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第34話 一大ブームとブームで終わらせない手段

 次の日の朝は、川海老から始まった。昨日一晩、泥を吐かせていた海老を塩茹でしてみたのだが……。川海老と言ってもそこそこ大きい。


「簡単なのに、美味しいわ……」


「少し剥くのに手間はかかるが……。簡単に獲れるなら十分に食料源になるな」


 評価は上々だった。仮に海老を獲っても茹でたりせずに川辺で焚火を作って直火焼きばかりだったので、手間の割に食べるところが少ないおやつという印象だったようだ。

 ちなみに私の手では殻を上手く向けないので、母が向いてくれるのをはむっと食べる。その姿が気に入ったのか、母がにこにこしていたので、あーがとっと言うと、うりうりーという感じで額でぐりぐりされた。


 食事が終わって休憩を挟み、皆が訪れてくると、話題は何故か鰻の話になった。というのも、昨日頑張って焼いていた鰻の煙は高台から漂い、夏の熱気を逃がすために開けられていた各家の窓から侵入し、その嗅覚を思う存分刺激したようだ。かば焼きのたれの焼ける匂いと言うのも堪らないが、鰻の脂が焼ける匂いと言うのもまたさっぱりと芳ばしくて好ましい物だ。


「あの匂いの元は何なのかしら。初めての香りだし、美味しそうなの」


 ある一人のお母さんの言葉が火を点けた。高台側の家のお母さん方が熱弁していると、遠くの家のお母さん方も興味津々となり、今度実際に捕まえた物を皆で捌いて調理するという話にまとまった。


 ちなみに父とは相談済みで、漁師が漁業権を主張している獲物以外に関して、鰻筌の使用料を税金として徴収する事にした。もし対象のお魚さんが入っている場合はリリースするとか、細かい取り決めもあるが、待望の真水の収入が入りそうと言う事で期待は大きい。額は小さくても、食べ物に関わる収入は継続して入ってくるので、最終的には予想以上の額になりそうだ。


 ほくほく顔で今後を夢想していると、元気なでーんに襲われる。


「あしょぶの!!」


「まぎーらしゃま!!」


 仰け反って痛めた腰と首をさすりながら振り向くと、フェリルとジェシのキラキラお目目が待っている。でも今日は機嫌が良いので、同じテンションで遊ぶ。と言う訳で、夏の日差しが照り付ける中、思うさまに遊び呆けた。



 結論として、物凄い儲けが出た。


 鰻筌の元手は廃材と大工さんの加工費、及び保守費用だけだ。管理費も、貸出の管理だけなのでそこまで難しく作業ではなく、母が片手間に対応してくれた。水産資源の保護も考えて、一定以上の鰻筌を貸し出さないのも飢餓感を煽った。幼児ーズが川に行かない日でも、もう少し年長の子供達が川遊びに行くついでに仕掛けをして、持ち帰るというサイクルが出来上がって、村全体に水産物が出回るのにそんなに時間はかからなかった。


 鰻の捌き方も、肝っ玉母さん達は早々にマスターして、ざりざりと捌いている。別に老舗料亭とかではないので、骨身がたっぷりついていても問題無い。村の中では、一大鰻ブームが巻き起こった。川海老などの副産物の存在も大きい。そのおまけとして、鶏さんや山羊さん、羊さんが潰されるのを免れ、繁殖に回る数が増えたのも大きい。全体で見た場合の、今後への影響は目を見張るものがあった。


「これほどに……余剰が生まれるとは」


 執務室の机の上には、鰻筌使用料の真水の資金、それに文官が出した今後の家畜の繁殖予測の修正書が置かれている。


 状況を整理しようと、夕食後眠い目をこすりながら家族会議を開いたのだが、村の中の経済状況は一石を投じただけで目を見張る成果を生み出している。現状は一過性の消費拡大なので、今後漁師に対する収益低減の補填なども併せつつ最終的な利益は産出されるが、その為の資金が紐の付いていない真水のお金というのが大きい。真水のお金は用途が自由なので、何にでも変えられる。


「つぎのいってをうつの」


 私はしぱしぱする目を擦りながら、欠伸混じりに言い放った。

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