第41話 緒戦の駆け引き
この時期の攻城戦、防衛線の基本は亀のようにガチガチに固めた相手に攻城兵器で挑み、防備を決壊させて、傷口を広げ、攻め込むのが定石だろう。だが、そんなのを相手にしていては、物的被害と人的被害が大きくなる。士気が高ければ、士気が高いなりの戦い方というものがある。
突如開かれた門に面食らったのか、騎乗兵一番の旨味、速度を捨てて慎重に近付いてくる騎馬兵八騎。近付いてくるにつれてその表情までがはっきりと見えてくる。欲望に水膨れした自意識の塊のような下品な顔。その頭の中には、命乞いの様を、強奪と狂気の光景が既に思い描かれているのだろう。
だが、甘い。彼らはキルゾーンに踏み入った。ガッガッと重い馬の足音が私の頭の中に引かれている不可視の線を踏み越えた瞬間、そっと母に耳打ちする。
「はーなてーぇぇぇっ!!」
戦女神の声は、千里を駆けんばかりの勢いで、戦場に轟く。その瞬間、引き絞られた弓から矢が放たれるかの勢いで、百を超える人間から石弾が放たれる。門を横棒に考えて木の漢字を想像すると分かりやすい。三方から放たれた石礫は一瞬雲霞の如く八騎に群がる。乱打の鈍い音が止んだ時には、乗り手を失った馬が五月雨に当たった石に驚いて、門の中にててっと入ってくる光景だけが広がっていた。
「かーいしゅぅぅぅぅ!! 閉門!!」
母の指示に合わせて、男性達がてきぱきと損傷し、落馬した人間を門の中に引きずり込み武装解除する。そのまま簀巻きに縛り上げられて、そのままずりずりと後送されていく。門は静かにばたりと閉まる。まるで獲物を捕らえた肉食獣が、次の獲物をひた待つかのような不気味な気配を漂わせながら、静かな緒戦は圧倒的優位で推移した。
普通なら何々、常識で考えれば何々、そんなものは糞くらえだ。こちらは一兵たりとて怪我すら負わせない。それが、私の、二十一世紀に生きた杖家の男がこの地にて自儘に振るった、最初の一手だった。




