第43話 戦が終わって
獲物を見定めた狼の群れのように十騎弱の騎馬の周囲を三十騎余りがぐるぐると取り囲み、威圧している。あのまま待っていれば降伏だろうなと、残りの十に満たない騎馬が地平線の彼方に去りゆく様を見届けながら、胸の中に湧いてきた勝利の実感に今度こそ、身を預けようとしたその時。
「あ!!」
母の驚きの声に、顔を上げる。前方、遥か彼方。太陽が昇ってくる中、影絵のような騎馬達が、疾風迅雷の勢いの馬群に包囲、殲滅される。
「あぁ……あぁ……」
援軍? と首を傾げていると、乙女の顔をした母が、涙と歓喜に濡れた瞳を大きく見開き、口を開く。
「ディー……、ディーが帰ってきた!! レフェショの帰還よぉぉぉ!!」
母が叫んだ瞬間、状況がはっきり掴めなかった村人達が、呆然としたまま、スリングを取り落とす。やや時間が経って、沸き上がってくる勝利の実感。皆がその身に宿しがたい熱量をただただ放出するように、口を開き始める。
「勝利!!」
「勝利!! 勝利!!」
その万雷の叫びは天に木霊し、村を飲み込む。父達が門を凱旋し、母に抱きしめられてもその轟は、止む事を知らなかった。
「村の方から見た事も無い武装した兵が必死の形相でかかってきたら、それは応戦するよ」
一旦旅の垢を落とすと言う事で、状況が分からないままもみくちゃにされていた父が家に入ったのは、昼もかなり過ぎてからの事だった。流石は純戦闘民族。村の最強の戦闘集団。
若干苦笑交じりで沸かしたお湯で髪の毛を洗いながら、父が苦笑を浮かべる。
「取り敢えず、相手の処遇を考えないといけないけど……。なによりも、ティーダ」
頭と顔を洗ってさっぱりした表情の父。
「お疲れ様。よく頑張ってくれたね。誇らしいよ、私のティーダ」
慈愛に満ちたその表情で広げられた両腕に、そっと飛び込む。色々あったが、一歳児の体には負担だったのだろう。ほっと気を緩めた瞬間、体が勝手にぎゃん泣きを始めた。
「よしよし、こういうところは変わってないね、ティーダ。私の可愛いティーダ」
そっと寄り添った母と一緒に、感情の全てを吐き出し、眠りに就くまで、その抱擁は続いた。




