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第31話 少しだけ変わる日常と変わらない日常

 夕食を食べると、一気に疲れが押し寄せてきて、くわんくわんと頭が揺れ出す。一歳児の体にはここ数日のやり取りは容量超過だったのだろう。


「あらあら」


 母が抱きかかえると、そのまま落ちそうになる。


「やはりティーダはティーダだな」


 寝入る前のほんの刹那、父の楽しそうな言葉が聞こえたような気がした。



 起きると、横には母が眠っている。そっとお腹の方に移動してくるりと丸くなると、無意識なのか抱きかかえてくれる。ぬくぬくと母の温もりを感じていると、頭の上から声が聞こえてくる。


「甘えん坊さんね」


 ふぉ、気付かれた。母に向かって、にへーと笑うと母もにへーと笑う。そのまま抱き上げられて、朝食の支度、そして朝食となった。



「文字はそれほどに重要なのか?」


 食事を終えた父が、先の話をしたいと言うので、仕事までの間と言う事で家族会議が始まった。


「むらもおおきくしていくよね。そうなると、しっているひとばかりじゃなくなるの」


 その言葉に父が考え込む。


「確かに。拡張は考えているが……他所の人間がこの地に慣れるまで……か。子供が生まれるのも同じ……あぁ、それで急いでいたと言う訳か」


 父の言葉にこくんと頷く。


「そう言われれば、その通りだな。文字として形に残した方が、守られると。しかし、全員一括でやる必要というのが良く見えないな……」


「どうぶつがむれをおそうなら、いちばんよわいのをねらうの」


 引っ張った鎖が千切れるのは一番弱いところからだ。この村は間違いなく繁栄する。その際に致命的(フェイタル)な存在を作る訳にはいかない。少なくとも内通者を作らないくらいにまで確固たる家族経営レベルまで持ち上げたい。それにはよそ者の取り込みをシステマティックに進める事も重要だ。


「道理……だな。良く分かった。しかしそう考えると、学も力も大事と仰ったティンの父はますます偉大だな。どれだけ先を見ていたのか」


 父が母のお父さんを褒めると、ふふふっと母が照れながら喜ぶ。いつものことながら、ファザコンなんだろうなと。でも、祖父母には会った事が無い。どうしてなんだろうとは考えながらも、今は話に集中する。


「対応として、文字木片と単語木片か。それを量産するというのだな?」


「まずはことばをおぼえることへのふたんをへらすの。そうしたらじつりにひきずられてかってにまなぶの」


 人は義務だけでは動かない。きちんとした報酬を出すから動く、報酬を出すからより良い仕事をしてくれる。そういう部分を蔑ろにする組織はいずれ滅びる。


「ふむ。真理だな。我が子から人間を学ぶとは思っていなかったが、納得いった。全体的に勉強をする土台を作って、その上で文字を使う仕事と報酬を積み上げれば良いのだな」


「ぱぱのしごとをぶんたんするとぱぱもうごけるの。ぱぱはだいじだから」


 その言葉に、若干痛いところを突かれた表情を見せる。


 少し話を聞けたのだが、レフェショを村長と訳して理解していたが、もう少し意味合いが違う。ある一定領域の自治権を持ち、納税の義務を持つ領主みたいなものらしい。言い方を変えれば貴族なのだろう。ただ、まだまだ規模が小さいので村長という感じだが。また、リグヴェーダとは神から権利を預かった王が治める王国、王権神授の国。そこから自治権を預かっている形だそうだ。


 で、王国から文官を供出してもらっているが、仕事が多岐に渡り、手一杯になって新しい事が出来ないというのが現状らしい。これは父の能力が低い訳では無く、先代が色々考えて中途半端に動かして残った部分の世話が重たく圧し掛かっているのが原因なのだそうだ。その内、その辺りはちょっとずつ片付けるにせよ、まずは手を空けなければならない。追加の人員は無理なので、そうなると、人を育てるしか無いのだ。


「分かった。将来のためだ。頑張る事にしよう」


 そう言って立ち上がった父はぐりぐりと私の頭を撫でて執務室に向かう。くわんくわんとなりながら、母に導かれ、庭に出ると……。


「てぃーだ!!」


「いちゃー!!あちょぶー!!」


 病み上がりに、でーんと二人に轢かれる羽目になった。もう少し、おしとやかさを覚えて欲しいな。そんな事を思いながら、すりすりと頬を擦り付ける二人の頭を撫でた。

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