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第32話 新しい遊びと新しい食材

 そこから数日は何も変わらない穏やかな日々が流れる。単語木片でカルタ対戦を楽しむために、新一歳児達は文字を覚えるのに真剣に頑張っている。溢れた子供達は……。


「まーぎーぃーらーさーまーがーみてるっ!!」


 ばっと振り向くと、皆がぴたりと止まっている。分かりやすいが、だるまさんが転んだだ。取り敢えず神様が見ている間に動いたら駄目と言うルールにすると、なんだかすんなりと受け入れられて、今はカルタもどきと人気を二分している。あんまり男女差も出ないし、逆に女の子の方が勝率が高くて、鬼ごっこもどきよりも人気が高い。


「あ、フェリル、うごいた!!」


 私が目ざとく見つけると、ぶーっと膨れた顔で手をつなぎに来る。じっとしているのが苦手なので、ちょっとこのゲームには不利だ。逆にウェルシはとことん強い。腕くらいの長さは動くというルールなのだが、動いているようなのに、びだっと止まって微動だにしない。どんなにフェイントをかけても慌てない。もう殿堂入りで良いんじゃないかと思うほどの鉄壁お淑やかお姉さんだ。次に得意なのは大人しいジェシだろう。


 そんな感じで、遊び呆けていたが、明日は念願の川遊びの日だ。父に頼んで、夏場だけ定期的に川遊びの日を作ってもらった。罠猟をヒントに作り方を閃いたという感じで話を持っていこうとしたアイテムも、父が大工の人に頼んで作ってもらえた。後は……。


「ふれた!! みな、にげてー」


 はい、さっきから終わりません。ウェルシ強すぎです。


 炎天下の中、先程からずっと叫び続ける一歳児はこちらです。倒れます。きゅう……。



 と言う訳で、日が変わって、川遊びの日。前と同じくランランと謡いながら川に到着して、オムツ子豚ちゃんモードになってぱちゃぱちゃとバタ足をする。お母さん方が手を引いて、淵の中を動き回ると、狂喜乱舞の渦になる。


 お母さんによっては、三人とか四人とか支えているけど、今どきの若いお母さんは元気だなと。いや、あんなに重量物を支えて川を動き回るとか凄いなと。

 冷えてきたら、またお薬を飲んでお昼寝タイムだが、今日の私は一味違う。


「うーなーぎーうーけー」


 私の背より大きいので、母に持ってもらっているが、鰻筌(うなぎうけ)を用意してみた。水に強い建築用の端材と木の皮で作ってみたが、駄目で元々なので、問題無いらしい。というのも、猟師さん。魚は捕るけど、川海老、沢蟹、鰻や泥鰌の類は全く手を付けない。そもそも鰻に至っては針にでもかかったら捨てるそうだ。骨だらけで食べられないし、捌き方も良く分からないし、そもそも捌くのが無理らしい。数少ない趣味の料理の腕を活かせそうなので、鰻を食材にする事にした。


「まま、そのあたりにしずめて。いしをおいてほしいの」


「ここかしら」


 取り敢えず淵に休みに来る獲物を狙って、置いてみる。餌は父が楽しみにしていた干し肉だけど、泣く泣く諦めてくれた。次回の訪問が楽しみだなと思いながら、母に全身を拭われてストンとお昼寝に落ちる。


 また日常が過ぎ去り、川遊びの日。力を抜くと浮く事に気付いたジェシの功績によって、淵の中でプカプカ浮かぶピンク色のラッコが大量生産されてしまった。すいーすいーっとお母さんに押されると、ちょっと楽しくて癖になる。そんな幕間(まくま)も有りつつ、お母さんに鰻筌を拾い上げてもらう。


「んー? ん、これね……って重い……わよ……?」


 ぐぐぐっと上がってきた鰻筌から水が零れだし、てとんてとんと落ちる頃には岸辺に着く。魚籠(びく)の上で細工を開けると……。


 でれでれでれでれでれー。


 鰻やら川海老やらが大量に出てくる。すれていないなと思いながら、眺めていたが、母には少し刺激が強かったのか固まってしまった。取り敢えず、鰻は太くて美味しそうなのを人数分と川海老だけを魚籠に入れて後はリリースする。


「一匹なら大丈夫なのよ。でもあんなに沢山出てくるものだから……」


 帰り道、母が散々言い訳を繰り返すが、あんな触手みたいな塊を見たら、普通は驚くと思う。そんな感じで、夕方にちょっと早いくらいに家に到着した。鰻の白焼きとか豪勢だなと一歳児ながら思い出すだけで、じゅるりと唾が出てきてしまった。


「本当に食べるのかしら……」


 皆が帰った後に、少しだけ不安そうに母が呟く。


「あいっ!!」


 それを払しょくするように元気よく返事をした。それを捨てるなんてとんでもない。

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