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第30話 一日の終わり

 その日は、父も仕事を人に任せてお休みにした。初めて家族三人で川の字になってゆっくりと眠る。ずっと付き添ってくれていた父も母も体力の限界だったのだろう。横たわって数度息を吐いたかと思うと、すぐに寝息に変わる。愛おしいなと思って眺めながら、今までの一年ちょっとを思い出す。


 子供の頃の記憶なんて、早々忘れる。私だって、前世の赤ちゃんの頃の記憶なんてないが、今回は胎内であろう頃から存在している。振り返ってみると、本当に何も分からず、ただただ迷いながら生きていただけだなと。それでも、これから家族一緒に暮らしていくのなら、進めなくてはいけないものも沢山ある。


 それに、フェリルやジェシ、皆との交流もある。ちょっと未来へ向けて作業にかまけ過ぎていたけど、のんびりするのも必要だろう。そう考えたら気が緩んだのか眠気のヴェールが降りてきた。


 ふぉっと目を覚ますと、炊事の匂いが辺りを覆っている。横を見ると、父が優しげな表情で眠っている。その背中に張り付いてくんくんと匂ってみると、太陽の下の干し草みたいな匂いがした。


 すんすんとコバンザメのようにぴとっとくっついていたら戸の方からくすくすと笑い声が聞こえてくる。


 ぎぎぎっと油の切れたブリキ人形のように首を回すと、上機嫌で母が笑っていた。まだまだ若い故か、短い睡眠で隈も消え、やつれた感じも無くなっていた。


「まま……」


「ふふ。可愛い」


 すかさずはいはいで、ててーっと向かっていくが、ふふふと笑いながら躱されてしまう。そんなどったんばったん大騒ぎをしていると流石に父も目を覚ます。


「何をしているんだい?」


 寝起きで上体を起こした父がこちらに胡乱気な目を向ける。母は私を抱き上げて、私は私でぶんぶんと手を振り回していた。


「しんあいのだっこ」


 取り敢えず言ってみると、そうかと答え、父が立ち上がり背伸びをする。


「そろそろ夕食か……。ティン、苦労をかけたな」


 その言葉に(かぶり)を振る母。


「ゆっくり休んだからもう大丈夫。皆も、もう帰ったわよ」


 そう言えば、いつもの喧騒が無いなと思って窓を見ると、茜がやや黒みがかったような空になっていた。


「じゃあ、食事にしましょうか」


 母の言葉に、男二人ではーいと元気に返事をした。

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