第21話 生足、魅惑のお母様
「風のまにまにおわすはテータリー、その儚き思いは、散らされども、なお嵐のようにー」
お母さん方が歌を謡いながら、遠足チックに川に移動する。抱っこ紐に固定された私は、きょろきょろと周囲の確認をする。ふむふむ。下水っぽい設備は無いけど……床が上がっている小屋が汲み取り式の便所なのか。公衆トイレにせず、個別のトイレを態々作っているのは管理を人任せにさせないためというのもあるのかな。それにかなり太い用水路が引かれている。畑はやや低地にしているので、散水も容易と。思った以上に考えられているし、苦労しただろうに手は入れられている。農機具は木製が主……と。せめて金属で補強させて、ついでに重心を前方にさせるだけでも効率は跳ね上がりそうだ。それに、新しい土地を開墾している人を見ても、人力での対応が主だ。馬とは言わないけど、牛なんかの少し大きめの気性の穏やかな哺乳動物をゲット出来れば……。
そんな事を考えていると。母がぷにっと頬をつまむ。
「こーら。くすぐったいよ、ティーダ。お外が珍しいのは分かるけど、大人しくして」
伸び始めた母に似た髪がさらさらと首をくすぐるらしい。ふふっと笑って言っていたが、あまり聞かないと怒られそうなので、大人しくしておく。農作地ゾーンを抜けて、川に到着すると、度肝を抜かれた。
「さぁ、川よ!! 用意するわよ」
お母さん方が、やいやい言いながら、用意するのを尻目に、私はぽかーんと口を開けていた。いや、他の子供達も一緒だろう。だって、対岸が見えない。川って言っても日本の一級河川もあれば御の字と思っていたが、そんなちゃちなレベルじゃない。ふらふらとしながら立ち上がって対岸を見てみたが、水平線に霞んで何も見えない。ちらりと遠くの漁船のマストが見えたが先っぽだけだ。ん? 先っぽ。あ、この世界って惑星なのは確定だ。地球かどうか、時はいつかは未だに謎だけど、少なくとも惑星で重力があるのは確定だろう。ふらふらと尻もちをぽてんとつくと、後ろから声がかかる。
「用意出来たわよ、みんなー」
お母さん方の言葉に後ろを振り向くと、ぎょっとしてしまう。お母さん方というと響きは悪いが二十代後半から三十代を想像してしまう。が、ここのお母さん方は皆若い。中学生から高校生くらいのお嬢さん方が膝上何十センチ辺りで裾をまとめているのは正直目の毒だ。川の煌めきに照らされて、非現実なばかりに幻想的な美の競演になっている。と言っても、この一歳児の体では何も感じないのだが、ちょっと気恥ずかしい。
「ほら、ティーダ、行くわよ」
そっと抱きかかえてくれた母が、声をかけてくれるが、何だか恥ずかしい。
「あら、お熱? どうかしら」
どうも紅潮しているのを体調不良と思われたのか、ぺったりとおでこを付けてくる。
「んー。熱は無いわね。気分は大丈夫かしら?」
「へーき!!」
曇りなきキラキラお目目で、少し見上げるように元気よく告げると、母も納得してくれた。
「じゃあ、脱ぎましょうか」
へ?っと思うまでも無く、上着を万歳の格好でずばりっと勢いよく脱がされた。




