に取り込んでしまった。首元からカンガルーのようにちょこんと顔を出して、二人共楽しそうだ。


 母が徐々に入れていく麦藁もどんどんと燃え盛り、後には奇麗な白っぽい灰がうず高く積もった。母に手伝ってもらい、黒い部分は丹念に避けて、それを鉢に移す。


「あちょび?」


 カンガルーズが首を傾げるが、私は(かぶり)を振る。


「だんぼうきぐだよ」


「だんぼー?」


 ふふふと、母親譲りの微笑みを浮かべて、部屋に戻る。



 明けて風の無い晴れた空の元、男手を借りて、母を介して作業を指揮する。きちんとお駄賃は出るので、皆張り切って作業をしている。やっている事は単純で、薪を組んで並べていくだけだ。


 小山が出来たところで、麦殻を上からかけていく。この麦殻も土に混ぜて肥料にするのだが、父と相談して、灰を混ぜる方向性で手を打ってもらった。組まれた薪の中央からは枯れ草がにょきっと頭を出して、まるでケーキに刺さった蝋燭のようになっている。その芯に男性が火を点すと、ゆっくりと火が燃えて、籾殻の中に移動していくのが分かる。暫く白く上っていた煙も、薄く立ち上るだけになっている。籾殻の山に触れると、ほんのりと暖かい。中で火が燃えている証拠だ。


「これで良いの?」


 母の言葉に満面の笑みで頷く。そのまま寝ずの火の番役の男性を残し、部屋に戻る。久々に太陽が出たのと、徐々に燃え広がる火のお蔭で、暖かな風が吹き、窓辺はこの冬で一番過ごしやすい場所に変わった。顕著なのは、徐々に子供達が窓辺に集合した事だろうし、しばらく遊んでいると、温もりに溶けるかのように、皆が寝入ってしまった事でも分かる。


 寝る前に、ちょこんと窓から外を覗くと、籾殻の小山は大人しくゆっくりと炎を上げて燃えている。夜の闇の中淡い赤の小山の姿は幻想的で、父と母と三人で微笑みながら、いつまでも眺めていた。



「ほるの!!」


 私の掛け声で、皆が木鍬でえっさほいさと籾殻の灰を取り除いていく。うず高かった小山も燃え尽きると、大分その高さは下がっている。灰は麻袋に詰め直されて、肥料として眠る。カチッと音がした瞬間、男達が手でかき分け始める。まだほの暖かい灰の中から黒光りする塊が頭を出す。


「あらあら、石みたいね……」


 母が持ち上げた薪は、年輪もくっきりと残る形で、奇麗に炭化していた。ぱきりと割ると、太陽の光を反射し、ガラスのように美しく輝く。それはまるで黒曜石の煌めきのようだった。



 鉢に敷いた灰の上に、竈の火を移した炭をそっと乗せる。ほのかに赤く光る炭は、ゆっくりと燃え広がり、殆ど煙は出さない。


「せいこう」


 父に笑顔を向けると、怪訝な表情で炭に手を伸ばす。


「燃え尽きているように見えるが……。これが薪の代わりになるのか……」


「けむりもでないし、もえるじかんもながいの。へやのなかでやいても、くさくないの」


 食堂の中で赤々と燃える炭火は、徐々に部屋の空気を温めて、何とも言えない眠気を誘う。換気の問題は家の隙間風を考えれば、気にするまでも無い。


「これは……良いな」


 執務室には村でたった一つの暖炉があるが、その設備を全戸に作る程の資金は無い。と言う訳で、火鉢をプロデュースしてみたが、評価は上々のようだ。父も何故かこういうちまっとした侘び寂びっぽい物が好きで、飽きずにずっと炭の燃えるのを眺めている。



 と言う訳で、父の視線から母が火鉢をもぎ取って、集会所に置いてみた。子供達が悪さをしないようにあの懐かしの木柵が置かれた。


 見慣れない物の出現と言う事で、子供達も始めは警戒していたが、予想以上に温いと言う事に気づいてからは、借りてきた猫のように木柵の周辺で丸まり始めた。


「ぬくぅの……」


「ふわぁぁぁぁ……」


 目をとろんとさせた幼馴染ーズはもとより、お母さん方もこっくりこっくりと舟を漕いでいるので、今日はお昼寝の時間になりそうだなと。



 結局、戦争参加の褒賞として、灰と炭の提供を提案したところ、諸手を上げて喜ばれた。どこの家も寒いのは一緒だ。火の始末や、防火用水の設置など色々な手は打ったが、火事は起こさず、風邪もひかず春まで皆が過ごしたのは単純に凄いなと思った。

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