第25話 勝負事とは
と言う訳で、次の実績を積むために単語木片にもう一頑張りしてもらう事にした。
今日は少し暑さが厳しいので、室内での集合になった。窓からの風を浴びながら、子供達がわらわらと遊ぶ中、私は単語木片をてててっと並べていく。
「あたらしいあそびをします」
ちょっと厳かに言うと、ちょこんと目の前に座った、フェリルとジェシがあいっと元気よく返事をする。
「このなかから、たんごをいうのでみつけてください」
「あい!!」
良く分かっていないっぽいが、わくわくと期待に満ちた目で二人共こちらを見つめている。
「では、にわとり」
私がそう言うと、フェリルはくてんと首を傾げるが、ジェシはじーっと木片を見つめる。じーと見つめて、こちらを見つめている。あれ?
「みつからない?」
ジェシに聞くと、こくんと返ってくる。フェリルはそもそも何をするかが分かっていない。ふーむ。単純じゃないゲームのルールを覚えるのは一歳程度ではまだ難しいか。それに単語も音で覚えちゃっているので、もう一度きちんと文字と紐づけて覚えないと駄目っぽい。他の子供も同じように中途半端に覚えて飽きちゃっている部分がある。音が分かれば会話は分かるので、そこからのモチベーションが保てないのだろう。
今度は私が獲る方に回って、二人に読んでもらう。
「じゃー、やぎさん」
「……はい」
ひょいっと取り上げた木片を二人に見せると、キラキラした眼差しをこちらに向けてくる。
「すごい、やぎさん!!」
フェリルの言葉にジェシもうんうんと頷く。
「じゃーじゃー、つい。うさぎさん」
「……はい」
そのまま進めていって、最後の木片を私が取ったところで二人の興奮はピークに達する。歩くのももどかしいのか、二人ではいはいのままダンプカーのようにタックルしてきて、そのままマウントを取られて、げぅっという良く分からない声が出た。うん、興奮すると、子供って突進してくるよね。胸の上ですりすりと頬を擦り付けている二人の頭を這う這うの体で撫でつけて、もう一度繰り返す。
聞いてみると、読み方もきちんと思い出したみたいなので、早速もう一度二人でやってみる。
「では、そら」
ふーむと真剣な表情をした一歳児二人が、じーっと木片を眺める。はっと気づいたジェシが手を伸ばそうとするが、僅差でフェリルがゲットする。にこにこと木片を掲げるフェリルと……。
「ぅー……。うぅ、ひっぐ!!」
泣き出しそうなジェシ。取り敢えず、よく頑張ったフェリルをなでなでと祝福して、ジェシを慰める。
「だいじょうぶ、がんばったから。つぎ、とろうね」
「うー……うぃ」
何とか収まってくれて、こくりと頷く。フェリルはきょとんとしていたが、次はフェリルが泣き出しそうだなと。
では次と言う事で、読み上げた木片をジェシが取ったまでは良かったのだが……。
ぽか。
フェリルがジェシの頭を叩く。何が起こったか分からない様子で呆気に取られていたジェシの顔が見る見るうちに崩れて……。
「え、え、ぶぇーん、ぶぇぇーん」
あぁぁぁぁ、本気で泣き出した。駄目だ、まだ誰かと競争するというルールは理解出来ない。それを判断した私は、一旦フェリルのお母さんにフェリルを預けて、ジェシのお母さんと一緒に本格的に慰め始める。
「つぎはジェシだけであそぼ? まずはジェシからだから」
すんすんと半泣きになったところで提案すると、私が独占出来ると判断したのか、にぱっと良い笑顔を浮かべる。フェリルはフェリルでじたばたしていたが、手をあげたのはフェリルが先なので、フェリルのお母さんが叱っている。その横で、ジェシが嬉しそうに私を独占して遊び始めたので、地団駄を踏んでいるが、がっちりとフェリルのお母さんが離さない。
「いやぁ、今のはうちの娘が悪いからね。三代目はそのまま頑張っとくれ」
若干なおざりな扱いをしてしまっているにも拘らず、フェリルのお母さんは寛大に言ってくれる。ちなみに三代目は母のお父さんから続く、村長の家系の話である。もう私が継ぐのが確定みたいでちょっともやもやするが。
そんな感じで、一回通しで遊んでジェシが満足したら、次はフェリルが遊ぶ。それを何度か繰り返していると、新しい遊びに目敏く気付き、子供達が皆集まる。相手を変えながら、皆が木片を記憶出来るようにじーっと見ているのを確認し、その日は切り上げる。何度かルールを学ぶと言う事を覚えてもらいながら、飽きそうになるまで遊びを繰り返す。
今日も無事皆が覚えたかなというところで、帰宅の時間になり、皆が帰る。夕食の時間には父と今日の出来事を話すが最近はちょっと同じ事が続いて、説明に困る。
「飽きずに皆に何かを教えると言う事。それ自体が素晴らしい行いだ」
若干言葉に困っていると、父がそっと撫でてくれる。
「日々はそう大きく変わる事は無い。目新しい事は誰でも言わずともやるが、慣れて飽きた事を繰り返す、継続と言うな、継続する事は難しい。それを出来るティーダを誇りに思う」
きゅっと抱きしめてくれた父の力強さと、運用の重要性をこの環境で理解しているという凄みに改めて敬意を感じる。
少し張りつめていた糸が緩んだのか、その晩は布団に転がった途端、母が来る前に眠ってしまった。




