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第47話 直参への道

「ぱぱ、だれなの、あのひと」


 結局その夜、両親は酒盛りをして、セーファと名乗った男性は文官の官舎の空き部屋に泊まった。

 朝ご飯をもちゅもちゅと食べた後に、聞いてみた。


「ん? んん。あぁ……」


 だが、父が気もそぞろだ。母の方を見ても、不思議な表情をしている。


「なにか、あったの?」


 私が問うとはっと表情を戻して、じっとこちらを見つめてきて、嘆息する。


「そうだな。話をすべきか……。セーファはな」


 と言う訳で、話をしてみて、ちょっと驚いた。セーファと名乗る男は王家の遠縁にあたる人間で、父と母とは王都で生活していた頃に馴染だったらしい。というよりも、セーファと父が王都で軍人をやっていた頃に、母を巡って切磋琢磨していた仲らしい。王家の係累と何をやっているのかと思ったが、母が言うには父の実力は本物で、王家でも覚えめでたいらしい。が、故にこそ、若輩にも関わらず、レフェショという地位を婿に入ると言う事で許された経緯がある。


「それで、回収隊からも王家の方にも話が行ったらしくてな……。新しい収入源を確立したのなら、レフェショヴェーダにならないかというんだ」


 で、自治貴族としてちまちま頑張っていた父だが、今まで誰も作った事の無い持続性のある特産物を作ったのであれば、めでたいと。王家が直接庇護しようじゃないかというのが、今回の話だ。色々特典の説明を聞いていたが、直接登城(とじょう)と王家の人間との面談権も付いてくると。江戸時代の日本でいえば、地方のお殿様だった父に直参の職が付いたような物かなと理解する。


 ただ、問題は王家が庇護すると言う事で、指揮権の移譲された軍が駐留する事になる。これは良し悪しで忠誠はお殿様、要は父に向けられるのだけど、その維持は父が面倒を見なくてはいけなくなる。その数、五十騎。この国における五個小隊、一個中隊の戦力になる。それに、一個小隊ごとに一名の従者と伝令が必要となる。総計六十人の世話をしなければならない。また、戦争が発生した時には馳せ参じる義務が生まれる。


 それを聞いた時に、私もむむむと唸ってしまった。これは王家による軍費削減と影響力の浸透を目的としているんだろうなと。要は王家としては一定の兵力を持っておきたいけど、兵なんて金食い虫だ。それを下賜して、戦争の時にだけ回収すると。それに忠誠は父にあるといっても、父の忠誠は王家にあるので、結局は一緒なのだ。そうやって、財力を削ぎつつ一定の影響力を及ぼすのが主目的なのだろう。


 では、メリットが無いかというとそれもまた違う。まず特産品にお墨付きがもらえる。今回であれば燻製の魚という物は、父が生産販売するという、独占販売権が付与される。また、直参になれば、有形無形の影響力が受けられる。要は何か悪さを考えられても、王家に報告さ(チクら)れるかもしれないという疑心暗鬼と戦う必要が出てくる。


 結論としては、良し悪しが拮抗する。戦争下手なら完全にアウトだが、父の実力だと拮抗しちゃう。


「併せてだな、レフェショヴェーダになれば、色々仕事も増えるだろう。文官も後三十人増やして」


「なろう、なるの、レフェショヴェーダに」


 食い気味に言ってしまった。兵に関しては拠点防衛に徹すれば、そこまで必要性は感じない。でも、知識層の入手は必要不可欠だ。その人達に村人を育ててもらっても良い。夢が広がる。それを断るなんてとんでもない。殺してでも奪い取る。


 と言う訳で、モーニングミーティングにて今後の方針や受け入れの時期を決めたら、そのままセーファに父が報告に行った。


「ありがとう。王命を無事こなせて良かったよ」


 別れ際に丁寧なあいさつをしてくれる、セーファ。


 私もにこにこと手を振って見送ると、さも今思い出したと言わんばかりの顔で、セーファが言う。


「ちなみに、駐留する部隊の隊長は私になるから。よろしくね、ディー様」


 最後に爆弾を残して、今回の戦争の顛末書を携えたセーファが王都へと帰っていく。


 ちらりと両親の顔を見ると、二人共苦笑を浮かべている。まぁ、憎めない性格の人だったし、王家につながる伝手が出来るなら、それはそれで良いだろう。一方的に搾取されないように頑張って手綱を締めるだけだ。


 そう思いながら、家の庭の方に向かう。幼馴染ーズが満面の笑みで迎えてくれるが、ままごとの演目は来客者対応だった。やっぱりかー!!

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