第39話 人を背負う覚悟
「三代目、相手の目的は何と見る?」
唖然とした空気が流れる中、ジェシの曾祖父が静かに問う。
「くんせいのせいほうだよ。せいほうをしっているにんげんをさらえば、もくてきをたっせいできる。ついでにうなぎのさばきかたも……かもしれないけど、それはむらびとしかしらないはずだけどね」
鰻の捌き方は、教える代わりに門外不出と伝えた。回収隊も白焼きの素材が何か、どうやって作るかまでは知らない。もし、襲撃者の口を割って、それを知っていたら……村人も疑わないといけなくなる。
「だから皆殺しか。製法をばら撒けば犯人も分からずだろうな。ばら撒かなくても、もう潰した相手だ、残りを皆殺しにすれば良いって算段か。道理だ。で、対策はどうする? 相手は五十からの武装した相手だ」
「すりんぐをくばったよね? せいじんしたひとはしょうめんでぼうび。せいじんまえでうごけるこはゆうげきとしてふくへいか、まわりこむてきをこうげき。こちらがわのもくてきはむきずでぼうえいすること。おうひつようはない。うってでるひつようもね」
どうせ投石を食らって動けなくなった人間を尋問すれば良い。
「最後だ、なんでてぇめぇみたいなガキの言う事を聞かないといけねぇ?」
わざとだろう、荒々しい口調に、母が立ち上がる刹那、手で制する。
「れふぇしょのこは、れふぇしょだよ? ほかのにんげんで、れふぇしょをやれるっておもうなら、やればいい。ただ、このばをきりぬけて、ぱぱとたたかうかくごがあるならだけど」
私が言い切ると、ジェシの曾祖父が沈黙する。その間隙を縫ってか、先程自薦しようとしていた男が声を上げる。
「なんでこんな事態になった!! 今まで平和だったじゃないか!! あれだ、レフェショがあんな物作り始めたのが原因じゃないか!!」
その言葉に、ぎりっと目を向ける。人を射殺さんばかりの熱が籠った瞳は、口を開けた男を沈黙させる。
「うまいうまいとくっていたのは、おじさんたちだよ? これからむらはゆたかになるっていってたのはだれ? おいしいところはたべるけど、おいしくないところはひとのせい。それじゃあ、せけんにかおをむけていきられないね?」
憤りのあまり、ぱきりと言いながら握った拳から血が流れる。父と母と必死に結んだ絆。それをのうのうと享受するだけの人間に馬鹿にされる謂れは無い。この手の人間は戦いが始まれば何をするか分からない。戦いの前に縊るかと決意を込めて、母に声をかけようとした時だった。
「面白い!! 面白いぞ、三代目。流石は、ディーの子だ。儂等は、賛同する!!」
ジェシの曾祖父が叫んだ瞬間、老人会の面々が平伏する。呆気に取られるやや若手の長達の前で面を上げるようにお願いする。顔を上げたジェシの曾祖父の口は吊り上がり、肉食獣のような容貌になっていた。そりゃそうだ。この人が若ければ間違いなく、三十一人目になるんだから。祖父の代からの入植者、祖父を最後まで護衛した男なのだから。
「てめえら、戦の用意だ、天幕まで張っているんだ。攻めてくるのは明け方だぞ!!」
ジェシの曾祖父が叫んだ瞬間、集会所の空気は間違いなく発火した。一人を除き、全員が静かな闘志を抱き沈黙のまま勢いよく立ち上がると、部屋を後にする。入植からの血が滲むような苦労と家族を害されるかもしれないという憤り。満ち満ちた殺気は皆が部屋を出ていくまで濃厚に集会所に漂った。
私は母の耳にそっと、一人あわあわとしている先程の男を縛って動けないようにするようお願いした。




