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第38話 不穏な気配と独り立ち

 どうせ何か事が起こるのは農閑期だろうと思っていた。


 秋も走り去るように終わり、もう既に冬の片鱗を見せ始めていた。日に日に空気は冷たく乾燥していく。父達が出る前にと済ませていた刈り取りの後片付けも終わり、収支報告を文官の人達がまとめると、王都の方からやってきた年貢の回収隊が村を訪れた。接遇に関しては別途費用を払ってもらえるので、家の方で二日程休養を取ってもらう。ここでも量産が始まった川魚の燻製と鰻の白焼は話題に上り、帰り際の部隊の皆様もお土産と言う事で有るだけ燻製を買い占める状況だった。


 で、ただでさえ少ない男手の、それも戦闘訓練の経験がある国からの出向文官が村を離れて数日の事だった。


 トントンと玄関の方で音がする。横で眠っていた母が慌てて出ると、フェリルのお父さんが慌てた様子で立っていた。


「見慣れない人影が、門の辺りにうろついてるって話だ」


 はっとこちらを見る母に、こくりと頷きを返す。もう少し広まってからかなと思ったが、思ったより相手の方が臨機応変だったようだ。さてさて、正体は分からないけど、どこの誰だろう。そっと部屋で母に耳打ちして、急いで各一族の長を集めてもらうようにお願いした。


「人影か……。物取りじゃないんだな?」


 最年長のジェシの曾祖父が口を開くと、物見に走ってくれた男性がこくりと頷く。


「人数は五、六十ってところだ。馬は持ってる。武装はしてるようだが、弓矢は見えねえ。余裕なのか火を灯して、天幕まで張ってやがる」


 その報告に、私は若干重い面持ちで、嘆息する。思った以上に相手はアグレッシブなようだ。この時期、夜間の見張りを付けるのは常識だ。秋の獲物が減っていって飢えた狼が村に侵入するのを防ぐために常備する。それが分かっているのに、その人数……。


「みなごろしがもくてきだろうね。わざわざ、おとこでがすくなくなるのをまっていたんだから」


 幾ら村人の方が多いと言っても、実際に戦える人数はそこまで多くは無い。この村には百四十ちょっとの家があるが、現在残っている人手で、壮年かつ戦闘経験があるのは三十人程度。訓練経験が有るのでも、自警団の五十人程度だ。血を見ても戦えるのは三十人と見て良い。勿論、青年も含めれば数はもっと増えるが、そんな人間を訓練も無しに近接戦闘に巻き込んでも無駄に死人が出るだけだ。


「レフェショは分かっていたのか? こうなる事を!!」


 物見の男性が荒い口調で叫ぶ。


「わかるわけないよ。そのじたいにならなければ、たにんがどううごくなんて。まぎーらじゃないんだよ? ぱぱは」


 私が答えると、男がかっと紅潮し、立ち上がろうとするが、それを眼力で母が押さえつける。どうも、本気で母は怒っているらしく、湯気のような何かがふわんと冷え切った空気の中で立ち上っている。


「一つだけ、先に決めとこう。今回の件の頭は誰がする?」


 ジェシの曾祖父が口を開く。それを聞いて、やや壮年の男性が我先の勢いで立ち上がろうとするが、手で制する。


「ぼくがする」


 母の驚愕の眼差しを受けながら、立ち上がり、集会所の中を睥睨(へいげい)した。

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