第27話 複合的思惑
「きょうは、きょうそうをします」
どちらが先に遊ぶか単語木片の取り合いをしているフェリルとジェシに告げると、難しい事を聞いた顔をする。
「こーそー?」
若干眉根に皺を寄せながら、くてんと首を傾げる二人に、説明を続ける。
「まえにもしたけど、どちらがたくさんとれるかです。けんかしちゃ、めーよ?」
因果は含めたので大丈夫かと思う。というか、悪い事をしたら美味しい思いを相手がすると刷り込んだので、大丈夫だと思う。特にフェリルの方が手が早い上に嫉妬深いので、効果は覿面だろう。
「じゃあ、おかあさん」
単語を告げると、フェリルとジェシが一歳児とは思えない集中力で、目的の物を探し始める。じーっと探していき、ばしんと木片をゲットしたのはジェシだった。少しジェシ側の単語を言ったのもある。その時ナチュラルにグーを作ったフェリルが手を振り上げたので、じーっと見据えると、わきわきしながら手を下ろす。あぁも抵抗なく叩くまでに推移出来ると言う事は、家でもそんなのなのかな。フェリルのお母さんは肝っ玉母さんだけど、旦那さんはバシバシと物理的に尻に敷かれているのかなと無意識にフェリルのお母さんに視線が行くが、フェリルのお母さんが慌てて顔の前で違う違うと手を振るので、詮索はしないようにする。
一度ルールに準拠するという環境が出来ると素直なのか、中々のデッドヒートを繰り広げながら、カルタもどきは熱戦を繰り広げられる。最後の一枚を制したのは、フェリルだった。
「じゃあ、かぞえましょう」
いーち、にー、みたいな感じで、玉入れのようにお互いの木片を数えていく。実力は伯仲しており、最後の一枚を手にしていたのは……。
「うぃー!!」
意味不明な雄たけびを上げるフェリルだった。少しだけ年上というのもあって、やはり強い。ちなみに全力を出し切ったジェシも楽しかったのか、素直にフェリルと一緒に喜んでいる。この模様は横で見ていた子供達に大いに受け、カルタもどきへと遊びはシフトしていく。なんにせよ、読み上げる人間は私以外でも単語を読める子なら誰でも良いので、選手と読み上げ人を交代しながら遊んでもらう事にした。それに頭に血が上ったとしても、前のフェリルの件があるので、お母さん方がそれとなく目を向けてくれている。これで、識字率の向上と定着、数の勘定、ルールの順守は学べたかな。皆が楽しそうに遊んでいるのを一歩下がって微笑ましく眺めていると、朝のくわんくわんとした揺れが戻ってくる。
あれ、おかしいなと思った瞬間、目の前が暗転する。これ、やばいのかも……。そう思ったのは、とさりと体に衝撃を感じた意識が途切れる刹那だった。




