第19話 モテモテ?
「あえはー!?」
ジェシの言葉にそっと木札を差し出す。
「ろーてぃ。鳥!!」
嬉しそうにクルクル回って、木に停まった鳥の方に駆けて行って、ばさーっと飛び立たせている。
「あえ!!」
フェリルの言葉に、執事のようにすっと木札を渡す。
「べべれく!!羊!!」
ててーっと羊にタックルをして、ちょっと嫌な顔をされては、にこにこしている。
私は、こうやって子供達が何か分からない物を聞いてきては木札を渡す、単純な作業を繰り返している。春も終わりに近く、若干じわじわと温度が上がってくる中、自動販売機の気持ちが良く分かる。ちなみに、湿度はあんまり高くないので、風が吹くと涼しい。
「大人気ね」
母が頭を撫でて、水の入った木彫りのカップを渡してくれるので、こくこくと飲み干す。
「たのしそう。よかった」
私もニコニコと返すと、母が感極まったように抱きしめて、頬をすりすりむにゅむにゅしてくる。
「もう……。この子ったら……。他の子が喜ぶのを見て、楽しいなんて……。大人みたい。でも、そこも可愛いわ」
積極的スキンシップの母の攻撃を受けながら、内心冷や汗をたらりと流す。あんまり不審がられないように黒子に徹しないといけないのに、またやってしまった。一歳児は遊んで不満を言うのがお仕事らしいのだが、皆結構しゃんとしているので、そういう風にはなれない。聞いていると、躾の状況を他人に見られる、特に村長に見られると言う事で、家で頑張って教え込んでいるらしい。識字率はそんなに高くないが、きちんと良い意味での自尊心を持ち、向学心は旺盛なのがこの村の人の特徴だ。
「ティーダ、あそぶ?」
珍しく母と一緒にいる所に、ウェルシが声をかけてくる。単語木片で遊ぶようになってから、飽きて中途半端に覚えちゃった子達が文字木片組に合流した。その際に、ウェルシがやっていた先生役が楽しそうと言う事で、交代制になったらしい。と言う訳で、暇なウェルシがこちらにやってきた。
「あら、あら」
母が含みを帯びた笑みで、ずずいと前に押し出すので、こんにちはと挨拶をして、手をつなぐ。
「なにするの?」
聞くと、うーむと少し考えた後。
「ままごと!!」
と返ってくる。うん、この世代の女の子は取り敢えずままごとだ。中々お母さんのお手伝いが出来ない鬱憤を全力全開で叩きつけてくる。にこにこと頷いたが、流石にもう飽きてきた。道具を用意して、いざ始めるという段になって、背後がうすら寒い。ふと振り返ると、ぷんぷん顔の二人がふんすふんす鼻息を荒くしながら、じーっとこちらを見ている。
「みんなでする?」
ウェルシに聞くと、年長さんな彼女は花の咲くような微笑みで、うんと頷いた。




