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第45話 帰ってきた日常

 族長会議で終わった一日を経て、仲良しな上瞼と下瞼に離縁宣言を告げる。ぱちと目を開けると、ぶるりと震えが上がってくる。毛布を被っていてももう寒い。いそいそと母のお腹の方に避難して温もりを甘受する。


「うー、温いわね……」


 微睡(まどろ)み甘く零れるような笑顔を見せた母がぎゅっと抱きしめてくれる。甘い香りを嗅ぎながら、へにゃっと表情を崩す。もう少しだけ、そう思って、瞳をそっと閉じた。



「契約は当初予定通りに結ばれた。これで一息が付けるな」


 戦争の後片付けに追われていた父が若干こけた頬をしながら、朝食の鰻を食べている。昨日から泥を吐かせており、冬の寒さに負けないように脂肪をたっぷり蓄えた鰻はふわふわでジューシーだ。子供の味覚の強い味方。ビバ、脂の甘さ。


「かいしゅうたいもかいあさっていたから、おうとにもはんろがひろがるかも」


 もきゅもきゅと鰻の一番良いところをもらって頬張りながら、報告する。すると、父が首を傾げる。


「ふぅむ……。商人に目を付けられるのはまだまだ辛いが……」


「しんしょうをよくするにはしょうがないの。ながいものにはまかれるの」


 父の商人嫌いもここに極まれりだ。余程嫌な目にあったらしい。


「言葉の意味は分からんが含蓄はありそうだな。状況が分からぬ時は流れに身を任せるのも一手か。戦と変わらんな。だが、王都の心証か……。そうだな」


 ふふっと微笑んだ父がくわんくわんと頭を撫でてくれて、モーニングミーティングは終わる。

 文官もいないし、旅から帰ったばかりと言う事で、今日一日くらいは父と母でゆっくりしたら良いよと伝えると、物凄く真っ赤な顔になった。え、なに、何をするつもりなの、朝っぱらから。

 そんな事を考えながら、一人てとてとと冬も本番を迎え始めた庭に降り立つ。


 ててーっと近付いてくる足音に、流石に学習した私は身構えるが、予想していた衝撃は無い。あれっと思って振り返ると、キラキラしたお目目のフェリルとジェシが背後ではふはふと子犬のように興奮していた。


「てぃーだ、すおー!!」


「えらい!!」


 話を聞くと、お兄さんやお姉さんが、私が論功行賞の席に参加した事を伝えて、凄い事だと説明したらしい。それを聞いて、二人は凄い人認定したみたいだが、私は無造作に、ていっとチョップを繰り出す。


「ふぉ!?」


「いちゃーよ!!」


 そんな事で人付き合いを変えられても面倒くさいので、よしよしと撫でると、いつもの二人に戻った。またままごとかなと思ったが、どうも石投げの方が良いらしい。


 スリングの脅威を今回の戦争で理解してくれた村人は積極的に訓練を開始した。何より、鐙を解禁した事で馬上での戦闘が比較的容易になったが、まだ積極的に外部に知らせる気は無い。よって、馬上の簡易遠距離武器として、スリングを利用するという方向に動き始めた。踏み込みがいらず、片手で簡単に射出出来て、玉の補給が容易と言う事で、狩りでも積極的に使っているらしい。


 逆に馬上短弓はもう少し大規模にしても良いかもしれないと言う事になった。このままいくと、源平合戦時の騎馬武者に向かいそうだ。重装で高威力な遠距離射撃能力を持ち、近接戦闘も出来る高機動兵力。うん、人の浪漫が詰まっている。実際に騎馬武者はそのレベルで最強兵種だった訳で。


 まぁ、それはさておきと。と言う訳で、同じ遊ぶなら楽しく早めにスリングの感覚を覚える方が良いよねと言う事で、お遊戯のスリングをもう少し厚めに取り入れようというのが族長会議で決まったようだ。うん、ジェシの曾祖父のあの肉食獣のような笑顔が思い浮かぶ。


「いくの!!」


「あちょぶ!!」


 どこまでも人を翻弄してくれる二人に引きずられ、皆の輪に合流する事になった。

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